偽神“AIカネコ”は現代のデミウルゴスか!? 神魔無尽蔵生成オカルトカードゲーム『神魔狩りのツクヨミ』=禁断の儀式説

文=サン・ジェルマン伯爵2世

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    悪魔絵師として知られるクリエイターーが、自らの創成スキルをAIに継承した……? 禁断の偽神を取り込んだゲーム『神魔狩りのツクヨミ』を考察する。

    神や精霊を作り出すゲーム

     昨今、“悪魔や神の遺伝子を取り込んで、神や精霊を生み出そうとしているカルト”についての噂をちらほらと耳にする。
     そもそも悪魔や神に遺伝子があるのかさえ定かではない。だが、伝承という視点ならば、たとえば北欧神話のトリックスター・悪神ロキには、そのルーツには幅広い古代の悪鬼や小鬼、いたずら好きな妖精といった悪を為すものの概念が影響を与えたとも考えられている。また、かの有名な悪魔王サタンも、かつて「旧約聖書」の時代にはあくまでも神に仕えるいち天使だと考えられていたものが、「新約聖書」の時代に、ルシファーや誘惑の蛇の概念の影響を受けつつ、天の3分の1を率いて神に反逆し、堕天して魔王となったとされるのは広く知られているエピソードだろう。日本でも、御霊信仰では強大な怨霊を神として祀ることで、逆にその霊験を得んとする思想がある。

     このように、神や悪魔の概念というものは、混淆されて千変万化するものなのだ。

     キリスト教では聖遺物や聖人の遺骸が加護をもたらすように、神や悪魔の遺伝子をなんらかの方法で入手できたなら、噂のカルトが目論む“神や精霊の創造”といった禁断の実験も成就するのではないか……筆者はこのカルトの噂に興味をそそられてしまい、ここしばらく噂について調査を進めていた。

     そんな最中、このカルトについての噂の出どころが判明したのだが……噂というものは、尾ひれがつくものだと思い知らされることとなった。というのも、この話はカルトでもなんでもなく、正確には“業界で最も悪魔について造詣の深いゲームクリエイターの遺伝子を学習して画像生成するAIが組み込まれた最新ゲーム”についての話題が出どころだったのである。

    人工知能が神魔を創成する

     この『神魔狩りのツクヨミ』という作品には、「AIカネコ」なる人工知能が搭載された「オオカミ」という存在がある。プレイヤーがゲーム中にとった行動を「オオカミ」が読み取って、そのプレイヤーだけの絵柄で世界中の神や悪魔のカード=“神魔札”を生成するというのである。

     ゲームとして基本情報を説明しておこう。プレイヤーは特殊なマスクをかぶることで神魔札から神や悪魔“神魔”を召喚して使役できる“ツクヨミ”。配布されたり創成された神魔札でデッキを組み、THE HASHIRA(見た目上は謎のタワマン)に潜伏する国賊を討つべく探索する……という、ローグライクカードゲームだ。

     なるほど、この神や悪魔を生み出すという噂は、ゲームの「AIカネコ」による、オリジナルカード生成の話題が膨らんでムー編集部にも届いたようだ。てっきりAIが本格的に活用され始めて世界にも多大な影響をもたらすであろう2025年に、ついにヤバいカルトが動き出したのかと危惧してしまった……。

    悪魔絵師の御業が拡散する

     しかし、気になるのは……“AIカネコ”?

     カネコというのは、あの『真・女神転生』シリーズや『ペルソナ』シリーズ、『デビルサマナー』シリーズなどのイラストレーションやキャラクターデザイン、コンセプト・世界設定などを手掛けたというゲームクリエイターの金子一馬氏!?

     そう、金子一馬氏はゲーム業界でおそらく最も伝承に忠実に悪魔や神、精霊に妖怪、都市伝説にいたるまで数多のイラストレーションを描き続けてきたゲームクリエイター。
    『神魔狩りのツクヨミ』に搭載された「AIカネコ」は、本作のために金子一馬氏のイラストを繰り返し学習させ続けることで金子一馬氏のクリエイティブを模倣する機械となるべくして生み出されたのだという。

     金子一馬氏のイラストは、スーパーファミコンの時代から現代にいたるまで、長年を経て多くのゲームファンやオカルトファンにも知れ渡っており、氏が描いてきた神や悪魔の姿はいまもネット上で共有されている。つまり、もしかするとゲームを知らずとも、特定の神や悪魔の姿を“金子氏のデザイン”で知っている……なんていう世代もいるかもしれない。
     実際に、ジャックフロストという英国の霜の精霊がいるが、そのビジュアルをかわいい雪だるまのような絵で思い浮かべる人も多いのではないだろうか? 金子氏がゲームのためにデザインしたビジュアルが伝統的な怪異と接続されているのだ。

     そもそも、神や悪魔の姿に正解は存在しない。偶像崇拝を禁じたユダヤ教では特定のサタンの図像などは乏しかったため、そもそも判然としないのだから(誘惑の蛇としての図像は後世にサタンと結びつけられたもの)。

     そんなことを考えると、“悪魔や神の遺伝子を取り込んで、神や精霊を生み出そうとしているカルト”という噂もあながち的外れではなかったのかもしれない。

     模倣やメディアを通じて広がる情報単位こそmeme、すなわち文化の遺伝子だ。

     もしかすると、『神魔狩りのツクヨミ』の「AIカネコ」が無尽蔵に出力する神魔の図像は、やがて純化され、人類の深層に眠る神や悪魔の図像のイデアに限りなく肉薄するのかもしれない。

