新島「海難法師」から探る伊豆諸島のタブーとは? 恐るべき来訪神を鎮める儀式の謎/松雪治彦
伊豆諸島のタブー風習「海難法師」は、悪霊ではなく神を迎える儀式だったーー。新島取材を軸に、タブーの背景を考察する。
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俺の生徒に手を出すな!──「地獄先生ぬ〜べ〜」の令和版アニメが7月から放送開始され、盛り上がっている。原作者の真倉先生と岡野先生に、新作アニメへの思いを訊いた。
目次
「地獄先生ぬ〜べ〜」といえば、平成の子どもたちにオカルトの知識とお色気の流儀を教えた名作漫画。その新作アニメが2025年7月より放送されており、話題を呼んでいる。原作世代や平成版アニメを知る者にとって、懐かしさと新鮮さが同時に味わえる、まさにファン待望の仕上がりなのだ。
ムー民の中にも、振り返ればオカルト界へ足を踏み入れる第一歩は「ぬ〜べ〜」だった……という人は少なくないだろう。
今回はそんな皆さんに向けて、新作アニメの見どころを紹介しながら、原作者の真倉翔先生、岡野剛先生の特別インタビューをお届けしたい。
改めて、「地獄先生ぬ〜べ〜」は、“鬼の手”を持つ霊能力教師「ぬ〜べ〜」こと鵺野鳴介が、生徒を守るために妖怪や悪霊を退治する学園ホラーアクション。1993年から1999年にかけて週刊少年ジャンプに連載され、1996年にはアニメ化もされた大ヒット漫画だ。
以降も、掲載誌を変えながら「地獄先生ぬ〜べ〜NEO」「地獄先生ぬ〜べ〜S」「地獄先生ぬ〜べ〜PLUS」と、続編が何作も描かれており、現在は「地獄先生ぬ〜べ〜怪」が最強ジャンプで連載中。シリーズ累計発行部数は2,900万部を誇る。
そして今回、約30年ぶりに新アニメ化されたわけだが、登場人物は初代シリーズのままで時代設定を現代に移し、続編である「NEO」「S」「PLUS」も彷彿とさせる構成になっている。
何より目を引くのは、原作や過去放送アニメへのリスペクトが随所に感じられる演出の数々。第1話は「九十九の足の蟲」からスタートするし、主人公のぬ〜べ〜とそのライバル・玉藻の声優が平成版から続投するという徹底ぶりだ。
さらに、平成版アニメの主題歌「バリバリ最強No.1」がぬ〜べ〜のスマホから流れるというサプライズや、ふとしたところで原作の印象的なカットが何気なく盛り込まれていたりして、わかる人をニヤリとさせる小粋な演出が各話に散りばめられている。
それでいて今っぽく再構成されていて、原作が持つオカルト要素の本質を損なわず現代的にアップデートされたバランスの良さは、ファンも唸る完成度だ。
今回は、その辺りを原作者の真倉先生と岡野先生にインタビュー。新作アニメの見どころを中心に色々と語っていただいた。
なお、お二人は以前にもwebムーのインタビュー企画に登場されていて、そこでは原作の制作秘話を詳細に掘り下げているので、ぜひ合わせて参照されたい。
―― 「ぬ〜べ〜」の新作アニメ、かなり盛り上がっていますね。この新作アニメが制作されることを真倉先生と岡野先生が知ったのは、いつ頃なのでしょうか?
真倉翔先生(以下、真倉):実は5〜6年前から、「ぬ〜べ〜」を何かしらで映像化しようという話が出ては消えていたんです。実写の企画もあったりしながら、それがコロナで白紙になって〜とかを繰り返してたんですけど、ついに2022年の終わりに「ぬ〜べ〜の新アニメが決定しました」と集英社の担当さんから連絡が来まして。
―― その時のお気持ちは?
真倉:え! マジ? と。嬉しかったですね。今どきの新しい技術で新しい「ぬ〜ベ〜」のアニメができたら良いなあ、という思いはありましたので。
なお、ちょっと裏話になりますが、実は新作アニメの実現に向けて頑張ってくれたプロデューサーのひとりが、かつて「ぬ〜べ〜」最終回時の編集担当だった集英社のS田さんなんです。……そこに本人がいるんですけど(と言ってS田さんを指す)。
集英社・S田さん:私が集英社に入社して、週刊少年ジャンプ編集部に配属されたとき、初めて担当した作品が「ぬ〜べ〜」でした。今は立場が変わって、編集ではなく集英社作品のメディア企画に携わっていますが、原作者のお二人に恩返ししたい気持ちも大きくあって、今回の新作アニメの企画を進めさせていただきました。
―― なんと、「ぬ〜べ〜」新作アニメが制作された背景には、原作者のお二人と編集担当さんの絆があったとは!
真倉:良い話でしょ? S田さんたちが頑張ってくれた姿に泣けちゃって。
―― そんな新作アニメについて、お二人が内容に要望を出したり、関わった部分はありますか?
