超人は消えず! 歴史に刻まれ、記憶に居座る超時代の存在になる!/松原タニシ超人化計画・完了宣言

取材=松原タニシ 構成=高野勝久

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    あの大作アニメ映画ゆかりの地で超人を探す松原タニシ。そこでは奇妙な名前の史跡に続々と遭遇。そして、一年をかけてたどりついた「超人」の正体とは?

    あのアニメの聖地で超人探し

    松原タニシが超人たちの足跡を追い、超人になることを目指す「超人化計画」。長野県の諏訪地域に超人探しにやってきたタニシは、神を操る超人一族の史跡を訪ねたり、空飛ぶうつろ船を眺めたり、放浪の超人山下清がUMA、UFO大好き人間だったことを知ったりとかなり濃い情報をゲットしたが、いにしえの信仰の地・諏訪には、まだまだなにかが眠っていそうだ。

    長野県の中東部、諏訪湖を囲む岡谷市、諏訪市、下諏訪町と、その東部にあたる茅野市、原村、富士見町をまとめて諏訪地域と呼ぶのだが、そのいちばん東側、山梨県に接する県境の町が富士見町だ。

    この富士見町で、タニシはたまたま入った喫茶店で一休みしていたら、お店の人がこんな本をみせてくれた。

    『乙事図鑑 乙事区お宝図鑑』。乙事(おっこと)。この響き、どこかで聞いた事ないだろうか。映画「もののけ姫」に登場するイノシシの長老・乙事主(おっことぬし)、あの名前はじつは富士見町の乙事という地区名からとられているのだ。

    なんでも、宮崎駿監督はこの富士見町が大好きでたびたび訪れており、「もののけ姫」の登場人物の名前をつけるときにこの近くの地名をとったのだそうだ。乙事主のほかにも、烏帽子御前は烏帽子地区から、牛飼いの甲六も甲六地区が由来になっているという。富士見町、「もののけ姫」の隠れ聖地だった!

    乙事主の名前は乙事地区からきていた(画像=スタジオジブリ公式サイトより)

    鬼門様、血取り場……街なかに残る謎の史跡

    で、「もののけ姫」ネタだけでなく、この乙事地区がかなりおもしろいのだ。いろいろみてきました。たとえばここ、「鬼門様」。

    なんとも興味を惹かれる名前だが、「鬼門様」は村に鬼が入らないように村の角々にまつった呪(まじな)いなのだそうだ。実際に今でも鬼門様よりも向こうは山、こちら側は畑だらけと、村の境目になっているのが印象的だった。

    「鬼門様」もかなりインパクトのある名前だが、さらに奇妙なのがここ「血取場」だ。

    昔は、冬の間に馬の体にたまった血を春に抜いて体調を管理するという習慣、療法があったそうで、その血抜きの処理を行なったのがこの馬伏場。そのため別名「血取場」ともいうらしい。馬が身近でなくなってしまった現代では、血を抜く風習も、チトリバという響きもどこかオカルトっぽく聞こえてしまう。

    馬に関わる場所だけに、木の下には馬頭観音が祀られている。この松の枝が妙に赤く見えるのは「血取り」に関係があるんだろうか……。

    続いて、こちらは乙事諏訪神社の本殿脇にある「御鍬大明神」という小さな社。乙事で唯一の農具の神さまだそうだが、ここには乙事地名の由来にもなるちょっと怖い伝説がある。

    その昔、この辺りは農業をするのが大変な土地で、村人たちはとにかく毎日毎日鍬を持って耕す日々。そのために骨と皮だけのガリガリの体になってしまった。そんなことからこの辺りを、乙に骨とかいて「乙骨」と呼ぶようになったのだという。「音骨」とも書いたらしいが、「骨」が入った地名、血取り場と同じくらいパンチがある。

    乙事には面白い名前の場所がまだまだあって、これは「犬の穴」。

    かつて、乙事にはオオカミがたくさん出没したため、村人たちが対策につくった落とし穴が「犬の穴」なのだ。その逆に、乙事には退治したオオカミの霊をまつった祠や、オオカミを神使とする三峯神社も祀られている。オオカミは恐れられる存在でもあるが、害獣を退治するありがたい獣でもあった。神様であり敵でもあるオオカミ。ここでは、かつての日本人とオオカミの複雑な関係を知ることもできるのだ。

    結論、「超人」とはなんなのか?

    さて、じつは今回タニシが富士見町にきたのは「富士見町秋の怪談まつり」というイベントに参加するためだったのだけど、そのイベントがおこなわれる「なんでも広場」の一角に、こんな看板があった。

    「即身仏入定跡」。

    即身仏とは、生きながら仏になることで民を救おうとした僧侶、修行者のこと。ちょうど一年前の超人化計画で追いかけた、あの即身仏だ!まさここでまた出会うことになるとは……。なんでも広場、「なんでも」の枠が広すぎる! 

    怪談会の舞台はこちら。即席でつくられたもので、まわりにはニワトリや犬が自由に歩き回っている。オオカミではありません。

    イベントではまず民話が朗読されるのだけど、こちらが登壇者の遠山さん。なんと97歳!ここで遠山さんが披露した民話が、「食べ物がなくて困り果てている村にあるお坊さんがやってきて、私が今から土の中に入るから……と告げて実行し、おかげで村が救われた」というお話。なんでも広場のあの即身仏の話だったのだ。この話が97歳の口から語られると、なぜだかものすごい説得力があった。

    さて、一年にわたって超人を追いかけてきた「超人化計画」。いったい、超人とはなんなのか。一年をかけてわかったことは、超人とは「人を超える」と書くように、人間ひとりの一生分を超えて多くの人の記憶に残り続ける存在のことなんじゃないかということだ。

    これまでの超人化計画でみてきた全国各地の超人たちもそうだし、山下清も、富士見町の即身仏も、人々の記憶に残り続ける超人なのだ。そしてそんな即身仏の民話を語り継ぐ遠山さんのような人もまた、超人といえるんじゃないだろうか。

    「超人=人間の一生分の長さを超えて記憶に残り続ける人」

    これが、一年間日本じゅうの超人たちの足跡を追ってきた超人化計画の結論だ。計画の目標は「タニシが超人を目指す」ことだったけれど、果たしてタニシは、世代を超えて人類の記憶に残る超人になることができたんだろうか。それは、ずっと先になってからわかることだ。

    動画でのレポートはこちら!

    松原タニシ

    心理的瑕疵のある物件に住み、その生活をレポートする“事故物件住みます芸人”。死と生活が隣接しつづけることで死生観がバグっている。著書『恐い間取り』『恐い旅』『死る旅』で累計33万部突破している。

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