ウシの体内で核爆発と同じ元素変換が起きている!? 科学者が唱えた「生物核変換」説の錬金術的視点/久野友萬
核爆発の時の起こる核変換が、生物の体内でも起きている――かつてフランスの科学者が唱えた現代の錬金術的な主張の中身とは!?
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意識とは、いったい何か? どのようなメカニズムで発生しているのか? 麻酔の知られざる作用を例に、最新理論について深堀りする!
意識とは何か、脳とは何か、科学はまだ答えにたどり着いていない。化学物質が集まったら生き物になるというだけでも意味不明なのに、まして意識である。細胞を構成する化学物質、水やカルシウムやタンパク質などを並べても細胞にはならない。物質と生命の差とは何か、それさえ人間にはわかっていないのだ。
わからないなりにわかってきた部分もある。今の脳神経学では、脳神経の結合方法それ自体が意識であるという考え方が主流だ。脳神経の結合はコネクトームと呼ばれ、コンピュータ上にコネクトームを再現することで、人間の意識は再現できるとする。ネットワーク構造そのものが意識の正体なので、構造を再現すれば、そこには元の意識が生まれるというわけだ。
コネクトームはあくまでコネクトームであって、そこに意識はないという意見もある。コンピュータのハードウェアをいくら模倣しても、ソフトウェアはコンピュータの中に発生しない。ハードはあくまでハードでしかない。ではソフトウェア=意識はどこにあるのか。
2018年に亡くなった中田力という脳神経学者がいる。fMRIの開発に貢献し、新潟大学脳研究所統合脳機能センターを設立した非常に優秀な科学者だった。中田の唱えた脳渦理論と中田が尊敬していたライナス・ポーリングの分子水相理論を軸に、意識とは何かについて考えたい。
麻酔がなぜ効くのか? いまだに正確なメカニズムはわかっていない。麻酔は植物にも効くらしく、神経を何らかの方法で遮断しているということ以外、どのような仕組みなのかははわかっていない。
吸引型の麻酔薬にキセノンがある。キセノンは不活性化ガスで、化学反応を起こさない。麻酔は脳神経に影響するのだから、脳神経となんらかの化学物質あるいは電子、水酸基などの交換があって、初めて影響が与えられるはずだ。化学反応を起こさないものが脳にどのように影響できるのか。不活性ガスのキセノンでは脳神経に影響を与えられないはずが、現実にはキセノンを吸うと麻酔にかかる。
麻酔は薬剤が脂肪に溶け込み、吸収されることで、キセノンのような不活性物質でも神経に影響するというのが、現在の考え方だ。脂肪溶解度説というが、これは麻酔がなぜ効くのかというメカニズムは説明していない。
ノーベル化学賞とノーベル平和賞を受賞しているライナス・ポーリングは、1940年代に麻酔作用の説明として、分子水相理論を唱えた。
ポーリングの名前をビタミンに関する話で覚えている人も多いだろう。メガビタミン主義を唱え、大量のビタミン摂取でほとんどの病気は予防できるとした(現在はほぼ否定されている)。しかしポーリングは天才であり、メガビタミン主義は世の中にサプリメントブームを引き起こした。ビタミンCを飲めば風邪は治るという風説(いまだに医師でも信じている人はいるが、間違いである)が広まったのもポーリングが言ったせいだ。ビタミンCが傷の回復を早めるのは確かだし、病気で急激に減少したり、不足した状態が危険なのも本当だが、ビタミンCを飲むと風邪が治るわけではない。
かくいう筆者もポーリングの説を追って『ビタミンCは人類を救う!!』(学研プラス)という本を2013年に書いたことがある。版元は学研プラスで、監修は水上治先生。担当編集は月刊ムー編集長の三上丈晴という布陣だった。
ともあれ、ポーリングには、そういう天才特有のある種の思い込みがあるため、水相仮説は長らく日の目を見なかったのだが、前述の中田による再評価がきっかけとなり、研究者が増えつつあるようだ。
ポーリングは飛行機や高山のように気圧が低いところでは、麻酔が少量で効くことに注目した。これは脂肪溶解度説では説明できない。油に化学物質が溶ける量は気圧の影響を受けないためだ。