真倉:事前にキャラクターデザインや脚本・絵コンテは見せてもらってましたけど、こちらからの要望はあったかな……? なお、アニメ制作スタッフさんとのコミュニケーションとして、何回か飲み会は開催してます。
岡野剛先生(以下、岡野):真倉先生がスタッフさんとたくさん飲んでましたねぇ……。
真倉:いやいや、ちゃんと楽しいコミュニケーションの一環としてですよ! ……で、岡野先生は何か要望伝えてましたっけ?
岡野:まず「初回の話を連載版の第1話にしてほしい」と言いましたね。平成版アニメでは、「ぬ〜べ〜」連載開始前に描いた読切版の方が第1話になっていたんです。今回せっかく新しくアニメを作るなら、前回とは違う始まり方にするのが良いと思ったので。
―― まさにそこ、「おお!」と思いました。実は私1983年生まれで、小学生の時に初代「ぬ〜べ〜」の連載がジャンプで始まって読んでた世代なんです。新作が「九十九の足の蟲」から始まっているのは、コミックス1巻の始まり方と同じでグッときました。
岡野:あと、「玉藻は初めから医者の設定にしてください」と伝えました。そこを原作通りに描こうとするとかなり長くて、今回の放送期間で終わらないので(笑)。
真倉:そうそう、原作だと初期からキャラクターの性格が変わっているのもいるんで、新作アニメでは後に固定したキャラで最初から出してほしいって要望を伝えましたね。
玉藻もそうですし、美樹なんかも象徴的で、原作だと32話「妖怪ろくろ首」あたりからわかりやすくキャラが立つんですが、改めてやろうとするとそこまでが長い。なので、新作アニメでは第4話で「ろくろ首」の話をやって、確立された美樹のキャラを序盤から出す構成にしてもらってます。
あと、「なるべくこれまでにアニメ化してないストーリーをやってください」とも言ったかな。……あれ、意外と色々言ってますね(笑)
―― 確かに、私のような初代「ぬ〜べ〜」世代も多く見てると思うんですが、美樹が最初からあのキャラで出てくるとスムーズに入り込めます。玉藻先生の件もそうですし、新作アニメはそういった調整に合わせてストーリーも再構成されてて、見やすいですよね。その辺もお二人のチェックは入ったんでしょうか?
真倉:ストーリーの再構成については、事前に構成作家さんが飲み会の場で「こんな風に調整してみましたよ!」って教えてくれたんですけど……なんせ酔っ払ってるので何が何やらで(笑)。
―― え。
岡野:そもそも僕たち、脚本や絵コンテを見ただけでは、あまりわからないっていう。
真倉:そうなんです。アニメーターじゃないんで、制作段階で見せてもらっても、それがどう完成形になるのか想像できないんです。なので本編を観て「おお、アレがこうなるのか」って、毎回新鮮な気持ちで見てます。それもあって、アニメスタッフさんに基本お任せしてますね。
―― そうなんですね(笑)。あと今回のアニメ、原作ファンや平成版アニメを知っている人がクスッとするような細かい演出がすごい入ってますよね?
真倉:そうなんですよ。もうスタッフさんが熱くて。
―― その熱さ、かなり伝わってきます。細かく言うと色々ありますが、「これは」と思ったのが、エンディングのアニメーションに描かれている女の子の影です。視聴者の間でも話題になってますが、これは……やっぱりアレなんでしょうか?
真倉:まあそれは……ねえ?
岡野:ねえ?
―― すごくぼかしますね(笑)。とにかく、そういう「ぬ〜べ〜」愛が溢れる細かい演出はかなり見どころですよね。新作アニメのスタッフさんに、私と同じ80年代前半生まれの方がいらっしゃるのかなあ……と勝手に想像しながら見ています。
真倉:あ、それはその通りですよ。その世代の方がやられてます。みんなちゃんと原作読んでくれてるんだなあ〜って思いました。
―― そりゃあ読んでるでしょう(笑)
真倉:いやあ、仕事と割り切って淡々と制作する可能性もあるじゃないですか。でも全然そうじゃなくて、アニメの制作スタッフさんみんな「ぬ〜べ〜」が好きでやってくれてて。嬉しいですね。
―― 続いて「ムー」に絡むお話をいくつか伺いたいんですが……色々気になっているところがありまして。まず、今年少年ジャンプ+で連載されていた「ぬ〜べ〜PLUS」で、就職情報誌「ムーダ」ってのが出てきますよね。表紙のデザインとか色々「ムー」っぽい雑誌になってますが、これはやはり……
岡野:いや、あれはアシスタントさんがやったデザインでして。決して我々がやった演出ではなくて。
真倉:そうです、決して他意はありません。
―― そうなんですか。あと先ほども話に出た、新作アニメの第4話「妖怪ろくろっ首」ですが、美樹がオカルト雑誌「ヌー」を読んでいるシーンがありますよね。表紙には“ハイパーミステリーマガジン”と書いてあって、かなり「ムー」に寄せてると思うんですが……
岡野:あれもアニメスタッフさんのオリジナルでして! 僕らは何も言ってません。本当です。
真倉:まあ「ムー」って、そうやって使っても全然怒られないので、また使っちゃうっていうのはあるかも……。
―― ちなみに以前のインタビューで真倉先生は、「元々オカルトにそこまで興味があるわけではないが、学生時代にムーを買っていた」とお話しされていましたよね。当時、どういう経緯で「ムー」を買っていたのでしょうか? オカルトに興味がないのに「ムー」を買っていたというのは一体……?
