80年代の悪魔祓いが現代のゲームとして甦る! 『FAITH:The Unholy Trinity』/ムー通拡大版
ゲーム雑誌「ファミ通」とのコラボでムー的ゲームをお届け! 今回は拡大版で「FAITH」を掘る!
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構成=サン・ジェルマン伯爵2世 撮影=鈴木謙介
神話の神々や精霊、妖怪から都市伝説のキャラクターまでが「神魔」として総登場するコロプラのローグライクカードゲーム『神魔狩りのツクヨミ』。数々の神や悪魔を描いてきた金子一馬が”神魔画家“として手掛ける新作だ。神話とAI生成という古今の叡智をつなぐ挑戦的なゲームの真意とは? 金子一馬氏と開発プロデューサーのケビン氏へインタビュー!
目次
コロプラのローグライクカードゲーム『神魔狩りのツクヨミ』は、悪魔絵師として知られてきたゲームクリエイター金子一馬氏が心機一転、新たに手がけた完全新作。
奥深い戦略を誰もが楽しめるローグライクカードゲームであり、金子氏ならではのオリジナリティと伝承知識から描かれるビジュアルを集める楽しみもあるが、さらには金子氏の絵柄を学習した「AIカネコ」によるオリジナルカードの創成までシステムに組み込んでいる。
神魔や世界観の設定が混然一体となった唯一無二の作品であり、古代から語られ描かれてきた神話と、AIによる創成(再創造)が融合した、あまりにもディープで挑戦的なゲームとして大きな話題となっている。
そんな『神ツク』に魅せられてがっつりプレイしているwebムー編集長・望月哲史による、金子氏と開発プロデューサーのケビン氏への、特別インタビューをお届けする。創造の斜め上を行く濃すぎる取材となった本稿、神や悪魔は“情報生命体”である――そんな一言が、必ずや、あなたの常識を揺さぶるだろう。
望月 いきなりですけれど、昨日の夜、アラハバキを倒せたんですよ。
金子 倒したんですか、おめでとうございます! ヤバい強さですから、アラハバキ。
望月 「生存支援パック」と「中層クリアパック」で強化して、ランク21で踏破できました。攻撃のたびに“闘志”(その戦闘中の攻撃力アップ効果)を上げられる創成札のおかげです。
ケビン 闘志アップ、強いですよね。
望月 それでもギリギリだったんですよ。ツキモノ「不滅」(戦闘不能から一度だけ体力30パーセントで復活できる)を持っていたので、最後の一撃が間に合いました。
金子 ドラマですね。少年漫画みたいな展開じゃないですか(笑)。
望月 ですよね。しかもそのツキモノをちょうど20分前くらいに手に入れたばかりだったので。これをチョイスした過去の自分に感謝するという(笑)。
金子 「ムー」さんにはものすごく影響を受けてきたので、今回は設定話がメインになるかとおもったんですが、ゲーム自体をがっつり遊んでくださっていてうれしいです。
望月 そんな、ありがとうございます。でもまさに設定がムー的というか、ムー視点でもこんなにマニアックなゲームはそうそうないというか。なので、やはりそのあたりを掘り下げていければと思っています。
金子 はい、ですよね。僕もそっち系の話ができるのが楽しみでした。なにしろ、自分自身ムーの愛読者で、ムーさんに育てられたようなもので(笑)。
望月 なんと。まずムー的に伺いたいのも、本作の「神魔」という概念が、そもそも金子さんの中では、「どういうふうに定義されているのか?」というところなんです。
金子 はい。自分もまさにそういう部分をこだわりたいタイプで、定義はしっかり決めていました。はっきり言っちゃうと、神や悪魔というのは、「情報生命体」だとしています。
望月 「情報生命体」ですか!
金子 簡単に言えば、「みんなの想像から生まれているもの」。みんなが想像して、考えたものが動き出したというか、勝手に膨らんで神になる。神様っていろいろな宗教に出てきますけど、そういう神々も、みんなが考えて作り上げてきた「よいもの」のビジュアルや名前、権能などといった情報の集合体――つまり、「人間が都合よく作ったもの」ではないかと。何か悪いことをした人が「悪魔に憑りつかれていたんだ」とか言いますよね?
