「不本意な空中浮揚者」アビラのテレサの苦悩とは? 抵抗しても体が浮かぶカトリック聖女
自分が起こしてしまう“奇跡”をなるべく知られないようひた隠しにしていた聖女とは――。空中に浮き上がろうとする身体を周囲にしがみついて必死に抗っていたのが16世紀の聖女「アビラのテレサ」である。
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初代天皇をいかに描くか? 明治維新により、その姿は国家的な目的への合致を自然と迫られることになったのだが……。
膨大な日本神話の神々のうちでも、神話が「国史」となった明治以後にとりわけ重視されたのが、初代天皇とされる神武天皇だ。
徳川将軍にかえて天皇を国家の中心に据え直した明治新政府にとって、神武天皇は天皇統治の正統性を担保する要ともいえる存在だった。それは大日本帝国憲法の第一章第一条「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」にも端的に表されている。
そんなわけで、神武天皇を描いた図版は明治以降爆発的に増加している。とくに神武天皇が宿敵ナガスネヒコを倒し橿原での即位を決定づけた瞬間、神武東征のクライマックスシーンともいえる弓先に金鵄をとめた構図は、神武天皇図のフォーマットとして現在まで継承されている(それだけ「映える」構図でもあるのだ)。
しかし、神武天皇も他の例にもれず、フォーマットが固定するまでにはさまざまなバリエーションがあったのである。

確認できる神武天皇の最古級の絵は、江戸前期、17世紀後半に描かれた浄瑠璃の挿絵で、そこには大鎧風の甲冑を身にまとう若武者然とした神武天皇(いわれびこ)の姿がみられる。

下の図は出雲大社に集まった神々を描いた「大社結縁図」。じつはそれぞれの神が人気役者の顔になっているという似顔絵なのだが、ここでの神武天皇は右手に鏡、左手に玉、腰には刀と「三種の神器」を携えた公家風装束であらわされている。天皇であることを示すのに三種の神器をつかうギミックは興味深く、玉が勾玉ではなく仏教的な宝珠になっている点にも時代性が感じられておもしろい。

下図は「和漢忠孝八十人一首」という変わり百人一首の冒頭に描かれた神武天皇。ヒゲだらけの戦国武将のような面立ちだが、その衣装は江戸時代まで天皇が重要儀式の際に用いた袞衣になっており、前図同様アイテムによって天皇であることが示される仕掛けになっている。

なかには下の神像図のように、現在の神武天皇のイメージとはあまりにかけ離れた図版も流通していたのである。

そして明治中期、画期的な神武天皇像が生み出される。それは、神武天皇の顔を明治天皇の顔に描くというものだ。

このメソッドの発明者は、帝室技芸員をもつとめた明治を代表する彫刻家、竹内久一。明治23年、神武天皇の木像を制作することになった竹内はその顔の造形に悩み抜き、ある日天啓のようにひらめいたのが「今の陛下のお顔を借りよう」とのアイディアだったのだという。
初代と当代の天皇を直接結びつけるというあまりにうまいアイディアはその後他の作家たちから多用されることになり、どうみても明治天皇顔の神武天皇が数多く世に溢れることになった。
それこそが、大日本帝国が求めた神武天皇像の完成形であったのかもしれない。

さまざまな神々、神話の図版を絵巻のように縦覧してきたが、その描かれ方はどれも永遠不変ではなく、それぞれに紆余曲折、変遷があったことがおわかりいただけただろうか。
今ではヤタガラスの足が3本でなければ訝しがられるように、現在は神話にも「正解」が求められがち。しかし神話は本来豊かな想像力の世界であり、多様な解釈とさまざまな造形が許されてこそ真の魅力を発揮するものだ。
そうした自由さ、ダイバーシティのなかにおいて、神々はより光り輝くといえるではないだろうか。
(画像キャプションに所蔵表記のないものは国立国会図書館デジタルコレクションより)
鹿角崇彦
古文献リサーチ系ライター。天皇陵からローカルな皇族伝説、天皇が登場するマンガ作品まで天皇にまつわることを全方位的に探求する「ミサンザイ」代表。
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