身は果てても生きる超人「即身仏」を追って、舜義上人になりきった!/松原タニシ超人化計画「即身仏」(1)
松原タニシが人間を超えた存在を目指す「タニシ超人化計画」、第2回のテーマは、土中に自らを入定させて永遠に生きる超人、即身仏だ!
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異色ユニットが、行く先々での怪奇体験を公開する。今回は、タニシによる「即身仏」巡りレポート。実家で即身仏になりそうな田中の動向やいかに?
タニシ 事故物件住みます芸人・松原タニシです。
田中 どうも、オカルトコレクター、田中俊行です。
健太郎 四国の怪談は俺が守る、恐怖新聞健太郎です。
タニシ 前回は健太郎さんの首切峠と田中さんの座敷童子の宿を紹介してもらいましたが、今月は僕が行った即身仏のお寺の紹介をしようと思いまして。(前回はこちら)
健太郎 即身仏! ミイラですよね?
タニシ そうそう、ミイラです。でも厳密に言うとミイラと即身仏には違いがあって、ミイラは死体の内臓を抜き取り、防腐処理を施して埋葬したもので、即身仏は厳しい修行を行った僧侶が自ら地中に生き埋めになってそのまま自然乾燥することで完成したものです。
田中 死んでからミイラにしてもらうか、自分からミイラになるか。
タニシ そうですね。まあでも実際は死んでからミイラになった方が即身仏として祀られてたりもするので曖昧ではあるんですが。
健太郎 へ〜。
タニシ というわけでニコニコ生放送のディレクター木村さんと、YouTuberの悠遠かなたさんと3人で、まずは茨城県桜川市の妙法寺におられます、舜義(しゅんぎ)上人に会ってきました。関東唯一の即身仏です。舜義上人は自ら地中に埋まっていったわけじゃなくて、石棺の中で即身仏になった珍しいタイプなんです。
健太郎 石棺の中?
タニシ そう、舜義上人は阿弥陀仏の形した石棺の中で即身仏になりました。そもそも妙法寺周辺は地面に穴を掘ったら水が出てくる地域らしくて土中入定(にゅうじょう)が無理だったみたいです。入定って言葉は本来、弘法大師空海が永遠の瞑想に入ることを指しますが、後世それにあやかって即身仏になる行為もそう呼ばれるようになりました。
で、土中入定が無理ならと中が空洞になった石像を用意して「3年経ったらこの石仏の蓋を開いて欲しい」と弟子達に言って入定したわけです。即身仏ってのは死後大体3年3ヶ月経ってから掘り起こされてようやく完成するんですね。だけど当時の弟子達は恐れ多くて3年経っても誰も石棺を開けなかった。やがて時が経ち、阿弥陀仏の石像の中に舜義上人が入ってることも忘れちゃったのか、あるいは把握はしてるけど誰も開けようとは思ってなくて、入定してから84年の歳月が経ってその時の住職の夢枕に舜義上人が立って「再びこの世に出て衆生を救済しよう」と言ったので、お寺のみんなで石仏を開けてミイラ化した舜義上人を取り出したわけです。
健太郎 84年かけて完成した即身仏!
田中 40年以上実家にいる僕とはえらい違いやね。
タニシ そうですね……。実際拝観させてもらうと、口を大きく開けている姿が何かを訴えかけているようで迫力がありました。
タニシ 続いて北上しまして、福島県石川郡浅川町の貫秀寺に向かいます。こちらのお寺には弘智法印宥貞(こうちほういんゆうてい)さんがいらっしゃいます。宥貞上人も実は土中入定ではなく、数少ない石棺の中に入定した即身仏で、薬師如来像の中に入ってたんです。早速拝観させてもらおうと予約の電話をすると、
「即身仏様は現在旅に出ておられます」
と言われまして。
田中 え、どういうこと?
