分断の時代こそ読むべき巨匠2人による問題作! 子どもだけではなく大人にもトラウマを植え付ける絵本

構成=伊藤綾 編集=千駄木雄大

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    いま密かに話題の古書店「書肆ゲンシシャ」の店主・藤井慎二氏が、同店の所蔵する珍奇で奇妙なコレクションの数々を紹介!

    「驚異の陳列室」を標榜し、写真集や画集、書籍をはじめ、5000点以上にも及ぶ奇妙なコレクションを所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。

     まるで、温泉街には似つかない雰囲気だが、SNS投稿などで同店のコレクションが話題を呼んでいる。その奇妙さに惹かれ、九州のみならず全国からサブカルキッズたちが訪れる、別府の新たな観光スポットになった。

     知覚の扉を開くと、そこは異次元の世界……。ようこそ、書肆ゲンシシャへ。

    子どものケンカが戦争に発展!? 伝播する対立

    ――前回に引き続き、変わった児童書・絵本というテーマで紹介してもらいます。

    藤井慎二(以下、藤井)  前回の記事では佐野美津男さんによる児童文学のカルト的作品『ピカピカのぎろちょん』(復刊ドットコム)を紹介しましたが、佐野さんと双璧を成すシュール系作家といわれる大海赫さんの『ビビを見た!』(復刊ドットコム)もオススメです。「トラウマ絵本」としてはもっとも有名な作品かもしれません。

    『ビビを見た!』(復刊ドットコム)

    ――この2人、そんなにファンがいるのでしょうか?

    藤井  『ピカピカのぎろちょん』の巻末にある児童文学評論家、赤木かん子さんの解説によると、2人は「シュールのキング」であり、「圧倒的に女性が多い〈中略〉児童文学の世界ではシュールは歩(ママ)が悪く、支持されなかったんですよ~」とあります。ただ、大海さんの作品もどんどん復刻されているため、やはり一部界隈では相当な人気があるのでしょう。

    ――あまり詳しくないのですが、大海さんの名前で画像検索すると、子ども向けとは思えないタッチの絵がたくさん出てきます。

    藤井  『ビビを見た!』は緑色の少女ビビが登場する話なのですが、説明が難しい不思議なあらすじなので、ぜひゲンシシャで手に取ってみてください。

    ――そんな……。

    藤井  読んでみればその意味がわかりますよ。次に筒井康隆✕永井豪による『三丁目が戦争です』(スローガン)を紹介しましょう。

    『三丁目が戦争です』(スローガン)

    ――新年早々『100分de筒井康隆』(NHK)が放送されるなど、90歳を超えた今も人気作家です。私もツツイストなので本作はもちろん知っていますが、永井豪が挿絵を描いたバージョンは読んだことがありませんでした。

    藤井  この巨匠2人による絵本は過去にも何度か復刻されており、昨年7月にも「日本絵本史上に輝く傑作」として復刻されました。

    ――なるほど。「分断の時代」だからこそ、読まれるべき絵本なのかもしれません。

    藤井  そうですね。本作は団地の子どもたちと一戸建ての子どもたちが公園で争っているうちに、親たちも巻き込まれ、次第にグロテスクな戦争に発展していくというストーリーです。眼球がおにぎりにめり込んだり、母親たちの首や手足がとれたりします。ゲンシシャには1971年に発売された箱付きの初版があるため、ぜひこちらも読んでほしいです。

    ――「軽い気持ちで読むと後悔する児童書ナンバーワン」とでもいうべきか……。

    藤井  永井豪さんの絵は泣き顔もかわいらしいですよね。本作の最後には「戦争はんたい」と明確なメッセージが書かれています。

    ――表紙だけ見ると、男子小学生が好きそうなギャグっぽいコミカルな雰囲気のため、当時「SFかな? ちょっとエッチなのかな?」と思って読んで、トラウマになった子どもは多そうですね。

    強烈な情念を感じる「虐待」がテーマの絵本

    藤井  2003年に出版された『わかってほしい』(クレヨンハウス)も、今回のテーマでは外せません。

    『わかってほしい』(クレヨンハウス)

    ――「赤い表紙」に「クマのぬいぐるみ」とかわいらしい要素が2つも揃っているはずなのに、なんだか強いメッセージ性を感じさせます。一体これはどんな絵本なのでしょうか?

    藤井  親から虐待を受けていたMOMOさんという女性が作者で、親への思いを赤裸々に綴った内容になっています。虐待について多くの人に知ってほしいという想いが込められた作品で、作者は「傷ついたり悩んでいるひとに、そして自分は虐待とは関係ないと思っている大人にも見てほしい」と語っています。不穏な言葉とボロボロになっていくクマのぬいぐるみの絵が続きます。

    ――母親と子どものための絵本と、オーガニック食材のイメージが強いクレヨンハウスが、こんなにも情念の強い作品を出していたとは……。

    藤井  「親子関係」ですからね。本作はゲンシシャにもありましたが、昨年お買い上げいただいたため、今は雑誌「月刊クーヨン」(クレヨンハウス)の付録で付いてきたソフトカバー版をご覧になれます。

    ――「クーヨン」は子育て中の母親たちが読む雑誌です。やはり、版元の並々ならぬ思いを感じさせますね。

    『指で見る』(偕成社)

    藤井  最後にトーマス・ベリイマンという写真家の児童書シリーズから、1977年に出版された『指で見る』(偕成社)を紹介しましょう。彼はさまざまな障がいを持つ人々を被写体にした写真集を出しています。本作は目の不自由な子どもたちがテーマです。

    ――この写真集は今でも定価で購入できるようですね。

    藤井  昔は学校の図書室にも置かれていたようです。ほかにも彼のシリーズには、腕や足がない子どもを写した『なぜ、目をつぶるの?』(偕成社)という写真集もあり、こちらもぜひ読んでほしいですね。

    書肆ゲンシシャ

    大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜し、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1時間1,000円で、紅茶かジュースを1杯飲みながら、それらを閲覧できる。
    所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
    http://www.genshisha.jp

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