『WILD HALF』執筆中に心霊体験続発! 漫画家・浅美裕子インタビュー

取材・文=山内貴範 協力=浅美裕子、岡野剛、真倉翔、集英社

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    「週刊少年ジャンプ」で『WILD HALF』を連載した浅美裕子氏は、新人時代に、『地獄先生ぬ~べ~』の岡野剛氏のもとでアシスタントを務めていた。その際、他のアシスタントを巻き込んで、数々の心霊現象を体験したという。 今回は、漫画制作の現場に恐怖をもたらした、浅美氏へのインタビューが実現! 岡野氏が「怪奇現象の元凶は浅美先生です!」と名指しするほどの、恐怖体験とはいかなるものなのか? 連載中に起こった出来事を、徹底的に深掘りしてうかがった。

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    浅美裕子(あさみ・ゆうこ)
    1966年、埼玉県出身。1991年、『週刊少年ジャンプ』で『天より高く!』を初連載。1996年から連載開始した『WILD HALF』がヒットし、代表作となる。猫3匹と生活する愛猫家でもあり、近年は同人誌で猫漫画『猫またハイロ』を描いている。『地獄先生ぬ~べ~』の初期のチーフアシスタントとして、岡野剛氏の連載を支えていた。
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    主人公のサルサが登場する『WILD HALF』の記念すべき連載第1話。漫画の内容からは想像できないが、制作の現場では数々の心霊現象との戦いが繰り広げられていたのだ!

    幽霊に動じていられない執筆現場

    ――今回は、岡野剛先生の熱烈な推薦(?)で浅美裕子先生にご登場いただきました。岡野先生によれば浅美先生はとても霊感が強く、職場で数々の心霊体験をしたそうですが。(こちらの記事を参照
    浅美:え~と、岡野先生はそう言いますけど、私は自分では霊感がないと思っているんですよね(笑)。
    ――ええっ!? でも、数多くの霊を見たとうかがいましたけど…?
    浅美:だって漫画みたいなドラマチックな経験や、神様に会ったこともないので。この取材、本当に私が対象でいいんですかね(笑)?
    ――いえいえ、ぜひ浅美先生に、心霊体験を詳しく語っていただきたいです。
    浅美:私が岡野先生のもとでアシスタントをしていたのは1年半ちょっとの期間でしたが、その間に仕事場が1回変わっています。最初の仕事場では、窓にべた~っと貼りついている女性を見たんです。部屋にあったガラス戸付きの本棚にも、女性の顔が映っていたことがありましたね。当時、私は泊まり込みでアシスタントをしていました。仮眠のとき、岡野先生は二段ベッドの上を貸してくれたんですけど、ベッドの縁に懸垂しているようにぶら下がる女の子の霊がいたこともあります。
    ――十分な心霊現象ですよ、それは! 霊感がないとは思えないんですけど……。その仕事場の建物は古かったとか、霊が出そうな環境だったのでしょうか。
    浅美:いえ、築10~20年くらいの建物なので、そこまで古くはないですね。ただ、どの女の人も続けて出なかったので、アパートが霊の通り道のようになっていて、通りすがりに現れたのかなと。あと、今思えば、連載がとにかくハードだったので、見えないものが見えちゃったのかなとも思います。
    ――鳥山明氏も『Dr.スランプ』の連載中に、ペン入れをした記憶がない話があると語っていますが、『ぬ~べ~』の現場も〆切前は相当な修羅場だったのでしょうか。
    浅美:岡野先生は当時、奥さんと結婚されたばかりで、サラリーマンと兼業しながら週刊連載をしていました。漫画家って、連載が打ち切られると仕事がなくなっちゃいますから、3年ほど兼業していたらしいですよ。朝起きたら岡野先生が出勤したあとで、机にペン入れをしたばかりの原稿が置かれているような状態でした。
    ――岡野先生、超人ですね(笑)。アシスタントの皆さんの苦労がわかります。それほど忙しい中、ベッドで女の子の霊が現れたらゆっくり寝ていられなかったのでは?
    浅美:疲れをとることが最優先ですから、すぐ寝ていました。〆切が毎週やってきますから、原稿を仕上げるのに必死で、女の子の霊なんか見ても「知るか~~~!!」という感じでしたね(笑)。はっきり言って、岡野先生が朝にいないほうが“怖かった”ですよ(笑)。
    ――霊より〆切の方が怖い、と(笑)。
    浅美:〆切と比べたら、霊なんて、頬を撫でるそよ風みたいなものです。その後、『ぬ~べ~』の人気が上がってさらに忙しくなったので、別の広い仕事場に移ったんです。すると、今度は隣の部屋から“壁ドン”の音が何度も響いてきました。力強かったので、おそらく男性のようでした。さすがにうるさいので、岡野先生に「隣人がうるさいって、大家さんに苦情を入れてくださいよ!」と話したんです。すると、大家さんが「えっ、隣は空き室ですけど?」と言ったらしいんですね。さすがに怖くなって、アシスタントのみんなで盛り塩をして寝たら、朝に手で払ったみたいに盛り塩が崩れていたんです。