真倉:いや、古代文明の特集とかあると気になるじゃないですか。あとギリシャ神話の特集とか。オカルトはあまり知らなくても、読みたい内容が多かったので。
―― え、それってオカルトファンの動き方ですよね……? もしかして真倉先生、自覚されてないだけで、元々オカルト好きだったのでは?
真倉:え⁉︎ それってオカルト⁉︎ 僕オカルト好きだったの?
岡野:まさかここで判明するとは。
真倉:古代文明ってオカルトの範疇に入るんですか?
―― 諸説ありますが、ムー的には入りますかね。まだまだ謎の多い古代文明は、オカルト文脈で普通によく取り上げられますし……。まあ、世の中の大体のことはムーに通じるという見方もありますが。
真倉:あ、それで言うと、「ぬ〜べ〜」も同じですね。都市伝説や怪談、妖怪、お化け、宇宙人まで出しちゃって、とにかくネタが幅広い漫画で大変なんですよ。
―― 確かに、すごく広い範囲のことを“怪異”のくくりで果敢に取り上げていくというのは、「ぬ〜べ〜」と「ムー」に共通している姿勢かもしれません! ……繋がりましたね。
―― ちなみに、そんな幅広い「ぬ〜べ〜」を描くにあたって、既存のオカルトやホラーから参考にしたものや好きだった作品てありますか?
真倉:やはり僕は楳図かずお先生ですかね。
―― そういえば、登場人物のまことはまさにですね。
真倉:うっ、ドキ……。
岡野:ホラーだと、僕はつのだじろう先生の「恐怖新聞」は好きでよく読んでました。あと“先生モノ”でいうと、実は影響を受けてるのが、石ノ森章太郎先生が原作の「好き! すき!! 魔女先生」という実写ドラマです。
僕が小学生の頃に放送していた番組で、主人公が女の先生なんですけど宇宙人なんです。その先生が、特殊能力で怪異を倒して生徒を守るっていう話なんですよ。
―― 確かに、教師が特殊能力を使って生徒を守る設定って、まさに「ぬ〜べ〜」の雛形と言えますね。
岡野:そうなんです。それこそ、「好き! すき!! 魔女先生」の主人公が、ぬ〜べ〜の恩師である美奈子先生の原型でもあります。「ぬ〜べ〜」を描くときには、「好き! すき!! 魔女先生」が常に頭のどこかにありました。
―― なんと、美奈子先生のキャラクター背景に宇宙人がいたとは!
―― 前回のインタビュー時、お二人は心霊現象を体験されたことはないと仰ってましたが、その後はいかがですか?
真倉:全然ないです。
岡野:同じくです。「二十歳までそういうの見ない人は一生見ない」って聞いてるんで、多分今後も見ないだろうなって思いながら暮らしてます。
―― オカルト系の創作に携わる方って、不思議体験することも多いみたいなんですが、お二人が今まで無傷というのはすごいですね。
岡野:なんででしょうね……? もしかして、作者が2人いるから、分散されて良かったのかな?
真倉:2人いるから、どっちを呪ったら良いかわかんなくて、霊の方がとりあえず撤退しちゃうとか?
―― その解釈は新しすぎます(笑)
真倉:ちなみに、現在連載中の「地獄先生ぬ〜べ〜怪」は、怪談をネタにした新シリーズなんですが、平将門とお岩さんだけは取り上げるのやめとこうって話してるんですよ。本当に何かありそうで怖いんで。
―― そのセリフを聞くと、実はお二人とも、これまでガチでヤバいことは無意識のうちにうまく避けてらっしゃったのかもしれないですね……。そんな「ぬ〜べ〜怪」の展開も楽しみにしています。
岡野:今日の発見は、真倉先生がオカルトファンだったことですね。
真倉:いや〜、俺オカルト好きだったのかあ〜。
―― その線は濃いかと(笑)。今回は楽しいお話をありがとうございました。では最後に、「ぬ〜べ〜」ファンや新作アニメの視聴者さんに、ぜひメッセージをお願いします。
真倉:新作アニメは今後、これまでにアニメ化されていないエピソードがどんどん出てくるので楽しみにしていてください。
岡野:「ぬ〜べ〜」大好きなスタッフさんが作ってるのもポイントです。テレビの前で、思い切り震え上がってください。
アニメ「地獄先生ぬ〜べ〜」
毎週水曜よる11時45分~
テレビ朝日系全国ネット“IMAnimation W”枠にて放送
(※一部地域を除く)
https://nube-anime.com/
https://x.com/nube_ani
©真倉翔・岡野剛/集英社・童守小学校卒業生一同
杉浦みな子
オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。
音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀…と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハー。
https://sugiuraminako.edire.co/
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