望月 まさに人間の都合で、悪魔という概念が利用されていると。作中の「ツクヨミファイル」の情報にも、たしかに“神魔は人間の想像力から生まれた超常的な存在”との定義がありましたね。
金子 はい。神魔は、そういう情報の集合体が自我をもって動き出しちゃっているという存在ですね。ゲームの舞台であるTHE HASHIRAの中ではそういった情報生命体である神魔たちが受肉して実体化しているという設定です。
望月 何かしらの感情や信仰などの対象として、そのように思われているものが顕現するわけですね。
金子 心霊スポットでも「港に幽霊がいる」っていう情報があると、「海難事故にあった」、「殺された」、「自殺した」など、何かしらの理由が加わっていく。「血だらけだった」「女の霊だった」などといった目撃情報まで寄せられてきて、ディテールが勝手についてくる。
望月 都市伝説の構造です。
金子 勝手に語られて、肉付けされて、最終的に“形”になってしまう。それが最近の都市伝説やネット怪談の類もそうだし、神様や悪魔、幽霊などの“存在”も全部、そういう情報の積み重ねなんじゃないかと。だから僕はこのゲームでは、あえて「情報生命体」という言い方をして設定を統一しているんです。
望月 カードや札で並列化できるのも、まさに「情報であるからこそ」の統一ですよ。
金子 存在のスケールや質量が違っても、神魔札という形で表せる。でもタワマンの廊下に召喚するとしたら「こいつ明らかにデカすぎるだろ!」ってのがいたりするんですけど(笑)。
望月 たしかに、「タワマンの廊下に3体も並べないとな」って思うやつ、いますね(笑)。
望月 こうして改めて神魔についての定義のお話を伺うと、ゲーム中で起きてることは入れ子構造的で面白いです。まず、何かしら神様のイメージがあるわけじゃないですか。たとえばシヴァとか。
金子 この間まさに、「AIカネコ」が創成したものをリファインして再実装されたのがシヴァです。体が青いとか第三の眼があるとか、三日月が象徴とかがシヴァのお約束ですね。「AIカネコ」が創成したビジュアルで欠落している要素をリファインしています。
望月 「AIカネコ」の創成を金子さん自身がリファインしているんですよね。ややこしい話ですが、『神ツク』の盈月奉納ノ儀で選ばれてリファインされたカードは、ものすごく多層の創造に基づいていることになりませんか。「神話や伝承で描かれて認知されてきた世間一般のシヴァ」、「AIカネコが金子さんの絵柄を学習して生成したシヴァ」、そして当の「金子さん自身がさらに伝承情報を踏まえて『AIカネコ』の絵柄をリファインしたシヴァ」……という創造になっています。
ケビン 金子さんが描き直した「真・創成札」が出来上がってゲームに登場した段階で、もうシヴァが「AIカネコ」から創成されることはなくなります。なので、まさにプレイヤーの皆さんの創成をスタートとして、金子さんが描きなおしたことで情報生命体としてのシヴァの誕生がゴールを迎える、ということになりますね。
望月 「盈月奉納ノ儀」では、プレイヤーたちによって作られた創成札から投票で人気を集めたもの、つまりより多くの人の認知・想像によって強化された「情報生命体」ですね。
金子 たしかに自分の絵柄を学習したAIの創成札を自分で描きなおすときは、何か再会したかのような不思議な感覚がありましたよ。
望月 金子さんの描いた神や悪魔のビジュアルってネットにもいっぱい出てきたりします。たとえば「ジャックフロスト」ってネット検索すると、ほぼ金子さんの絵しか出てこないですよ。
金子 ジャックフロストは、伝承では“雪の妖精”で、見た目がまったく定まっていなかった。僕が過去に雪だるまの姿で描いたら、いまやみんながジャックフロストは“あの姿”だと思っていますよね。
望月 まさに情報の固定化です。
金子 「情報が形になった」「それがみんなの中で共有された」っていう意味では、そういうのは“情報生命体”っぽい。
望月 エンタメから伝承の形が作られることも多いですよね。アクロバティックさらさらはwebの掲示板が発祥で広まったテキストだけの存在だったのが、いまは某有名マンガのキャラクターの姿として想起されるようになっていますし。
金子 そうですよね。ほんの数年前まで画像すらなかったのに、今やキャラクター化して、全部“視覚化”されているから。今回の「AIカネコ」を使った創成札の生成システムは、そのまま神魔の「情報が姿形を得た」というこのコンセプトに合致しているんです。そこまで最初から狙ったわけではないんですが、作っているうちに「あれ? これってそのままハマるな」って。
望月 神や悪魔を情報から生まれた生命体と定義している世界観だから、「AIカネコ」が生み出す創成札はまさに神魔。批判や懸念もあるAIの生成と人間のクリエイティブの関係がゲームシステムに位置付けられているのが面白いです。
金子 人間のクリエイターの創造=本物の神、AIの生成=偽の神、という形で、しっかり手を動かすクリエイティブとの関係性を定義しているんですよね。もちろんAI生成についての反発はゼロではないです。でも、想像以上にポジティブな反応が多いです。