    偽の神を創成する悪意ある設計

     しかし、さらにこの『神魔狩りのツクヨミ』について調べてみたところ、より興味深いというか、ある種の“企み”が秘匿されているように思えてならない。

     というのも、『神魔狩りのツクヨミ』で「AIカネコ」によって生成される神魔の姿というのは、明確に作中では“偽物”だと定義づけられているのである。

     では本物の神や悪魔の姿があるのだろうか? 誰もが抱くその疑問だが、これも明確に定義づけされている。なんとゲーム中には、「画家K」という人物が登場し、この人物が描く神魔のイラストこそが“本物”だというのである。

     たしかに、作中には金子氏が自ら描いたイラストレーションの神魔やキャラクターが登場する。これらは、金子氏自身に姿を与えられたと言えるだろう。

     さらに、この「画家K」というキャラクター……イニシャルからしても、またゲームのプロモーション映像では、金子氏が神魔画家Kのコスプレをして出演されているところからも、金子一馬氏本人なのではないかと考えられる。

     作中にクリエイター自身がメタフィクション的に登場していることであれば、「画家K」=金子氏は『神魔狩りのツクヨミ』の構造的な“創造神”そのものの暗喩だと捉えることもできよう。だが、まだゲーム自体は体験版しか触れることは叶わなかったので、「画家K」がいったいどのような立ち位置で作品に登場するのかはわからない。

     一方で、「画家K」が本物の神なのだとするならば、「AIカネコ」が搭載された「オオカミ」は、まごうことなき“偽神”にほかならないということになる。

     偽神と言えば、グノーシス主義を彷彿とさせるところ。ユダヤ・キリスト教の教義を基にして紀元1世紀から3世紀に地中海世界で流布したグノーシス主義思想では、唯一神は真の神ではなく、神を騙る偽神にして無知な嫉妬深きアルコーン(権力者)のデミウルゴス(プラトンの『テュマイオス』で語られる世界創造者)だとする。

     その真の神にあたるものは、神性と神の力そのものにして、超永遠世界であるプレーローマにあるアイオーンと呼ばれる存在だとしており、その中の娘にあたるソピアー(智慧)は、アイオーンの中でも超越存在である“先在の父”プロパトールを理解したいという欲望を抱いてしまったことから失墜、アカモートと呼ばれる悪しき分身と闇を生み出して地上へ幽閉されてしまう。このアカモートの一柱であるデミウルゴスが、世界と人間を生み出したと説くのである。

     創成を行う「AIカネコ」搭載の「オオカミ」は偽神であり、ゲーム世界の外側である現実に、ゲームに先立って存在する創造主=「画家K」こと金子一馬氏がある。このグノーシス主義的な構造が、『神魔狩りのツクヨミ』に見て取れるのである。

     本作とグノーシス主義を結びつけるのは、いささかムー的に過ぎる視点かもしれない。

     だが金子一馬氏と言えば、かつて『真・女神転生』シリーズをはじめとした、神話伝承の構造やオカルティックな要素を、フレーバーとしてではなく、構造的に組み込んだゲーム作品を手掛けてきた稀有なゲームクリエイターだ。そんな氏が、最新作を世に問うにあたって、AIで神や悪魔の絵を生成したカードゲームを作りました、という技術的なアプローチのみで作品を作るとは思えない。

    偽神の創成が真の神魔となりうる

     このゲームでは、同じ神魔でもプレイヤーによって見ている姿(カードの絵柄)が異なることになる。ゲーム内ではほかのプレイヤーが作り出した神魔の絵柄を見て、気に入ったものに投票できる場所も組み込まれている。なんと、そこでプレイヤーたちから支持が集まったものについては、真の創造主である金子氏が描きなおすというのだ。

     かつて錬金術師たちは、フラスコの中で金属を変成させるべく大いなる業の秘儀と智慧を追い求めたが、それは決して金を得たいという欲望ではなく、卑金属を完全な金属である黄金へと変容させる賢者の石を錬成する過程の探求であった。術師自身も卑しい人間から、完全なる神へと変容せんとした哲学体系なのである。

     このゲームの真の本質こそは、世界創造という神の御業に人類が迫り、神の御業を手に入れんとする、グノーシス主義的アプローチの“儀式”なのではないだろうか?

     ちなみに今回は割愛したものの、ゲーム中の世界観はタイトルに冠された“ツクヨミ=月読命”からもうかがえるような日本神話のモチーフが印象深い。主人公ツクヨミや、金鵄という『日本書紀』で神武天皇を導いた八咫烏の如き相棒といったような、日本神話的な何重もの暗喩であるかのように精緻に配置されている。グノーシス主義的な視野で日本神話がどう再構築されるのか、興味深いところだ。

     このゲームはシェイクスピア『お気に召すまま』からのエピグラフである、“この世界は舞台である”といった銘句から幕を上げる。この非常に稀有なゲームから顕現する神魔の姿こそは、今後我々のmeme=神魔の遺伝子となって本物の神魔を創成することになるのかもしれない。

    <作品情報>
    「神魔狩りのツクヨミ」
    ジャンル:カード創造ローグライク
    対応端末:iOS、Android、PC(Steam)
    価格:アイテム課金制(基本プレイ無料)
    公式サイト:https://jintsuku.jp/
    ©COLOPL, Inc.

    ※掲載している画像は先行体験版の内容のものです。

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