「源氏物語」六条御息所の生き霊と無意識/吉田悠軌・怪談解題
怪談・オカルト研究家にして作家の吉田悠軌が、古典から「都市伝説」まで古今の名作怪談をリライトし、恐怖の核をひもとく新連載。初回に選ばれたのは、1000年にわたり読み継がれるあの物語に潜む、怖ろしくも切
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文=シークエンスはやとも 構成=倉本菜生 イラスト=ネルノダイスキ
霊界と芸能界、そして都市伝説界隈から世界を見る芸人が、気になる噂のヴェールをめくる。今回は「生き霊」について。SNSで飛び交う言葉たちに宿った生き霊はお祓いしにくい?
都市伝説を愛してやまない吉本興業所属の霊能者、シークエンスはやともです。今回は「生き霊とSNS」について語っていきます。
生き霊とは、生きている人の魂がだれかに向けて飛び出たものといえます。人間の魂には、生まれながらに持つ「根源的な魂」と、成長の過程で芽生える「表層的な意識の魂」があります。このどちらか、または両方の魂が刺激されることで、人は強い想いや念を抱きます。そして感情が一定の強さを超えると、生き霊となって放たれる……と思います。
生き霊には、意識的に飛ばしているものと、無意識に飛ばしているものがあります。「好き」「気になる」と思っている相手には、無意識に生き霊を飛ばしているわけです。みなさんがスマホの待ち受けにしている相手にも、確実に飛んでいってますからね(笑)。
だからといって罪悪感を持つ必要はないです。好き嫌いくらいの感情であれば、何も悪影響はありません。
ただ、「呪ってやる」「死んでしまえ」など、強い憎しみや呪いの感情を持ちつづけてしまうと、生き霊を飛ばした本人に〝何か〞が返ってきます。運や対人関係が悪くなったり、何もかもうまくいかなくなったり……。
相手を呪うって、過去の時間に囚われることです。そんな状態でいると、エネルギーが削られ、自分の時間が前に進まなくなっていく。肉体は生きていても、心が死んでいる状態になる。そして、本人はその事実に気づけない。
実は生き霊は死霊より強いんです。もし両方憑りついていた場合、お祓いをすると死霊は比較的すぐ取れます。でも、生き霊は取れてもまた戻ってくる。飛ばしている本人が生きつづけている限り、生き霊は何度でも戻ってくるし、時間とともに変化して強くなります。
ただし、お祓いで取れる生き霊もいます。それは「過去の自分の生き霊」です。たとえば、僕がA子ちゃんと恋愛トラブルを起こし、彼女を恨んでいたとしましょう。許せないと考えつづけていたけど、時がたってB子ちゃんに出会い、A子ちゃんのことはすっかりどうでもよくなる。でも、A子ちゃんには恨んでいた当時の僕の生き霊が残ったままなんですよ。こういうケースはよくありますが、お祓いすれば二度と戻ってこないので、安心してください。
僕のSNSには、「生き霊が憑いている気がする」「運が悪いのは生き霊のせい?」といった相談が山ほど届きます。実は、生き霊は感知しているかどうかもすごく重要なんです。
SNSの普及により、かつては見えなかった他人の悪意や噂話が可視化されるようになりました。SNSは、自分が人からどう思われているかを強く意識させる装置です。だれかの投稿を見て「これ、私のこと?」と感じることもありますよね。逆に、SNSをいっさいやっていないスポーツ選手や企業は「クレームなんて来たことがない」といいます。これって「霊感がないから霊が視えない」と同じだと思いませんか?
つまりSNSを使うと、「だれかの生き霊をキャッチしてしまう感覚」が研ぎ澄まされていくわけです。でも、そこにあるのは言葉だけで、モノとしての実体はない。この状態って、まさに霊界そのものですよね。
言葉には霊力が宿る。SNSに放った言葉は生き霊となってひとり歩きします。先ほどの「過去の自分の生き霊」と同じ状態です。ムカつく、悔しい、許せない。発したときの言葉が、想いの死体となって力を持ってしまう。
さらに投稿を見返したり拡散されたりすると、過去に飛ばした生き霊が自分のもとに戻ってきます。SNSは、1時間前、1年前、10年前の自分の亡霊と一緒に過ごしているようなもの。アカウントに生き霊が紐づいているといってもいいかもしれません。SNSは、死者の集まる霊界なんです。
みんな過去に執着し、ノスタルジーの亡霊と化している。近年、昔の作品のリバイバルやリブートが流行っているのも、ネット霊界を意識しているからでしょう。過去のものを出せば、死者たちが「うわー! 俺たちの青春時代が返ってきた!」と反応してくれるわけですから。
「現代は生き霊のほうが力を増しているな」と感じることが増えてきました。これからの時代、YouTuberなどの人気商売をやる人にとっては、あえて「生き霊を集めること」が重要になってくるかもしれません。
冒頭で説明したように、生き霊とは「根源的な魂」もしくは「表層的な意識の魂」のことです。そして人に飛ばし飛ばされ、SNSに渦巻いている生き霊の多くが、表層的な意識の魂です。
生き霊が飛ぶ頻度や粘着の強さは、対象との接触頻度や心の距離感によって変わります。YouTuberは、基本的に毎日動画やSNSを更新し、定期的にリアルイベントを開催したほうがいいといわれています。これはファンとの接触頻度を上げるための戦略ですが、「生き霊を離さないため」ともいえます。どれだけ多くの人に生き霊を飛ばしてもらえるか。その生き霊パワーが影響力にも直結します。表層的な魂に訴えかければ、人々が騒いでくれて、SNSでも話題になる。つまり、商売としては成立しやすいんですよね。
モノをいいたくて騒ぎたい人たちに対して、どう接すれば喜んでもらえるのか。そこを押さえることが、生き霊を集める鍵になっているんです。
昔の芸能界では、才能や技術で根源的な魂を揺さぶれる人に人気が集まっていました。でも今は、登録者数やフォロワーといった、目に見える数字で評価される。僕自身、芸人としての自分の存在を「どこまでいっても安いな」と思っています。表層的な魂は動かせても、根源的な魂を動かせるものを作り出せた自信が、一度もないからです。
こんな見方もできます。多くの人の意識を惹きつけている存在が何かをやらかせば、その人に憑いている生き霊たちがネット上でざわつき、新たなお金が生まれる。スキャンダルを扱った有料記事が売れ、暴露動画の再生数が回る――と。まさに、意識が価値を持つ世の中になったということです。意識(生き霊)の二段活用ですよ。
意識活用の究極の形が、メタバースの発展です。インターネット上の仮想空間で、肉体のない精神体で過ごす。技術がさらに進化すれば、AIが意識を調整・選別し、ひとりひとりの思想に合わせた「意識体の個別の環境」が作られていくでしょう。
より自分に最適化された空間で、同じ思想を持つ人たちと意識体レベルで過ごせるはず。それはエコーチェンバー状態のSNSより幸せな未来かもしれませんね。
(2025年 月刊ムー5月号)
シークエンスはやとも
1991年7月8日、東京生まれ。吉本興業所属の〝霊が視えすぎる〞芸人。芸能界から実業界、政財界にも通じる交友があり、世相の表も都市伝説も覗いている。主な著書に『近づいてはいけない いい人』(ヨシモトブックス)、『霊視ができるようになる本』(サンマーク出版)など。
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