「心理臨床における「あの世」のゆくえ」/ムー民のためのブックガイド

文=星野太朗

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    心理臨床における「あの世」のゆくえ

    石川勇一/鈴木康広/森岡正芳/井上ウィマラ 著

    「セラピストはこの世と他界との往還を果す」

    「本書の中心となる課題は、〈あの世〉である」、と本書は断ずる。本書によれば、統合失調症や自閉症の患者は「われわれに成り代わって、現代の他界の問題を引き受けている人」にほかならず、そんな彼らと対峙する「セラピストはこの世と他界との往還を果すことが基本となる」。ではその「他界」「あの世」とはどういうものなのか。

     本書は全8篇の学術論文を通じて、「あの世」を多角的に観照しようとする試みである。起点となっているのは、2022年9月に開催された日本心理臨床学会のシンポジウム。

     著者の4氏には、いずれもかつて、日本を代表する心理学者であり、文化庁長官も務めた河合隼雄の薫陶を受けたという共通点がある。河合は生前、「魂ということを入れ込んだ知の組み替え」を説き、さらには冥界に行って戻るというような仏教説話は単なる空想ではなく「ある種の事実」を記述したものである、と断じていた。
     そんな河合の「たましい」を受け継ぐ愛弟子たる著者らにとって、「心理臨床における〈あの世〉のテーマはその必然的な帰結にほかならない」。そんな彼らは、それぞれの分野で活躍しつつ、実際に自ら神秘体験などもされているようだ。
     何しろ学会で発表された学術論文集であるから、生半可な覚悟では取り組めるものではないが、「あの世」に関心のある真面目な読者には、ぜひ手に取ってご覧いただきたい。

    春秋社 3850円(税込)

    (月刊ムー 2025年2月号掲載)

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