宇宙線は微生物のエネルギー源になると判明! 太陽系内に地球外生命体が存在する可能性がますます高まる

文=仲田しんじ

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    新たな研究によって、宇宙線が惑星の地下水を生命エネルギーの原料に分解できることが判明。他惑星に生命が存在する可能性が、かつてないほど高まっている!

    ハビタブルゾーンにいなくても

     今のところ人類は(公式には)地球外生命体を発見できずにいるが、地下に着目することで生命探査の可能性が広がるかもしれない。

     太陽系外からやってくる高エネルギー粒子である銀河宇宙線(Galactic cosmic rays、GCR)は理論上、特定の極寒の惑星において“生命のエネルギー源”となる可能性があることが新たな研究で示唆されている。

     ニューヨーク大学アブダビ校をはじめとする合同研究チームが今年7月に学術誌「International Journal of Astrobiology」で発表した研究によると、銀河宇宙線は地下で化学反応を引き起こし、その生成物が微生物の生存を支えるという。この研究結果によって、これまで生命の居住が不可能と考えられていた天体にも生命が存在する可能性が生じてきた。

     従来の地球外生命探査において、天文学者たちは基本的に恒星の「ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)」内にある惑星を対象にしてきた。もちろん地球も太陽系のハビタブルゾーン内に位置している。しかし、研究チームの宇宙生物学者ディミトラ・アトリ氏はハビタブルゾーンの考えをいったん脇に置き、地球の極限環境生物に着目した。

     たとえば地下3キロメートルで発見された細菌「カンディダトゥス・デスルフォルディス・アウダクスビアトール」は、放射線分解と呼ばれる化学反応の生成物を摂取して生きることができる。水分子がさまざまな成分に分解され、そのうちの一つが細菌の栄養源となっているのだ。

    カンディダトゥス・デスルフォルディス・アウダクスビアトール 画像は「Wikipedia」より

     一般的に、放射線は生物にとって細胞損傷やがんなどの有害な影響でも知られている。そのため多くの生物は、太陽からの低エネルギー放射線にさらされると日焼け(メラニン生成)するなど、放射線に対する防御機構を具えている。しかし、今回の研究で特殊な生命において放射線はむしろ有益である可能性が示唆されることになった。

    地下に生命を宿しやすい太陽系の惑星

     アトリ氏らは、ほかの惑星において銀河宇宙線の放射線分解によって、どの程度の微生物生命を養えるのかを明らかにするため、火星、木星の衛星エウロパ、そして土星の衛星エンケラドゥスの環境を精査した。これらの惑星には地下水が存在するとみられ、地球の強力な大気圏のシールドとは異なり、宇宙線が容易に透過する薄い大気に包まれている。

     研究チームは、これらの惑星の土壌のさまざまな深さで宇宙線が水分子を分裂させた際になにが起こるか、そしてその化学反応がどれほどの細胞を維持できるかシミュレーションを行った。具体的には生成される電子の速度を分析したのだが、細胞内で電子はアデノシン三リン酸(ATP)の生成に重要な役割を果たしている。「ATPはわれわれが知るすべての生命にとって主要なエネルギーである」とアトリ氏は説明する。

     そして分析の結果、3つの惑星のうち、エンケラドゥスが最も多くの生命エネルギーを供給できることが判明した。大腸菌の代謝に基づくと、深さ2メートルでは宇宙線による放射線分解によって、1立方センチメートルあたり4万2900個の細胞を維持できるだけのATPが生成される。火星は地表から0.6メートル下で1立方センチメートルあたり1万1600個の細胞を、エウロパは深さ1メートルで1立方センチメートルあたり4200個の細胞を養える。

     今回の分析結果により、われわれの地球外生命の探査対象範囲は大きく広がることになる。きわめて低温の惑星、たとえ恒星を持たない放浪惑星であっても、研究チームが「放射線分解ハビタブルゾーン」と呼ぶ領域内に存在する可能性があるのだ。

    エンケラドゥス 画像は「Wikipedia」より

    高まる地球外生命体発見への期待

     研究チームは次のステップとして、エンケラドゥス、エウロパ、そして火星の環境を自身の研究室でシミュレートし、地球上の極限環境微生物の挙動を調べる予定である。

     科学メディア「Science News」によれば、ポーランドのシュチェチン大学の宇宙生物学者フランコ・フェラーリ氏は(今回の研究に関与していないが)、「この研究はきわめて説得力がある」と述べている。

     もっとも、放射線だけでは生命を維持するのに十分ではないかもしれない。たとえば既知の生物はすべて糖(通常はグルコース)を必要とするが、グルコースは主に太陽光の存在下で生成される分子だとフェラーリ氏は指摘する。研究者は「放射線分解ハビタブルゾーン」にある惑星が、生命に必要なすべての資源を提供できる環境的特徴を有しているかどうかを詳しくチェックしなければならない。

     同じく(今回の研究には関わっていない)米ウィスコンシン大学マディソン校の宇宙生物学者ザック・アダム氏は、「宇宙線は少量の利用可能なエネルギーを生み出すだろう」「生物の生存を維持するのに十分な量です。私たちが話しているのは、巨大で繁栄した生態系を持つということではありません」と語っている。高エネルギー粒子の絶え間ない曝露は、理論上は定着した微生物を無期限に維持できる可能性があるということだ。

    エンケラドゥスの熱水活動の想像図 画像は「Wikipedia」より

     今年10月に学術誌「Nature Astronomy」に掲載された研究では、エンケラドゥス表面の凍った氷のサンプルから有機化合物が発見され、生命が存在するという期待がどんどん高まっている。

     また2008年、NASAの土星探査機「カッシーニ」は接近フライバイの際にエンケラドゥスが放出した氷の破片を収集することに成功。分析により、エンケラドゥスはこれまで考えられていたよりも多くの炭素系物質を宿していることが明らかになっている。生命が存在するとは断言できないものの、生命の源となる要素は確かに存在しているのだ。

     はたして太陽系内で生命体を発見できる日がくるのか。地球外生命体の発見という人類の積年の宿願が叶う日が近づいているのかもしれない。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「ScienceAlert」より

    【参考】
    https://www.popularmechanics.com/space/a69510863/cosmic-rays-enceladus-alien-life/
    https://www.sciencenews.org/article/cosmic-rays-alien-life-planet-moon

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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