怖い話はネット空間で育まれるーー「ネット怪談の民俗学」/ムー民のためのブックガイド

文=星野太朗

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    ネット怪談の民俗学

    廣田龍平 著

    日本のネット怪談の大まかな見取り図を提示

     著者の廣田龍平氏は、文学博士であり、法政大学をはじめとする、さまざまな大学で非常勤講師を務めている。
     文化人類学・民俗学的な妖怪研究に従事し、著書として『妖怪の誕生 超自然と怪奇的自然の存在論的歴史人類学』(青弓社)、『「怪奇的で不思議なもの」の人類学 妖怪研究の存在論的転回』(青土社)などがある。この標題だけでも、これらが学問的に極めて厳密な内容であることは想像がつくだろう。

     本書は、そんな文字通りの「妖怪博士」が、21世紀の今、「怖い話」が最も多く生まれている場所と思しい「インターネット」を俎上に上げ、「日本のネット怪談の大まかな見取り図を提示」しようとする意欲作。
    「きさらぎ駅」や「くねくね」、「八尺様」「コトリバコ」「時空のおっさん」などなど、採り上げられる素材は多種多様。
     著者の依拠する学問的武器である「民俗学」は、人々(「民」)を「対啓蒙主義的、対覇権主義的、対普遍主義的、対主流的、対中心的なヴァナキュラー」(「俗」)の観点から研究する学問。これを自在に駆使する著者は、極めて冷徹かつ学問的に、ネット怪談の世界を網羅し分析していく。

     それにしても、ちゃんとした学術書の中で「クソスレ」だの「なんJ」だのという単語を目にすることになろうとは思いもしなかった。これもまた時代なのかと、感慨を新たにした次第である。

    早川書房1276円(税込)

    (月刊ムー 2025年1月号掲載)

    星野太朗

    書評家、神秘思想研究家。ムーの新刊ガイドを担当する。

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