意識は水の中に宿る!? 天才脳科学者による最先端「脳渦理論」の世界/久野友萬
意識とは、いったい何か? どのようなメカニズムで発生しているのか? 麻酔の知られざる作用を例に、最新理論について深堀りする!
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科学や医学の発展とともに、次々と新たなダイエット法が誕生している。しかし本当に大事なことは何か、最先端ダイエットの科学的メカニズムとともに読み解く!
今年こそ痩せる! 2024年の新年の誓いにダイエットを掲げた人は多いだろう。私もだ。モテるためではなく、死なないために痩せたい。我ながら不憫なことだ。
昨年発表された嫌な論文がある。スペインのジローナ生物医学研究所が発表した「Adipose tissue coregulates cognitive function(脂肪組織は認知機能を相互調節する)」によれば、肥満は記憶力と学習能力まで低下させるのだという。
肥満は頭を悪くするのだ。脳の交感神経(緊張時や闘争用の神経)が刺激されると脂肪の分解が進むが、反対に脂肪が増えると、記憶の器官である海馬に記憶を定着させることができなくなるらしい。
肥満は糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めるだけではなく、脳にもマイナスの影響を与えるのである。肥満で物忘れが激しくなり、頭の回転も鈍くなるのだ。
痩せなければならない。しかし、努力はしたくない。空腹に耐えるのも、クタクタになるまで走るのも嫌だ。飲んだら痩せる薬はないのか。
痩せ薬はないこともない。これまで開発された痩せ薬は「油を固めて消化にしにくくし、カロリーを抑える」もの、もしくは「覚せい剤と似た成分で交感神経を興奮させ、食欲を減退させる」ものだった。どちらも一時的な効果しかなく、リバウンドを伴った。肥満が起きる作用そのものを止める薬はないのか?
ところが! 2023年、世界中の肥満者を驚かせる薬が誕生した。グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)薬である。製薬メーカーの臨床試験で、約16カ月間で体重の15パーセントを減少させたのだ。別の調査では、薬の投与により心臓発作や脳卒中のリスクが20パーセント低くなったという。
GLP-1薬は肥満のメカニズムに沿って作用する本物の痩せ薬なのである。
GLP-1薬が登場したのは2005年、糖尿病の治療薬として医療機関が処方を始めた。痩せ薬と注目されたのは、経口薬のセマグルチド(市販名:リベルサス)が2023年3月に認可されてからである。
GLP-1は小腸から分泌されるホルモンで、膵臓の受容体に取りつき、インスリンを分泌させる。血糖値が高い間だけ分泌し、血糖値が下がると分泌が止まるのが特徴だ。ではGLP-1を飲む(なおリベルサスをはじめとする経口薬が登場して一気に注目されたが、以前は注射薬だった)と、なぜ痩せるのか?
GLP-1は血糖値が上昇すると分泌され、インシュリンの分泌を促す。インスリンには血糖値を下げる働きがあり、血糖値が上がると下げるためにインシュリンが分泌される。肥満の人はいつも何か食べているため、血糖値が常に高い。インシュリンは出っ放しになり、細胞はインシュリンに慣れて反応が鈍くなる(「インシュリン感受性が下がる」という)。血糖値が上がったまま下がらなくなり、やがて糖尿病になってしまう。
では、外からGLP-1を与え、血中にGLP-1を増やすとどうなるか?
GLP-1によってインシュリンの分泌が増え、血糖値が下がる。血糖値が下がりすぎると今度は糖を求めて大食いになってしまうが、適正な幅であれば、満腹中枢に働きかけ、満腹感が続く。食欲が抑制されるわけだ。
肥満の人のむやみやたらな食欲は抑制され、満腹感が続くことで食事の量が減る。その結果、徐々に痩せ始める。
そして意外なことに、GLP-1薬にはアルコール中毒やコカイン・ヘロインなどの薬物中毒の依存性を断ち切る効果もあるらしい。薬物が快楽中枢で結びつく受容体に先に結びつき、中毒症状をストップさせるらしいのだ。
ということは、肥満はある種の中毒の結果なのかもしれない……。食べ物中毒?
また、2024年に注目されそうな減量法が、振動する小型モーターのカプセルだ。長さ3センチ、直径1センチの振動するカプセルを飲み込むと、胃の中で38分間振動する。すると胃の神経を刺激し、胃が満腹状態と同じシグナルを発信するのだ。
豚の実験では、食事量が40パーセントも減少、血糖値を安定させるインスリンが増加、空腹を感じさせるホルモンのグレリンが減少することも確認された。
開発したハーバード大学の生物医学技師シュリヤ・スリニバサンとマサチューセッツ工科大学のジョバンニ・トラヴェルソによれば、これまで肥満体の患者に行われてきたバルーン手術(胃に医療用の風船を入れ、胃壁を伸ばして満腹だと錯覚させる)や、胃と脳を結ぶ迷走神経を電気刺激する方法よりも効果的で、手術が不要であることから安全性も高いとしている。
しかしこのカプセル、38分間の振動が終わったら排せつされるわけで、いろいろと違う問題がありそうだ。また、毎食ごとに振動カプセルを体内に取り込んで大丈夫なのか、慣れて効果が薄れることはないのか気になる。
肥満から健康体に戻るには、食事を変える必要がある。これに異存はないだろうが、どう変えるのが正しいのか。
1970年代以降、アメリカでは肥満が急増、政府として脂肪の摂取量を減らし、炭水化物の摂取量を増やし、カロリー摂取量を減らすことを目標に掲げた。
その結果、アメリカの食事に脂肪が占める割合は、1970年代の約42パーセントから減少、現在は目標値である30パーセントに近い約34パーセントまで下がった。そして食事中の炭水化物の割合は大幅に増加した。では、肥満は減ったのかといえば、肥満と糖尿病の割合が大幅に増加し、2023年には100年前のインフルエンザのパンデミック以来、初めて平均余命が減少した。
低脂肪・高炭水化物では肥満は防ぐことはできない。それどころは肥満が増す。
最近流行った高たんぱく質・高脂肪・低炭水化物が正解ではないのか? おそらく肥満対策だけを考えれば、それが正解だ。ただし、寿命は短くなる。ショウジョウバエやマウスの実験で、高たんぱく質食を与えると肥満は減るが寿命は激減することがわかった。生活習慣病やガンが急増し、マウスたちは「見栄えのいい中年の死体になった」(『科学者たちが語る食欲』P156より。ディヴィット・ローペンハイマー/スティーブン・J・シンプソン著、サンマーク出版)。
では、カロリー制限をすれば? 痩せるし、寿命も延びる。だが、その一方で個体数が減ることがわかった。繁殖しなくなるのだ。
高たんぱく質食で痩せることはできるが、寿命は短くなる。カロリー制限では、痩せて寿命は延びるが、子どもは生まれなくなる。
人間の体はトレードオフの関係でできている。何か極端なことをすれば、必ず何かが引き換えになる。結局、ダイエットにはバランスのいい食事を腹八分目、適度な運動とストレスのない生活というごく当たり前の結論しかないのだ。
久野友萬(ひさのゆーまん)
サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。
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