タニシ どうやら新潟の博物館に出張展示中らしくて、お寺には居ないとのこと。
田中 表現がセンスあるなぁ。
タニシ 結局福島は寄らず、そのまま山形を目指します。
山形県は(現在見つかっている範囲で)即身仏が一番多い県で、発見されているだけで8体の即身仏がいます。その内の6体が日本海側の庄内地方に固まってるのですが、あいにくこの日は大寒波に見舞われて大雪で通行止め。残り2体が南側の白鷹町と米沢市にあるそうなので、米沢市でこの日は一泊。地元の居酒屋で駅前に1体あるよと聞いたので、翌朝雪の中、駅前にある常信庵を訪ねます。しかしこちらも電話で拝観できるかを尋ねると「今はもうお見せしていないんです」との回答。残念。
タニシ ちなみに常信庵には梅唇尼(ばいしんに)のミイラがあり、この方はなんと源義経に忠節を尽くした義経四天王のうちの二人、佐藤兄弟のお母さんだそうです。
佐藤兄弟は兄の継信(つぐのぶ)が屋島の合戦にて義経に向けて放たれた平教経の弓矢を身代わりになって庇い戦死、弟の忠信(ただのぶ)は頼朝方との戦いの中で義経を逃がし、都にて戦死。そんな佐藤兄弟の菩提を祀るために母である梅唇尼が建てたのが常信庵であり、義経一行が平泉に逃れる途中、佐藤兄弟の供養のために常信庵に立ち寄っていったという言い伝えが残されています。
そして明治の中ごろに常信庵の境内から古い棺が掘り出され、その中から「梅唇尼」と記された女性のミイラが出てきました。ただ、この梅唇尼のミイラは自然に完成されたものなので、厳密に言うと即身仏ではないんです。米沢の本当の即身仏は個人宅で保管されている明海(みょうかい)上人で、また別の場所にあるみたいでした。
健太郎 これがミイラと即身仏の違いですね。
タニシ さて続いてもう一つの即身仏、白鷹町の蔵高院にいらっしゃる光明海(こうみょうかい)上人に会いに行きます。
光明海上人は若い頃、百発百中の腕前を持つ猟師で、自分の凄さに神秘を感じて行者になった人です。「百年たったら掘りだしてくれ」と言って土中入定し、その後光明海上人が埋まっている集落は消滅。124年経った昭和53年に隣町である白鷹町の町おこしの一環で光明海上人は掘り起こされました。
蔵高院は完全に積もった雪道の先にあり、現地まで行くのはなかなか大変でしたが、普段は下のお寺にいる、40代の住職が快く迎え入れてくれました。
この住職がかなりフランクな方で、結構いろいろ話してくださいましたね。お寺にカモシカが入ってきた話や、窓の外に小熊が居た話とか。
田中 野生動物こわ。
タニシ あと、特別に延命地蔵の間で不思議な体験をさせてもらいました。まずこの延命地蔵自体が不思議な地蔵で、その昔夜な夜なお寺からいなくなっていたらしいんですけど、ある夜お寺の近くで辻斬りが現れた際にこの地蔵が身代わりになって斬られたとのことで、その時の刀傷も実際に残っていて、以来延命地蔵として大事にされてるそうです。その延命地蔵の間の真ん中で柏手を打つと、ジ〜ンと反響するんですが、少しでもズレちゃうと反響しない。また、その空間にいる人数が多くても反響しない。実際こういった現象はお堂の構造上の理由から反響が生まれることもあるそうですが、この蔵高院の作りからしたら有り得ないそうで、なんとも不思議な体験でした。
健太郎 やっぱり現場に行くと不思議な話が集まるもんなんですね。
タニシ 最後は宮城県白石市の萬蔵稲荷神社。この神社に祀られていた即身仏は金剛院祐観(こんごういんゆうかん)さん。地元では「萬蔵さん」と呼ばれています。萬蔵さんは神社近くの上戸沢集落に生まれ、小坂峠で馬方の仕事をしながら山頂のお稲荷様へのお供物を欠かさずに持って行く生活をしていましたが、ある夜、峠にさしかかった場所で雪に閉じ込められてしまいます。そこへ突然現れた老人が「私は稲荷神社の化身である。君は信心深くて偉いね」と言って、礼として三頭の馬をプレゼントしたそうです。萬蔵さんはその馬を売ってここに賀良明貴(がらみき)稲荷神社を建てました。それがのちの萬蔵稲荷神社で、その後萬蔵さんは出羽三山に行って修行し、もの凄い霊力を身につけて空を飛んでいると噂されたり雨乞いで干ばつから村を救ったりしながら生涯を神仏の信奉と社会奉仕に捧げ、「大阿闇梨金剛院祐観」の院号を受けて最後には即身仏となりました。
以来、その即身仏は子孫が代々の宮司を務める萬蔵稲荷神社に安置されていましたが、大正時代に学術研究の資料として何回か貸し出されたあと、騙されて見せ物に持ち出され、そのまま行方不明となってしまいます。神社には現在2枚の古ぼけた白黒写真が残るのみとなっています。
田中 え、じゃあ即身仏は見れんかったんや。
健太郎 騙されて行方不明ってひどいですね。
タニシ そうなんです。ただ、雪の中何本も連なる鳥居のトンネルはなかなかの光景でした。それだけ地元から厚い信仰があるってことなんでしょうね。
田中 そうか、この萬蔵稲荷神社行ってからタニシくんは帰って、そのあと僕が木村さん達と合流したってことやね。
タニシ そうです。そして本来なら田中さんもこの即身仏ツアーに来るはずだったんですよ。
健太郎 え、なんで田中さん行かなかったんですか?
田中 30時間遅刻してん。
健太郎 あ!
タニシ そう。前回で言ってたやつです。
田中 このあと僕は座敷童子の宿に行って、モテモテになります。
健太郎 まさかの二部構成。
田中 気になる方は先月の記事も見てね。
松原タニシ
心理的瑕疵のある物件に住み、その生活をレポートする“事故物件住みます芸人”。死と生活が隣接しつづけることで死生観がバグっている。著書『恐い間取り』『恐い旅』『死る旅』で累計33万部突破している。
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