生誕100周年! 水木妖怪の来し方を知る「水木しげるの妖怪 百鬼夜行展」が横浜で開催中

文=杉浦みな子

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    水木しげる生誕100周年! 水木妖怪が横浜そごう美術館に出現中。

    水木妖怪はいかに生み出されたか

     今、にわかに妖怪界隈がアツい。水木しげるの漫画「墓場鬼太郎」「ゲゲゲの鬼太郎」を原作とした東映のアニメ映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」が昨年末からヒットしていることで、今改めて水木しげるの妖怪ワールドに触れ、そこに惹き込まれる人が増えているようだ。

     そんな中、ぜひ注目してほしい展覧会が、神奈川県横浜市のそごう美術館(そごう横浜店6階)で開催されている。「水木しげるの妖怪 百鬼夜行展〜お化けたちはこうして生まれた〜」だ。会期は2024年1月20日〜3月10日。

    入口を入ると早速、のんのんばあがその存在を教えた妖怪「べとべとさん」がお出迎え。 ©水木プロダクション

     本展は元々、1922年生まれだった水木しげるの生誕100周年を記念し、2022年から全国各地へ巡回してきた企画展。「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」がヒットしているこのタイミングで、満を持して横浜の地で開催される形となった。現地では、生前に水木しげるが描いた1000点近くの妖怪画の中から、「百鬼夜行」のイベント名に合わせて100点以上を一挙に展示している。

    ©水木プロダクション
    百貨店の一角にある美術館と聞くと小規模なものを想像するかもしれないが、そごう美術館はかなりスペースが広い。今回もすごい数の妖怪画や資料が揃っている。 ©水木プロダクション

     特に、水木しげるがこれらの妖怪画をどのように作ってきたのか、絵そのものだけではなく、具体的な制作手法まで紹介しているのが本展の特徴だ。
     実は水木しげるの描いた妖怪たちは、「過去の絵師が描いた妖怪画から継承した妖怪」「様々な資料から創作した妖怪」「古くから伝わる文字情報のみから創作した妖怪」の大きく3つに分かれており、その多くにルーツとなる元ネタがある。今回の展示では、それら元ネタの説明がされていて興味深い。
     例えば、皆がよく知る子泣き爺(児啼爺)は、元々は昭和初期の民俗学者・柳田國男の著書「妖怪談義」で、徳島県の山間部に現れたと書かれている妖怪だ。この記述を元に、水木しげるが三重県津市の郷土芸能・唐人踊りの仮面を参考にしつつ、その姿形を創作したのだという。

    みんな大好き子泣き爺(児啼爺)。満月とススキをバックに佇む様子に物語性が漂う。 ©水木プロダクション

     つまり本来の子泣き爺は、徳島近辺でのみ語り継がれる妖怪だった。それが今や全国区の知名度を誇っているのは、水木しげるがその姿形を描き起こして著作に登場させたからに他ならない。そんな風に、日本各地に潜んでいた民間伝承の妖怪たちが、水木しげるの筆によって多くの人に知られるようになったということが実感できる展示となっている。

     また、貸本漫画家時代の水木しげるは、原稿を届けるためにしばしば水道橋を訪れたが、その際に近くの神田古書店街をぶらつくことが少なくなかったという。上述の柳田國男「妖怪談義」など、のちの重要な資料となる妖怪本に出会ったのも神田の古書店街だった。特に、江戸時代の絵師・鳥山石燕がさまざまな妖怪を描いた「画図百鬼夜行」は水木しげるに衝撃を与え、妖怪画を描く大きなきっかけにもなったという。

     本展では、この「画図百鬼夜行」や「妖怪談義」のほか、水木しげる本人が妖怪画の参考のために収集した書籍や関連資料、妖怪文化人の系譜と著作なども合わせて展示しており、見応えたっぷりだ。

