奈良には「鬼の子孫」がいる! 古都に生きる鬼たちの伝説と現場へ/奈良妖怪新聞・オニ厳選
知る人ぞ知る「妖怪情報専門紙」が100号を達成!これまでに収集した膨大なデータから、オススメの「オバケ」を厳選紹介してもらった。
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リアル河童マスコット誕生から10年。妖怪の町・福崎町では次世代をになう新たな妖怪プロジェクトが動き出していた……!
不気味すぎる! と大バズりしたリアル河童キャラクター・ガジロウの誕生をきっかけに、世にも珍しい「妖怪町おこし」をスタートさせた兵庫県福崎町。ガジロウに続いて妖怪ベンチの設置などユニークな施策を次々と打ち出し、今や年間80万人もの観光客を集める日本屈指の「妖怪の町」へとステップアップした。
ところで、ガジロウが誕生したのは2014年で、今年はちょうど10年目。長期計画でいえば第2段階に差しかかるあたりだが、妖怪の町はこの先どんな展望を見据えているのだろう。
福崎町ネクスト妖怪化プランの鍵を握る、ふたりのキーパーソンに話をきいた。
妖怪の町としての福崎町の取り組みは、行政の枠をこえて意外なところにも波及していた。それが福崎町に広大なキャンパスを構える、神戸医療未来大学だ。スポーツ、ヘルスケアや福祉系の人材を輩出し、野球の強豪校としても知られるこの大学に、2023年から「妖怪学」の講義が誕生したのだ。
この講義を担当するのが、妖怪文化研究家の木下昌美さん。奈良県在住の木下さんは奈良県内に埋もれかけた地域のおばけ話をたったひとりで取材、編集して『奈良妖怪新聞』を発行。この夏で通算100号を達成するなど、土地に根ざした妖怪文化の発掘、普及活動を精力的に行なっている。
妖怪の町・福崎で生まれた新たな取り組み「妖怪学」、その手応えは?
――「妖怪学」の講義ではどんなことを教えているのでしょう? 学生さんの反応はどうですか?
木下昌美 神戸医療未来大学はスポーツに力を入れている大学ということもあり、体育会系の学生さんも多いんです。なので、もとからすごく妖怪に興味があって履修したという学生ばかりではありません。どちらかといえば「珍しい講義があるから1コマとってみようかな」くらいのテンション。
そういう偶然のきっかけで興味を持ってくれた学生たちに、せっかくなので地域のことを知ってほしい、自分が暮らす場所のことを知ろうよというのが「妖怪学」のひとつの目的です。講義ではまずはガジロウの話題から入りますが、その後は福崎町に限定せず、兵庫県をメインとして地域ごとのおばけの話をしています。
――なるほど、まずは妖怪文化に興味をもってもらうところから。
木下 具体的には、たとえば自分の親やおじいちゃんおばあちゃん、知り合いに地域の妖怪について話を聞いてみて、という課題を出しています。ただ、こうした聞き取り調査は学生にはハードルが高いところもあります。私でもやっていて難しさを感じることがあるくらいなので(笑)。
また、私のフィールドワーク経験などを伝えて「妖怪とは何か」という第一歩を伝えることも目指しています。
――お話を聞くと、たしかにもともと「妖怪大好きです!」という文系の若者とはずいぶん違った反応がありそうですね。
木下 だからこそ逆に面白いところもありますよ。たとえば「どんな妖怪を知っている?」と質問すると、ほとんどの学生さんが答えるのが妖怪ウォッチなんです。妖怪ウォッチのアニメ放映が始まったのが2014年で、いまの大学生はまさにその世代。
去年の講義では「ゲゲゲの鬼太郎」という答えがほとんどなかったのも印象的だったんですが、今年はヒット映画の影響か逆に鬼太郎が9割になりました(笑)。また今は動画配信サービスがあるので「地獄先生ぬ〜べ〜」と答える学生もいます。ぬ〜べ〜となると私の世代なので意外に思ってしまいます。
――世代ギャップ。教える側にとっても貴重な情報収集の場になっていますね(笑)。
木下 「妖怪」に対して持っているイメージがバラバラなのも面白いです。共通しているのは「妖怪=怖いもの」ということで、9割くらいの学生がそう回答しますがこれも興味深い点ですね。
世代ギャップの面でいえば、「自分の出身地や地域に関する伝承を聞いてきて」という聞き取り調査の課題に「これはネットで検索したのかな」と思う回答が提出されることがあります。難しさを感じますが、でもそれも一面では現代らしくもあるなと思うんです。人に尋ねることとネットで検索することが、その学生にとっては同じ意味なのかもしれないですよね。
神戸医療未来大学には寮もあって、近県だけでなく全国から進学してくる学生がいます。海外からの留学生もいるのですが、そんな多様な出身地をもつ学生に、こういう機会をきっかけに妖怪について考えてもらえたらと思っています。
神戸医療未来大学の学生は福崎町の祭りや行事にも参加することが多く、町にとってもありがたく嬉しい存在だそう。また在学生の3〜4割が学内の寮で生活しているのだが、大学では昨年この寮の名前を魑魅魍魎をもじって「チミモウ寮」と命名。秋にはチミモウ寮祭と名付けられた学祭がおこなわれ、ハロウィン仮装コンテストなどが繰り広げられる。大学内には福崎町のマスコット河童・フクちゃんサキちゃんの妖怪ベンチも設置されている。
妖怪の街にふれあい、チミモウ寮で暮らしながら妖怪学を受講して育った若者のなかから、未来の妖怪文化を担う人材があらわれるのかもしれない。
続いて話をうかがったのは、2019年から現職の尾﨑𠮷晴福崎町長。町職員という立場で40年以上も町政に携わり、いま妖怪の町を率いる町長は、この先の展望をどのように構想しているのだろう。
――福崎町が妖怪の町としてスタートしてからのこの10年には、どんなことがあったのでしょう?
