予言獣、巨大獣、一切不明の怪奇生物……海からやってくる怪獣たち/鹿角崇彦・大江戸怪獣録
江戸時代、謎の怪獣は島国ニッポンを取り囲む海からも続々と上陸していたのだ。各地で目撃された、海棲怪奇生物の正体とは?
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長野栄俊 編 岩間理紀/笹方政紀/峰守ひろかず 著
本邦初! 150点以上の資料を網羅 「予言をする想像上の獣」の大図鑑
「予言獣」とは、あまり聞き慣れない言葉かもしれないが、比較的新しい学術用語であるという。某辞書の定義によれば「人々の前に現れ、豊作や疫病の流行などについて予言するという想像上の獣」。具体的には「姫魚」や「あまびこ」、そしてよく知られる「件くだん」などが挙げられる。一時大流行した「アマビヱ」もその1種らしい(ただし、その流行については、本書では批判的に扱われている)。
本書は、著者らが自ら蒐集した150点にのぼる「予言獣」の資料を網羅して、一挙に紹介する本邦初の「大図鑑」。特に眼目ともいえる第1部「予言獣資料図鑑」は、予言獣の図版とそれについての情報、図版内の記事の翻刻、およびその現代語訳で構成されている。
本書で扱われる「予言獣」は、もっぱら江戸時代以後、「図像を伴う形のかわら版として生み出された」もの。「かわら版」とは、新聞の前身のような印刷ニュース媒体であるが、実際のニュースはもちろん、奇談やゴシップなどの、嘘ニュースも扱っていた。
そんな中、どこそこに現れた幻獣が何々を予言した、という「予言獣」関連のかわら版は、そのかわら版自体の護符的な機能(家に貼っておけば無病息災の効能があるとか)とも相まって、人気のジャンルであったらしい。
さて、一般に妖怪画といえば、絵巻物から浮世絵、さらには水木しげるまで、非常におどろおどろしく達者なイメージがある。これに対して、元々かわら版の挿絵であった「予言獣」は、絵としてのクオリティは著しく低く、子供の落書きと大差ないようなものも多々ある。
だが著者によれば、そんな稚拙な絵だからこそ、予言獣には「何とも言えない妙味がある」。さらには「ユルかったり、愛らしかったり、謎だったりする予言獣の姿形を眺め」れば、「面白さは後から付いてくる」という。
そのように、眺めているだけでも楽しい図鑑なのだが、本書の「序章」と、「第2部」に収録された4本の論説のうちの3本は、純然たる学術論文であり、本格派の妖怪マニアにも自信をもっておすすめできる。
ところで、時おり散見される「NOIMAGE」の部分は、原本行方不明につき図が掲載できなかったものとのこと。念のため。
(月刊ムー 2024年3月号掲載)
星野太朗
書評家、神秘思想研究家。ムーの新刊ガイドを担当する。
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