京極夏彦 × 石黒亜矢子が稲生物怪録を絵本にした!「もののけdiary」
稲生物怪録が絵本に!
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取材・文=山内貴範 取材協力=ユキヲ、COMICメテオ編集部
連載開始9周年を迎え、アニメの3期の製作が決定した大人気漫画『邪神ちゃんドロップキック』。実はこの漫画、至る所に「ムー」的な要素が散りばめられた作品なのである。随所にみられるネタからは、作者のユキヲ氏のオカルトに対する造詣の深さが感じられる。 そのディープな世界観を、ユキヲ氏へのインタビューで解剖してみた!
――ユキヲ先生の漫画にみられる細かいオカルト的な設定から、きっとこの方は「ムー」を熱心に読まれているんじゃないかなと思っていましたが……実際、「ムー」の熱心な読者なんですね。
ユキヲ:小学生の頃から読んでいました。親が学研の『科学』を買ってくれていたので、その流れで読み始めた感じですね。小学校5~6年のころに読んだ、「ムー」の首都直下大地震の特集はかなり印象に残っています。
――首都直下型地震は、90年代にはよく語られていたトピックですね。
ユキヲ:関東大震災発生から70周年という、タイミングもあったのでしょうか。児童向け雑誌にも特集が載っていたくらいです。ほかにも、学研のジュニアコースシリーズの「もしもの世界」という特集では、地球上の空気が無くなる話や、核戦争が起こった世界の話などが取り上げられていて、子ども心ながらに怖かった記憶があります。
――ユキヲ先生のように、子ども時代に「ムー」を読み始めた方が現在の読者層にも多くいるんです。
ユキヲ:どうして子どもだった自分が「ムー」を面白いと感じたのか、考えてみたんです。当時はまだ、今ほど科学が発展していませんでしたし、世に出ている情報も少なかった。そんな中で、科学とオカルトのギリギリを攻めてくる感じが、楽しめたんじゃないかなと思います。そして、今でも科学で解明できないものってたくさんありますから、「ムー」に引きつけられる人が世代を超えて多いのにも、納得がいきます。
――これまで、「ムー」で印象深かった記事はありますか?
ユキヲ:なんといっても、ノストラダムスの大予言です。学生だった90年代に、いちばん注目しました。近年だと、アヌンナキの話が興味をそそられました。人類は異星人によって創造され、『旧約聖書』などの過去の文献にはその片鱗が残されている……というものです。もともと、『旧約聖書』絡みの記事は読んでいるのですが、「ムー」の特集は特に創造力を掻き立てられました。
――クリエイターの立場から、ユキヲ先生が「ムー」を魅力的に感じるポイントって、どこにありますか?
ユキヲ:「ムー」特有の文章のまとめ方に惹かれるんですよ。「ノストラダムス」の記事を例にすれば、「1999年に恐怖の大王がやってくる!」と冒頭で恐怖心を煽っておきながら、最後には救いがあるオチで締めているんです。ノストラダムスの予言には、1999年の後の時代についての予言もある……ということは、まだまだ未来が続くだろうと希望がもてますよね。こういった好奇心をチクチクと突いてくる記事は、たまりませんね。
――「ムー」を読み始める前から、オカルト的なものに興味はお持ちでしたか。
ユキヲ:子どもの頃、親に連れられて奈良の高松塚古墳や埼玉のさきたま古墳群を見に行っていたので、考古学者になりたかったんです。その後、『猿の惑星』などのSF映画や、「ムー」の「ダーウィンの進化論は嘘だった」という特集、人類の空白の10万年間のうちに遺伝子操作が行われた…という仮説などを知るうちに、宇宙考古学に興味をもつようになりました。特に、古代宇宙飛行士説は、『邪神ちゃんドロップキック』のアイデアのもとになっています。
――ここで、『邪神ちゃん』の話に繋がりましたね(笑)。
ユキヲ:古代宇宙飛行士説には聖書に出てくる神様はもともと異星人であり、その文明が優れているため、人間が神として崇めたという考えがあります。そして、敵対組織の異星人が悪魔で、人間に利をもたらした方が天使側とされています。天使・悪魔・人間が共存している邪神ちゃんの世界観は、ここからきているんですよ。
――『邪神ちゃん』の世界観にそんな深いテーマがあったとは…
ユキヲ:ガチガチなオカルトチックな漫画にしてしまうと読みにくいので(笑)、自分の好みを適度に入れつつ、コメディタッチにしていますけれどね。
――作中にも「ムー」の影響は出ているのでしょうか。