尾崎町長 福崎町の辻川は、民俗学者の柳田國男先生が幼少期を過ごした地です。そこで町ではもともと「柳田國男先生誕生の町」をPRしていたんですが、テーマとしてはやや高尚でしょう? なかなか外から興味を持って訪ねてもらいにくい部分がありました。
より多くの方に町に来てもらうには……ということでガジロウが誕生したんですが、まずSNSで話題になり、それから民放が、そしてNHKもたびたび取材に来てくれるようになり、ずいぶん人気者になりました。
福崎には、県指定文化財である大庄屋三木家住宅の一部を改修・利用した「NIPPONIA 播磨福崎 蔵書の館」というホテル、レストラン、カフェ併設の施設があるのですが、今年はガジロウ誕生10周年ということで、ここで「ガジロウがお手伝いする結婚式」を企画しました。1か月間ほど募集期間を設けたところ何組も応募がありましたよ。ガジロウのおかげで福崎もずいぶん有名になりました。ガジロウさまさまです(笑)。
――さきほど「ガジロウを洗う式」をみてきましたが、町では斬新な企画をたくさん打ち出していますね。
尾崎町長 妖怪ベンチフォトコンテストは今年で3回目で、第1回から最優秀賞の副賞として「ガジロウを洗う権利」を贈呈してきました。これまでの2回は受賞者がお子さんだったので楽しそうに洗ってくれましたが、今回は大人のかたでしょう? さすがにそんなのもらっても困るやろうと思っていたんだけど、喜んでくれてなによりでした。
ガジロウはSNSも好評ですし、ガジロウは一日警察署長も一日駅長もやって、いずれ消防署長もやってもらおうかと考えているんですが、今では忙しすぎて出張のお願いをもらってもだいぶお断りせざるをえないような状況です。
――妖怪の町・福崎として、今後はどんな方向性を目指しているのでしょうか?
尾崎町長 ガジロウも妖怪ベンチも有名になってありがたいですが、なんといっても福崎町は柳田國男先生あってこそです。もちろん妖怪も大切ですが、やっぱり福崎の宝物は柳田先生なんですよ。ですから、ガジロウ目当て、妖怪目当てでお客さんがいっぱいきてくれた、ああよかったなあ……で終わってしまうのは違うかなと思っているんです。
もちろん観光客がたくさん足を運んでくれるのは嬉しいことですが、妖怪に興味を持ってもらったら、そこから次は柳田先生にも注目してもらって、さらには日本の民俗学にも興味をもってもらいたい。最終的にはそれが福崎町のさらなる賑わいにつながるような、そういうありかたがベストな町の未来かなと考えているんです。
そういう意味でも、神戸医療未来大学が妖怪学の講義をはじめてくれたことはとても意義のある取り組みだと思います。福崎町では日本民俗学会奨励賞を受賞した研究者に副賞として福崎町賞を贈呈していますが、いろんなことをして、それらが柳田先生に帰ってきて、観光面も文化面もどちらも盛り上がっていったらいい。
――『遠野物語』の遠野町など柳田國男にゆかりのある町はいくつかありますが、生誕の地は福崎だけですね。
尾崎町長 いまは妖怪といえば水木しげる先生ですが、水木先生も『妖怪談義』をはじめ柳田先生に大きな影響を受けているわけですよね。ということは、じつは柳田先生生誕の地である福崎町こそ「元祖・妖怪の町」じゃないかと思っているんです。あまり大きな声ではいえないもので、近い人にだけこっそり言っているんですが(笑)。
ガジロウと妖怪を観光のブースターにして、「民俗学の町」「柳田國男誕生の地」としての福崎町をさらに伝えていきたいという尾崎町長。町長はじめ、福崎町職員のかたは誰もが必ず「柳田先生」と敬意をこめて呼んでいるのも印象的だった。
じつは福崎町では過去に、柳田國男ゆかりの自治体に呼びかけて「柳田國男サミット」を開催したこともある。2025年は奇しくも柳田國男生誕150年という節目の年。福崎町が起爆剤となって、民俗学をめぐるあらたなムーブメントが起こされるかもしれない。この先の展開が楽しみだ。
(つづく)
webムー編集部
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