    子泣き爺など妖怪たちの元ネタが文章だけで書かれている、柳田國男「妖怪談義」。水木しげるが所有していた実物が展示されている。 ©水木プロダクション
    水木しげるに妖怪画を描かせるきっかけを作ったのが、江戸時代の絵師・鳥山石燕の「画図百鬼夜行」。ろくろ首、猫又、姑獲鳥などの絵が登場しており、水木しげるはまさに石燕を継承する形で妖怪画を描いた。 ©水木プロダクション
    水木妖怪画は、一体の妖怪につき白黒版とカラー版の2種類が制作されている。墨汁とペンによる白黒原稿はペンのアナログなタッチがわかりやすく、それをコピーして制作されたカラー原稿は水木しげる本人による美しい着色が見どころ。©水木プロダクション

    妖怪探しをしながら楽しむ

     このほか現地では、NHK Eテレ「てれび絵本」より本展用に特別編集された「水木しげるの妖怪えほん」や、妖怪への思いを語る生前の水木しげるのインタビュー映像も観ることができる。

     また、自分のスマートフォンにXR観光体験アプリ「ストリートミュージアム」をインストールしておくと、会場内に妖怪が出現する「妖怪カメラAR」を使うことができるようになる。5種類の妖怪の写真撮影ができるスポットがあり、5種類とも見つけて撮影すると、最後に水木パネルの前で集合写真を撮影できるようになっている。

    水木先生パネル前で、妖怪たちの集合写真をパチリ(筆者スマホで撮影した画像)。なお、一反もめんが分かりにくい場所にいるので頑張って見つけてほしい。 ©水木プロダクション
    プレス向け内覧会では、水木しげるの長女・原口尚子さんによる説明が行われた。©水木プロダクション

     ちなみに、会期中の水曜日と木曜日に入館した先着100名(各日)に、展覧会オリジナルの「妖怪カード」をプレゼントするキャンペーンも実施中。また、現地のミュージアムショップでしか手に入らない展覧会オリジナルグッズも多数用意されているので見逃せない。

    取材で行ったはずが気付いたらグッズを購入していた筆者。というか、展覧会オリジナルグッズの種類がハンパない。中でもパンフレットは、本展の展示内容を凝縮した一冊とも言えるのでぜひ購入を勧めたい。©水木プロダクション

     さらに、同じそごう横浜店の10階に入るレストラン「イー・エー・グラン」では、本展とのコラボメニューを数量限定で販売中だ(2024年1月20日~3月10日の会期中限定)。「目玉おやじのビーフシチュープレート」「ぬりかべのきな粉フレンチトースト」「一反もめんの黒蜜きな粉ラテ」といった心躍るメニューが用意されているので、展覧会鑑賞後に立ち寄ってみてはいかがだろうか。

    「目玉おやじのビーフシチュープレート」(2,301円)は、茶碗風呂に入る「目玉おやじ」をイメージしたメニュー。柔らかな牛肉に赤ワインとデミグラスソースを加え濃厚なシチューに仕上げている。平日=20食、土曜・日曜・祝日=50食限定。
    「ぬりかべのきな粉フレンチトースト」(2,001円)は、「ぬりかべ」をイメージしたきな粉フレンチトーストに、抹茶ソース、黒蜜クリームアイス、イチゴが添えられている。平日=20食、土曜・日曜・祝日=50食限定。
    「一反もめんの黒蜜きな粉ラテ」(880円)は、「一反もめん」に見立てたぎゅうひを飾った和テイストのドリンク。香ばしいきな粉と黒蜜の甘さが広がる。平日=30食、土曜・日曜・祝日=50食限定。

    <イベント概要>
    ■展覧会名:水木しげるの妖怪 百鬼夜行展 ~お化けたちはこうして生まれた~
    ■会期:2024年1月20日(土)~3月10日(日)[会期中無休]
    ■会場:そごう美術館(そごう横浜店6階)
    ■開館時間:午前10時~午後8時(入館は閉館の30分前まで)
    ※そごう横浜店の営業時間に準じ、変更になる場合がございます。
    ※事前予約不要
    ■入館料
    一般 1,600(1,400)円
    大学・高校生 1,400(1,200)円
    中学生以下無料
    ※以下をご提示で( )内の料金にてご入館いただけます。[クラブ・オン/ミレニアムカード、クラブ・オン/ミレニアム アプリ]
    ※障がい者手帳各種をお持ちの方、およびご同伴者1名さまは無料でご入館いただけます。

    杉浦みな子

    オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。
    音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀…と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハー。

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