300年生きた武内宿禰と鶴亀がコラボした鹿児島・箱崎八幡神社は最強の長寿スポット!? 日本一巨大な鈴と小さな鈴もここに!

文・写真=小嶋独観

関連キーワード:
地域:

    珍スポ巡って25年の古参マニアによる全国屈指の“珍神社”紹介! 今回は鹿児島県出水市の箱崎八幡神社をレポート! 鶴・亀・鈴が混在するカオスな光景に打ちのめされる!

    狛犬の代わりに鶴のオブジェ!?

     鹿児島県北部の出水市に箱崎八幡神社という神社がある。古くは薩摩藩の島津家とも縁のある歴史ある社だ。そこが今、面白い事になっているという噂を聞きつけ、行ってみることにした。

     県道沿いには結構な規模のツルの群像のオブジェが。何だこりゃ? と思ったらそこが神社の入り口であった。

     鳥居の手前には巨大な鈴があり「日本一の鈴」という文字がチラリ。ツル? 鈴? 一体どんな神社なんだ? と頭が混乱しつつ先へと進む。

     駐車場に車を停め神社に向かう。訪れたのは新春。まだ松の開けない頃だったので、大勢の初詣の参拝客が訪れていた。

     入り口には一対の巨大なツルのオブジェ。3メートルは優に超えるサイズだ。まるで狛犬や仁王像のように左右に立って、来る者を睥睨している。しかも顔が赤くて怖いぞ。

     そういえば、出水市はツルが越冬のために飛来する土地だと聞いたことがある。それで先程の県道沿いにもツルのオブジェがあったのか。

     大きなツルを超えると門が見えてくる。近づくとその門の中に巨大な鈴が下がっていた。

     コレが日本一の大鈴なのである。確かにデカい! 直径3.4メートル、高さ4メートル、重さは5トンもあるという。金箔が貼られた表面には、やはり飛び立つツルのレリーフが彫刻されていた。

     この巨大な鈴は、門と一緒に平成十年に作られたものだ。伊勢神宮の鎮座二千年と上皇陛下の在位十年、そして神社本庁設立五十年を記念して作られたという。

     見上げれば巨大な鈴から綱が下がっており、その綱を引っ張ると鈴が鳴らせるようである。他の参拝客が鳴らしていたのを聞いていたが、巨大鈴自体の音なのか、綱に括り付けられていた小鈴の音なのか判断できませんでした。

     巨大な門を潜ると境内の様子が見えてくる。ここもまたカオスな雰囲気に溢れている。

     参道の左側には、ツルを抱いた神様の像が立っている。鶴神様と記されているが、祭神の武内宿禰がモデルなのであろう。武内宿禰がツルを抱いたエピソードなど聞いたことはないが300年以上も生きたという日本最長寿の神様と鶴千年とも言われるツルのコラボは長寿祈願には持って来いの組み合わせだ。

     さらにその下にもツルがおり、撫でて願いを込めるようだ。

     傍らには亀の像も。説明書きによると、かつては出水にもカメが産卵のために浜にやって来たという。日本最長寿の神様と千年生きるツル、さらに万年生きるというカメという長寿トリオが一堂に会する長寿スポットなのだ。まあ、カメは後付けっぽいが。

     さらにツルとカメの間には、日本で2番目に小さい鈴が。日本一大きい鈴の次は日本で2番目に小さい鈴とな!……こうなると日本一小さい鈴の存在が気になるところだが、安心してください! ちゃあんとこの神社にあります。

     大さわずか数ミリの鈴。金銀一対になっている。こちらは金鈴。「どん」と付けるところが鹿児島らしい。

    「鶴推し」なのに、なぜか鳩も!?

     あまりの情報量にクラクラしてしまい早くも休憩所へ。売店で甘酒を所望し、一休み。

    しかしここでもツルの渡来の説明などがあり、精神的にはあまり休めない感じ。

     売店を見てみると、日本一の鈴を象ったお菓子があったりとなかなか油断できない。

     休憩所を出ると、参道の反対側にさらに巨大な鈴の形の建物がある。宝物鈴殿である。

     しかし、気になるのは手前の神馬の下にあるツルのオブジェ。一口にツルといっても大きさや見た目も結構違うのだ。ナベヅル、カナダヅル、クロヅル、マナヅル、タンチョウ……。

     後日調べてみると、出水は日本一のツルの越冬地なのだそうだ。その数は1万羽以上だという。なるほど、それなら神社が街の象徴である「ツル推し」になっても無理はあるまい。

     さて、ツルの次はまたしても鈴だ。宝物鈴殿という鈴型の建物。コレが日本一大きい鈴なのでは? と思うが、基本鈴とは音が鳴るもの、というルールらしく、ここはあくまでも建物という扱いなのだ。

     愛子さま誕生記念とあるので20年ほど前に造られたもののようだ。

     階段を上り中に入ってみよう。菊の紋が眩しいぜ。

     内部は案の定、円形(正確には八角形)の部屋で、この神社にまつわる宝物が展示されている。古い棟札や三十六歌仙の絵など。

     ズラリと並ぶ神楽の面。プリミティブな形状だが、歴史を感じさせる神楽面である。

     そしてお待ちかね、日本一小さい鈴。これも金と銀で対を成している。2ミリほどの鈴は肉眼では確認しにくく、虫眼鏡が置いてあった。こんなに小さくて本当に鳴るのかな? それにしてもこの神社が鈴にこだわる理由が良く判らない。ツルは判った。出水という街のシンボルであるから。一方、鈴はどうだ? 特に鈴産業が伝統工芸でも鈴生産が盛んな訳でもないだろうに。そういえば門にあった日本一の鈴の傍らに「成せば成(鳴)る、大願成就の大鈴」とあった。ダジャレ? もしかしたらこの神社とも縁が深い神楽でも鈴が使われる事から鈴を推したのかもしれない。あくまでも想像です。

     参道沿いには1メートル程の鈴のオブジェがある。これは鈴の真ん中の狭い穴を潜り抜けられれば願いが叶うというもの。

     拝殿には初詣の参拝客が数名いた。

     拝殿内では祈祷を受ける人達が神妙な面持ちで座っていた。入り口にはまたしても鳥のイラストが染め抜かれていたので、またツルだろうなあ、と思ったがよく見たら鳩だった。

     アレ?ここはツルじゃないんかい!と思わずツッコミを入れそうになったが、考えてみれば八幡神の遣いは鳩なのだ。

     軒下の蟇股にも2羽の鳩が。

     それにしてもツルと鈴に溢れた神社だった。どちらも縁起のいいモチーフだけにきっと参拝者もいい気分で帰っていく事だろう。そういう意味ではカスタマーの需要を充分に満たした神社、といえよう。

    小嶋独観

    ウェブサイト「珍寺大道場」道場主。神社仏閣ライター。日本やアジアのユニークな社寺、不思議な信仰、巨大な仏像等々を求めて精力的な取材を続けている。著書に『ヘンな神社&仏閣巡礼』(宝島社)、『珍寺大道場』(イーストプレス)、共著に『お寺に行こう!』(扶桑社)、『考える「珍スポット」知的ワンダーランドを巡る旅』(文芸社)。
    珍寺大道場 http://chindera.com/

    関連記事

    おすすめ記事