九龍城砦や軍艦島の住民の息遣いが聞こえる! 話題の古書店主が語る「絶対外せない廃墟写真集」

構成=伊藤綾 編集=千駄木雄大

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    いま密かに話題の古書店「書肆ゲンシシャ」の店主・藤井慎二氏が、同店の所蔵する珍奇で奇妙なコレクションの数々を紹介!

    「驚異の陳列室」を標榜し、写真集や画集、書籍をはじめ、5000点以上にも及ぶ奇妙なコレクションを所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。

     まるで、温泉街には似つかない雰囲気だが、SNS投稿などで同店のコレクションが話題を呼んでいる。その奇妙さに惹かれ、九州のみならず全国からサブカルキッズたちが訪れる、別府の新たな観光スポットになった。

     知覚の扉を開くと、そこは異次元の世界……。ようこそ、書肆ゲンシシャへ。

    廃墟は老若男女みんな好き?

    藤井慎二(以下、藤井)  今回のテーマは「廃墟」です。

    ――廃墟は近年、ブームを通り越して人気が定着していますよね。

    藤井  うちのなかではライトなコレクションですけどね(笑)。とはいえ、廃墟に興味を惹かれる人というのはとても多く、誰にでもオススメしやすいジャンルです。

    ――確かに、友達に連れられてお店に来た人も廃墟だったら楽しめそうですね。

    藤井  うちに来るお客さんは、「死」のほか、亡骸や廃れたものも好まれる傾向があります。

    ――そう考えると、廃墟は「死んだ建物」あるいは「建物の亡骸」とも捉えられますね。

    藤井  1911年には哲学者、社会学者のゲオルク・ジンメルが廃墟論を著すなど、古くから人々の関心の対象となってきました。今回は海外の写真集やアーティスト・芸術家が撮った廃墟写真といったものも紹介していきましょう。まずは定番の『九龍城砦』(彩流社)という写真集です。

    『九龍城砦』(彩流社)

    ――九龍城砦(くーろんじょうさい)といえば、香港にあった巨大な高層コンクリートスラムですね。もともと治外法権の飛び地だった場所に、香港がイギリスの植民地だった時代に日本軍が進駐したり、国共内戦の難民がなだれ込んだりして、誰も介入することができない無法地帯となってしまいました。

    藤井  まさに魔窟ですね。

    令和時代もカルト的な人気を誇る「九龍城砦」

    ――しかし、香港が1997年に中華人民共和国に返還されることが決まり、1993〜1994年にかけて取り壊されます。押井守監督のアニメーション映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)にも、ここをモデルにしたような場所が登場しますよね。

    藤井  そうですね。本書を撮影したのは宮本隆司氏で、初版発行が1988年の写真集ですが、何度も復刻されており、うちにあるのは2017年のデジタルリマスター版です。この版もすでに売り切れていてプレミアが付いています。

    ――初版はペヨトル工房だったのですね。今の版はいくらぐらいするのでしょうか?

    藤井  1万円ぐらいで買えるはずです。本書の写真は1987年から1993年にかけて撮影されたものです。宮本隆司氏は『九龍城砦』と『建築の黙示録』(平凡社)で1989年に木村伊兵衛写真賞を受賞し、建築物の終焉を撮影し続けています。「現代アートの聖地」として知られる直島でも展示を過去に行っています。

    『建築の黙示録』(平凡社)

    ――九龍城砦の取り壊し計画を1987年に香港政庁が発表したため、そこから取り壊し直前までに撮られた写真ということですね。

    藤井  九龍城砦にはいくつか有名な写真集があり、グレッグ・ジラード氏の『九龍城探訪 魔窟で暮らす人々 – City of Darkness』(イースト・プレス)もいいですね。日本語版は洋書版より写真が小さいため、写真だけ見たい人には洋書がおすすめです。増補版の『City of Darkness Revisited』は今、定価が2万円くらいで、前の版『City of Darkness』もプレミアがついて同じくらいの値段ですね。

    『九龍城探訪 魔窟で暮らす人々 – City of Darkness』(イースト・プレス)

    ――いずれにしても希少性は高いということですね。

    藤井  九龍城砦と並んで人気なのが、軍艦島です。軍艦島の写真集の中でも私の一番のお気に入りは雑賀雄二氏の『軍艦島:雜賀雄二写真集 棄てられた島の風景』(新潮社)です。物体・オブジェとしての質感や美しさが、よく写し出されているような感じがします。

    『軍艦島:雜賀雄二写真集 棄てられた島の風景』(新潮社)

    ――建物や部屋など、島の内部の写真が目立ちますね。

    藤井  軍艦島の写真集というのは、外から引きで全体像をメインに撮るものも多い。しかし、本書は部屋の中にかかったカーテン、衣料品店のマネキンなど……。内部に迫っているのが特徴的ですね。軍艦島の部屋の内部は、現在は見られないみたいなので、とても貴重な記録です。軍艦島の写真集には、ほかにもフランスの写真家イヴ・マルシャンとロマン・メッフルが2008年から2012年にかけて撮影した『Gunkanjima』があります。

    ――軍艦島はみなさん、気になると思うので、次回詳しく聞いていきましょう。

    書肆ゲンシシャ

    大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜し、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1時間1,000円で、紅茶かジュースを1杯飲みながら、それらを閲覧できる。
    所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
    http://www.genshisha.jp

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