ユキヲ:というより、出てくるキャラクターのほとんどが「ムー」ですね(笑)。好きで描いている漫画なので、細かい設定をたくさん盛り込んでいます。例えば、邪神ちゃんは上半身が裸で下半身が蛇という姿なのですが、これは『旧約聖書』に「人間を惑わせた悪魔は蛇」と書かれているためです。『クトゥルフ神話』に出てくるような邪神ではなく、ヨコシマな性格で人間をそそのかす方の神ですね。
――邪神ちゃんってギャルっぽい見た目ですが、数千〜数万歳ですよね。ミノタウロスのミノスは大正時代まで日本にあった「浅草十二階」を見学したと言っていますし、主要な登場人物はかなり年齢を重ねています。
ユキヲ:ノアの箱舟の大洪水が起こる以前は、地球の重力が遥かに軽かったといわれています。環境が異なっていたので、現在と寿命が違ったという説があるんですよ。邪神ちゃんに限らず、作中の悪魔や天使が長生きという設定もここからきています。
――ミノスやメデューサの設定も、神話から引用しているのでしょうか。
ユキヲ:ミノスは、ギリシア神話に出てくる迷宮「ラビリントス」のミノスの設定を元にしています。メデューサは「なんでエジプト風の衣装なの?」と聞かれることがあるのですが、設定のベースになったのがクレオパトラを殺した蛇だからです。あと、僕は「前世はエジプトで生まれていたんじゃないかな?」と思うくらい、エジプトが好きなんです。
――「ムー」でもエジプトの文明は何度か特集されています。
ユキヲ:ピラミッドも謎だらけですよね。あれだけの建造物を造ることができたのは、重力で岩を持ち上げたという説や、はたまた巨人がいたからともいわれます。かつて、スフィンクスは2体いたという説もありますよね。
――以前に取材した伊藤いづも先生の『まちカドまぞく』にも、様々な神々が登場していますが、『邪神ちゃん』に登場する神々や妖怪も、古今東西、実に多彩ですね。
ユキヲ:ペルセポネ1世はギリシア神話に登場する神ですし、キョンキョンとランランはキョンシーがベースですね。確か90年代の「ムー」にキョンシーの記事が出ていて、お札の書き方も載ってましたよ(笑)。
――日本の妖怪がベースになっているキャラクターも登場します。
ユキヲ:遊佐ですね。彼女は雪女です。最近も河童のキャラクターを登場させていますが、僕は日本の妖怪も好きで、『水木しげるの妖怪図鑑』も買っていましたし、『ゲゲゲの鬼太郎』も大好きなんですよ。
――あと、『邪神ちゃん』の作中には小さなネタがいろいろありますよね。
ユキヲ:例えば、邪神ちゃんは趣味でUMAのガチャを集めているのですが、その資料に使ったのは「ムー」のUMAの特集本だったりします(笑)。
――これまでのお話を伺っていると、「ムー」はユキヲ先生のアイディアの源と言っていいのではないでしょうか。
ユキヲ:「ムー」って、クリエイターの人が読んだら、空想力を掻き立てられると思うんですよ。自分だったらこうするなとか、もしかしたらこんな未来があるんじゃないか……と話を膨らませる訓練になると思います。僕が漫画家になることができたのは、「ムー」で訓練されたおかげかもしれませんね。
――『邪神ちゃん』にはオカルトネタが多いですし、邪神ちゃんが切断されたり刺されたりする残酷なシーンも多いのに、コメディ漫画として成り立っているのが驚きです。
ユキヲ:邪神ちゃんが悪魔という設定が大きいのではないでしょうか。悪魔ですから、切り刻まれてもすぐに復活できますし。あとは、ギャグを組み合わせることで、残虐性がうまい具合に和らいでいるのではないかと思います。
――連載も8年目に突入しました。ユキヲ先生が細かい設定まで徹底的に作り込んでいることが、読者を飽きさせない要因だと思います。新キャラクターも続々登場しますし、今後の展開も楽しみですね。
ユキヲ:おかげさまで2022年にはアニメの3期の放映が決まっていますし、10周年まで続けたいなと思って描いています。まだ描き切れていないキャラクターの設定もありますし、ここでお話したいネタもたくさんあるのですが、みなさんの想像の余地が無くなってしまうので……いったん秘密にしておきたいと思います。
――最後に「ムー」読者の方にメッセージをいただければ。
ユキヲ:好奇心あっての人間だと思います。そして、それをくすぐってくれる「ムー」は最高です。漫画家志望の人は設定を作るのに役立つと思いますし、アイディアの題材としても優れていると思います。ぜひ、好奇心を鍛えるためにもムーを読みましょう(笑)。
――漫画家を目指す人は「ムー」は必携ということですね! 漫画の専門学校などで、教材にならないかな(笑)。今日は本当にありがとうございました。
webムー編集部
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