    人形が、泣く

    ――仕事場を移しても、そんなことが起きるとは……
    浅美:他にはこんな事件もあります。仕事場の近所の方が、岡野先生のお子さんにお人形をお下がりでくださったんです。材質がセルロイドの、赤ん坊の人形。でも、お子さんがなぜか嫌がるというので、仕事場に持ってきていたんですよ。この人形、アシスタント全員が怖がるんです。これまでの怪奇現象は、「何も見えない」人と、「見える」人ではっきり分かれていましたが、この人形だけは全員の意見が一致しました。ちょっとこれはやばいなと思って、視界に入らない棚の上に置いていたら、いきなり夜中にドンと落ちたんですよ。恐る恐る見に行ったら、目の下に泣いたような跡がついていて……
    ――ひえ~っ! 人形はその後、供養などはされたんですか?
    浅美:さすがに置いておけなくなったので、妹にあげたんですよ。ちょうど子どもが生まれたばかりでしたからね。でも、子どもも気味悪く感じたのか、遊ばなくなったらしく、後はほったらかしです。その後、人形は行方不明ですが、供養をすればよかったなあと思います。

    『WILD HALF』はサルサを筆頭に、人の姿に変身できる“獣人族”が活躍する漫画だ。今回は心霊体験のインタビューが盛り上がって聞きそびれてしまったが、浅美氏が獣人族を描こうと考えた背景も気になるところだ。

    ――そして、岡野先生から、浅美先生はご実家でもたびたび霊を目撃されていると伺いました。
    浅美:はい。まず、実家の廊下で、黒いズボンと黒い靴下を履いた男性を見たことがあります。あと、私がジャンプで『WILD HALF』の連載を始めてからは、実家にアシスタントを呼んで原稿をしていました。すると、アシスタントまでもが、次々に怪奇現象に遭遇するようになったんです。
    ――見事に巻き込んでしまっていますね。
    浅美:夜中に原稿をしていると、誰もいないお風呂から、ザーとか、ジャバーン!と音がすることがありました。5人のアシスタントのうち、確か2人くらいが聞いていたかな。あと、子どもの霊が出る部屋もありました。
    ――サラッと怖いことをおっしゃいますね(笑)。
    浅美:女性のアシスタントにその部屋に寝てもらったら、霊に布団に手を突っ込まれ、肩を掴まれたそうです。ほかには、玄関のガラスの外にのっぺらぼうの真っ白な人を2~3回は見ましたし、台所からは謎の煙がもくもくと立ち上っていたこともありました。
    ――ありとあらゆる怪奇現象のオンパレードですね。普通なら気が休まらないと思いますが、耐え抜いた浅美先生とアシスタントの皆さんは凄い。そんなご自宅を、岡野先生が訪れたこともあるとか。
    浅美:岡野先生には、私の連載『天より高く!』の頃に手伝っていただいたことがあります。でも、岡野先生は最後まで霊を見るなどの体験はしなかったですね。私の職場はアシスタントが女性3:男性2くらいの比率でしたが、明らかに女性の方が霊を見る感度が高かったように思います。