そこでポーリングは、水の影響だろうと仮説を立てた。全身麻酔は意識を完全に奪う。つまり脳全体に均一に働く。脳の80パーセントは水分だ。水であれば大気圧の影響を受ける。脳の水と意識には関係があり、それを阻害するのが麻酔薬ではないか? ポーリングは麻酔が水を構造化し、クラスター(水の集団。塊)を作る核として働くことで水の動きを止め、その結果、意識を失わせると考えた。
麻酔薬は水分子同士を引き付ける作用があり、塊となった水(ポーリングは「水の結晶化」と呼んだ)は脳内の循環を止め、それが意識失わせる=麻酔効果を生むというのだ。つまり、麻酔は脳神経ではなく、脳の中の水に作用している。
ポーリングは明確には文章に残していないが、暗に言っている。麻酔が脳の中の水に作用する物質であるなら、麻酔が効くということは、人間の意識は脳の中の水に宿っている――と。
一方、ポーリングを尊敬する中田は、熱と脳の関係について考えていた。脳の形成を調べていくと、脳が機能によって作られるという話に納得がいかなかったのだ。
従来の脳モデルでは、脳には車のエンジンやコンピュータのように、機能別にモジュールがあり、エンジンを組み立てるようにモジュールで組み上がっていると考えられている。前頭葉で意識が生まれ、側頭葉で情動をコントロールし、海馬で記憶する、といった具合だ。
複雑系科学を修めていた中田は、脳は自己組織化すると考えた。複雑系科学は、樹木の枝やリアス式海岸のような複雑な形状が、小さなパターンの繰り返しであることを数学的に証明した。小さなパターンが集まって大きなパターンを作り、それがさらに大きなパターンを生む、無限の入れ子構造を生み出す。
脳が自己組織化する複雑系だとしたら、行きつくのは球形だ。脳は球形になるはずだが、球にはならない。なぜかといえば熱だ。体温によって対流が発生し、それが現在の脳の形状を決定するという。
細胞の周りの水が対流することで細胞の位置を変え、脳の形を生み出す。脳は脳神経を保護するためにグリア細胞という、神経を支える繊維構造を持っている。グリア細胞は熱の循環を最も効率よく行うために組織化されるが、脳が出来上がると蜂の巣のように無数の穴を持つ保護組織だけが残る。このグリア細胞の網の目の中は水で満たされる。脳の全範囲をカバーする水のネットワークが出来上がるわけだ。
ポーリングの水相説に従うなら、水が結晶化した時、水の流れが阻害される分子レベルの構造が必要だ。それも見つかった。グリア細胞が選択的に水分子を通過させるアクアポリン4がそれで、中田はここで脳渦仮説を立てた。
脳は熱対流=渦によって自己組織化し、熱の流れがグリア細胞の組織を作る。グリア細胞の中は水で満たされ、水はアクアポリンによって細胞の経路と経路を行き来する。脳は脳神経ネットワークとは別に水分子ネットワークを持つのだ。麻酔が水分子をクラスター化すると、アクアポリンを水が通過できなくなり、その結果、意識を失う。
意識は脳の中の水ネットワークで生まれる。私たちの自我や意識は、水だというのだ。
水にクラスターができる、水分子が互いにくっついていくというのは何となくわかるが、 しかし、ごく短時間でバラバラになり、維持できないのではないか? ただの液体なのだ。
2020年1月31日、東京大学生産技術研究所の田中肇らは、水には2種類あり、構造を持つ水と持たない水が混在していることを発見した。温度を低下させた水の中には、正四面体的構造を持つ水と構造を持たない水とがあるのだという。水は構造を持つのだ。
中田は脳神経の電流が水分子に波(エントロピー渦波と名付けた)を作り、それが放射状に情報を脳内に発信するという。脳内では情報も複雑系に従って、全体と部分が入れ子になるように処理されるわけだ。
正直なところ、筆者は「ありがとう」と言ったら水の構造が変わるといった類の話を信用していなかったのだが、インド哲学の宇宙観と量子力学が酷似しているように、人間の直感が真実を撃つことはある(インド哲学から量子力学は絶対に生まれないので、あくまでイメージが一致したレベルだが)。意識というのは、今の科学が考えているものとは全然違うのかもしれない。
久野友萬(ひさのゆーまん)
サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。
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