ケビン 開発中は、AIという話題に注目が行きすぎて、ゲームそのものの面白さが注目されないのではないかって、怖かったんです。今回は“新しい遊びの表現”としてAIを使っている。それが伝わってよかったです。
望月 それに、『神ツク』は金子さんが関わっているからこそ、だと思いますよ。なにしろ「金子さんの絵」を学習しているわけですから。
金子 そうなんですよ。AI学習にOKを出したのは実際に描いた僕自身なんで(笑)。「この作品世界なら、AIも情報生命体の一部」です。
望月 「ムー」の特集記事でも本物の神と偽の神というデミウルゴス的なキーワードから、グノーシス的な世界観で見立てて考えたりもしたのですが、プレイしていくとツクヨミ側が「竹内文書」、そして登美のりことアラハバキは「東日流外三郡誌」に基づいているのかな、と思ってしまいました。古史古伝がそれぞれの神話・歴史観をぶつけあうような。
金子 偽の神といった、デミウルゴス的なイメージは、あくまでも「世界創造者」がいる入れ子構造的なニュアンスでして。グノーシスそのものが世界観になっていたりするわけではないんですけど……宇宙の設定から創ってあるからかな(笑)。
ケビン 金子さんの作った設定は作中だとほんの一部しか描かれていないんです。自分もこのプロジェクトに関わることになって設定を見せてもらったときは、想像をはるかに超える規模で衝撃を受けましたから。
望月 世界の構造自体の設定が、宇宙規模で作られているとなると、作中のオオカミの正体もどこか機械めいた被造物のような描写がちらほら見え隠れしますね。
金子 ツクヨミファイルで一部は語られているんです。過去に「大神神示」というものが発生し、大神が降りてきて2050年に世界が滅亡するという予言をした。ツクヨミたちが所属する「維持正常化機構」は、滅亡を避けるべく大神を管理しようとして……?
望月 ツクヨミは維持正常化機構の「日本支部」ですが……
金子 おっしゃる通りで。「きっと世界中にあるんですよね?」とケビンからも指摘ありました。
ケビン 海外にもツクヨミにあたる存在がいるに違いないと思える設定ですから(笑)。
望月 そうなると、維持正常化機構を各地に作った連中がいますね。
金子 視点をさらに上、宇宙規模の視座で地球を俯瞰してもらわないといけないかもしれませんね……世界シミュレーター仮説的なイメージも入っています。
ケビン THE HASHIRAで起きていることは、本当にそういった壮大な世界観のごくごく一部にすぎないんですよね。
金子 その一部にすぎないものは、構造的にこの宇宙の構造とも一致しているという。
望月 すべての要素が相似形になった入れ子、フラクタルな構造というか。
金子 ああ、そうですね。まさにフラクタルかもしれません。そういう精緻に造られた世界を、維持したいという存在がいる。でも、逆に維持している存在を打倒して、自由な世界を打ち建てたいという連中もいるんでしょうね。
望月 アラハバキや登美のりこたちは維持システムに歯向かう混沌勢力です。登美のりこはナガスネヒコの末裔なのか、もしくは情報生命体としてのナガスネヒコに憑依されているのか。プレイを重ねてツクヨミファイルを読んでいくと世界の構造がわかってきて楽しいんです。
金子 設定上はアップデート、スピンアウトはどこまでもできます。
ケビン 実装できるかはおいといて、そうですね(笑)
金子 神や悪魔などの伝承について、じつは割と真理をついているような設定がこのゲームでつくれているんじゃないの? って気がしてきています。ゲームの設定上ツクヨミの正体はお話できないものの、どこから来た何者なのか? このインタビューをヒントに、わかっちゃう人もいるかもしれません。
ーーいかがだっただろうか。ゲームクリエイターへの取材とは思えないほどに、ムー的なトピックが飛び出したディープなインタビューとなった『神魔狩りのツクヨミ』。
錬金術の奥義では、上にあるものは下にあるものに等しく、ミクロコスモスとマクロコスモスは照応すると説くだけに、本作のプレイを重ねて「情報生命体」である神魔を創成していくことで、我々も神の真実へと近づけるのかもしれない。
6月30日の大型アップデートにより、これまでプレイが可能だった2人の主人公「十六夜月のツクヨミ」「新月のツクヨミ」に加えて、残る2人「満月のツクヨミ」「半月のツクヨミ」が新たにプレイできるようになり、ゲームはついに完全な姿のヴェールを脱いだ。
インタビューを読んで興味を持った方は、スマートフォンかSteamでダウンロードをしてさっそくこの神と悪魔の情報に満ち溢れた神の世界へと没入してみてほしい。
<作品情報>
「神魔狩りのツクヨミ」
ジャンル:カード創造ローグライク
対応端末:iOS、Android、PC(Steam)
価格:アイテム課金制(基本プレイ無料)
公式サイト:https://jintsuku.jp/
©COLOPL, Inc.
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