「毒草地獄」「蟻の試練」から「グソーヌニービチ」まで…! 話題の古書店主が語る世界各地の不思議な風習

構成=伊藤綾 編集=千駄木雄大

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    いま密かに話題の古書店「書肆ゲンシシャ」の店主・藤井慎二氏が、同店の所蔵する珍奇で奇妙なコレクションの数々を紹介!

    「驚異の陳列室」を標榜し、写真集や画集、書籍をはじめ、5000点以上にも及ぶ奇妙なコレクションを所蔵する大分県・別府の古書店「書肆ゲンシシャ」。

     まるで、温泉街には似つかない雰囲気だが、SNS投稿などで同店のコレクションが話題を呼んでいる。その奇妙さに惹かれ、九州のみならず全国からサブカルキッズたちが訪れる、別府の新たな観光スポットになった。

     知覚の扉を開くと、そこは異次元の世界……。ようこそ、書肆ゲンシシャへ。

    痛みを伴う世界の成人式!

    ――前回に引き続き、今回も世界各地の奇妙な風習について紹介してもらいます。

    『世界の奇習』(大陸書房)

    藤井慎二(以下、藤井)  篠田八郎著の『世界の奇習』(大陸書房)は興味深い一冊です。1969年刊のプレミア本で「失われゆく乳房の島バリ」という章では、インドネシア元大統領・スカルノのエピソードが紹介されています。バリ島は「世界でもっともすばらしい乳房の島」とフランスの彫刻家に讃えられたそうですが、「『いかに乳房が美しいからといって、真昼間街中をブルンブルンさせて歩くなど、国辱的な風俗だ。以後、きつくブラジャーでしめあげよ!』と、のたもうた」という記述があります。

    ――一国の大統領が「ブルンブルン」とか言いますかね。そういった、主旨の発言はあったのかもしれませんが……。

    藤井  少し古い本ということもあってか、表現が独特なんですよね。また、本書ではさまざまな成人の儀式、通過儀礼も紹介しています。「毒草地獄」や抜歯など、いろいろあるのですが、南カリフォルニアのある民族は、成人する男性が最高のご馳走にあずかった後、素っ裸にされ、蟻穴に放り込まれる「蟻の試練」を行います。その蟻に刺される苦痛は尋常ではないらしく、「いまにも絶叫しそうになるのを必死になって我慢する。悲鳴をあげたら“成人”落第」だそうです。

    ――毒草地獄も厳しそうな試練ですね。

    藤井  台湾の高砂(タカサゴ)族では、蟻の代わりに毒草が用いられる成人の儀式があり、同じように真っ裸の状態で毒草を体に擦り付けられるとのことですね。こちらの毒草も指に触れただけ飛び上がるような痛さとのことで、どちらも男性向けのイニシエーションです。

    ――成人式で好き勝手に暴れることができる日本は、まだ平和かもしれませんね。

    鳥葬、冥婚、纏足…… 貴重な風習の記録

    『鳥葬の里―チベットの民と自然を訪ねて』(Lyon books)

    藤井  奇習を個別に解説した本も紹介しましょう。『鳥葬の里―チベットの民と自然を訪ねて』(Lyon books)では、実際の鳥葬の様子を写した写真が載っています。丘の上の天葬台というところで、鳥が食べやすいようにバラバラにした遺体に、ハゲワシが群がってくるのです。

    ――死後といえば、生きている者と死者、あるいは死者同士が結婚する「冥婚」の風習も有名ですね。

    『死者の結婚 祖先崇拝とシャーマニズム』(北海道大学出版会)

    藤井  冥婚マニアというのは本当にいるんですよ。「冥婚の本が読みたい」と言って、うちの店に来る人がけっこういます。冥婚の風習については『死者の結婚 祖先崇拝とシャーマニズム』(北海道大学出版会)にかなり詳しく書かれています。

     たとえば、未婚で亡くなった男性を絵馬の中で結婚させる山形県の「ムカサリ絵馬」、未婚で亡くなった男性と架空の女性の人形を一緒に埋葬して、あの世で結婚させる青森県の「花嫁人形」。そして、離婚した女性の遺骨を、元の夫の遺骨の甕に並べて葬り直す「グソーヌニービチ(後生結婚)」という沖縄県の風習についても書かれています。

    ――日本国内だけでもさまざまな風習があるのですね。

    『カストラートの歴史』(筑摩書房)

    藤井  また、死にまつわる風習以外では、去勢された男性歌手・「カストラート」は女性からの注目度が高いです。『カストラートの歴史』(筑摩書房)、『カストラートの世界』(国書刊行会)に詳しく書かれています。

    『カストラートの世界』(国書刊行会)

     また、耽美な作風で知られるマンガ家の鳩山郁子氏による、カストラートを題材にした『カストラチュラ』(青林工藝舎)という作品もオススメです。

    『カストラチュラ』(青林工藝舎)

    ――声変わりの前に去勢して、子どものようなソプラノで歌い続けられる男性歌手のことですね。今風にいうと、身体改造の一種みたいな風習ですよね。

    『Living History: Bound Feet Women of China』

    藤井  身体改造という観点でいうと『Living History: Bound Feet Women of China』という、イギリス出身で、香港を拠点に活動している写真家、ジオ・ファレルが纏足の女性を撮った写真集も最後に紹介しましょう。高齢になった纏足の女性を被写体に、消えつつある纏足の習慣を記録しています。装丁のデザイン性も高いです。ちなみに、纏足の靴に関する書籍も人気で、『Splendid Slippers: A Thousand Years of an Erotic Tradition』という纏足用の靴について写真つきで解説している本もあります。

    ――残酷な風習ですが、確かに靴自体はオシャレでかわいらしく見えてしまいますね。

    藤井  『纏足の靴』(平凡社)という、纏足用の靴を写真つきで紹介した日本語の本もあります。纏足について書かれた本は多く、風習として注目されているようです。

    書肆ゲンシシャ

    大分県別府市にある、古書店・出版社・カルチャーセンター。「驚異の陳列室」を標榜し、店内には珍しい写真集や画集などが数多くコレクションされている。1時間1,000円で、紅茶かジュースを1杯飲みながら、それらを閲覧できる。
    所在地:大分県別府市青山町7-58 青山ビル1F/電話:0977-85-7515
    http://www.genshisha.jp

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