    おまえが災いを呼ぶ……これまでサルサは人間から化け物扱いされてきたと話す。ちなみに、岡野氏は「浅美氏が霊を呼んだ元凶ですね」と話していたが、このサルサに少し浅美氏のイメージを重ね合わせてしまうのは、インタビュアーだけだろうか。

    「おとないさん」

    ――あと、真倉先生によれば、『ぬ~べ~』に登場する妖怪“おとないさん”は、浅美先生から聞いた話をもとにしているそうですね。
    浅美:おとないさんって、私がどこかで聞いて知っていた霊なんですよ。詳しくは『ぬ~べ~』で描かれた通りなんですが、「ドアを開けっぱなしにしておくと、おとないさんが通るよ」という話です。職場で話をしたら、数週間後くらいに使われていました(笑)。

    杉浦日向子 『百物語』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/114913/

    猫の獣人族のミレイは、サルサが初めて出会った獣人族。ミレイや王牙をはじめとする、人と動物を融合させた浅美氏のキャラクターデザインは新鮮だった。

    霊が”見えるようになる”状態

    ――浅美先生は、なぜ、ここまでの怪奇現象が自分の周囲で起こったと考えていますか。
    浅美:私の持論としては、心霊現象は物理的なものではなく、脳のバグだと思っています。それを引き起こすのは、場所とか、雰囲気とか、電波とか、様々なものだと思うのですが、私の場合は、『ぬ~べ~』という作品が生み出していたのではないかと思います(笑)。あとは、〆切で切羽詰まった現場で見た、一種の集団幻覚だったのではないかとも考えていますね。
    ――過酷な制作現場と作品のテーマが影響していた……? 現在、浅美先生は霊を見ることはあるんですか。
    浅美:街を歩いているとき、顔の周りに白い靄が出ている人を見たくらいかな。以前と比べたら、この10年はほとんど何も見なくなりました。一度、漫画家をやめて、会社勤めをしたことがあるんです。すると、気持ちが落ち着いたのか、頭がしゃっきりしてきました。仕事に追われてメンタルが不安定だと、霊を見やすくなるのかもしれませんね。
    ――霊が出現するのではなく、霊が見えるようになっている、ということですね。
    浅美:そうかもしれません。私が体験したことって、不思議なことばかりですが、世の中って説明できないことばかりですよね。昔でいう地動説のようなもので、今はオカルト扱いされている現象も、将来は誰かが説明できるようになるかもしれません。あの心霊現象は何だったのか、知りたいですね。

    浅美氏が執筆した同人誌『猫またハイロ』。会社員勤めを経験した後に描いた作品で、心霊現象も経験せずに描けたと話す。『WILD HALF』は犬だったが、今回は猫だ。しかしながら、登場するのは日本の妖怪・猫又である。浅美氏は、霊や妖怪と接点を持たずにいられないのだろうか……?

    こっくりさんは、やっちゃダメ!

    ――多くの体験を語っていただきましたが、ムー読者だと「霊が見たい」という方も多いです。
    浅美:……こっくりさんは、やっちゃダメですよ。
    ――いきなり、こっくりさんの話ですか!
    浅美:こっくりさんって、思春期の頃、さみしさを感じたり、自己肯定感が低いとやっちゃうと思うんです。私も14歳のころ、友達と一緒にやったことがあります。その後、一度はやめたのですが、すっかりやったことを忘れていたら、半年くらいして突然、手が勝手に動いて、いろいろ語ってくれるようになったのです。動く手に質問をすると、空中に字を書いて答えるんですよ。当時、手が動くこととこっくりさんの因果関係は知らなかったのですが、霊能者の人に話したら、「手が動くのは一年前のこっくりさんがまだ帰っていないせいだよ。だからすぐに、お稲荷さんに謝りに行くように」と言われて衝撃を受けました。そして、神社に行ったらおさまりました。今も赤い鳥居にトラウマがあるのですが、そのとき一緒にいた友達のほうにもいろいろなことが、自分より強く出ましたが、まぁそれは別の機会にでも……。
    とにかく、こっくりさんは怖いです! 禁止!!

    インタビュー中にサラサラッと色紙を描き上げてくださった浅美氏。この色紙を描きながら怪奇現象の話をしていた。

    webムー編集部

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