節分の夜は便所には行かぬこと……妖怪「カイナデ」が迫る赤青の選択/黒史郎・妖怪補遺々々
2月といえば節分! そこで季節感に合わせて今回は。節分の夜に現れる妖の話を補遺々々しましたーー ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘す
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伝説のトリオコラムを再録! 事故物件住みます芸人・松原タニシと、オカルトコレクター田中俊行、そして高松の怪談バンドマンの恐怖新聞健太郎――。異色ユニットが遭遇した怪奇を公開する。 第1回の行脚先は、高松の根香寺。 (2020年1月19日記事)
タニシ 事故物件住みます芸人・松原タニシです。
田中 オカルトコレクター・田中俊行です。
健太郎 四国高松で怪談をやってます、恐怖新聞健太郎です。
タニシ この3人でよく四国の怪談イベントを回っているんですが、そもそもきっかけって何でしたっけ?
田中 まず僕が高知のカオティックノイズというライブハウスで怪談ライブをさせてもらってまして、4回ほど1人でやってたんですけど、話すネタがなくなってしまって。
タニシ それでまず僕が呼ばれるようになった。
田中 ちょうどタニシくんと知り合って仲良くなったから声掛けさせてもらったんですよ
タニシ いや、その時点では僕、ほとんど田中さんと会話かわしてないですよ。
田中 あれ、そうやったっけ?
タニシ はい、まだ1回しか会ってないのにその次会った時に「高知でイベントやってるねんけど、来てくれへんかなあ」といきなり言われました。
田中 よっぽど切羽詰まってたんやな。
タニシ そこから大体3ヶ月に一度のペースで高知に行かせてもらうようになって、僕も持ちネタがだんだんなくなってきて。
田中 高知の人ら、本気の怪談が好きやから、毎回おんなじ人が来るんよね。
タニシ そうそう、だから一度話した怪談は3ヶ月後には使えないというね。あと、最初の頃は地元のバンドマンの方たちがよく来てくれてて、皆さん優しくていい人らなんですけどそもそも見た目が怖い人多くて。会場も暗くてマジで雰囲気凄いから、喋ってる僕らも怖いんですよね。
田中 怪奇現象もよう起こってたしなぁ。
タニシ しばらく高知で修行のように怪談させてもらったあと、今度はカオティックノイズの店長さんが香川県の高松のライブハウスを紹介してくれたんですよね。
田中 四国でのイベントがどんどん増えていく。
タニシ そこで出会ったのが恐怖新聞健太郎!
田中 四国の怪談を守る香川のうどん怪談師!
健太郎 はい、高松TOONICEというライブハウスで田中さんとタニシさんと初めて共演させてもらいました。
タニシ そもそも健太郎さんは何で怪談師になったんですか? バンドマンですよね。
健太郎 TOONICEでは出演ミュージシャンがそれぞれ1人で何かをする「ソロフェス」というイベントがありまして、そこで友人のO君が集めていた怪談を店長に話したところ「じゃあ単独でやろう」と言われて、毎月1人で怪談をすることになりました。
田中 毎月はやばいな。
健太郎 その際に店長につけられた名前が「恐怖新聞健太郎」です。
タニシ 名前の由来は?
健太郎 ないです。店長のノリで決まりました。
田中 そうなんや。でも今となってはしっかりとキャラが仕上がってるもんなあ。
タニシ それにしても毎月怪談してたらネタも尽きてくるでしょ?
健太郎 そうなんです。だから話のネタを集めるために自分も怪談の体験者にならないといけないと思って、根香寺に行ったんです。
【根香寺】
香川県高松市中山町にある天台宗単立の寺院。五色台の青峰の中腹に位置する四国八十八箇所霊場第八十二番札所。牛鬼伝説があり、「牛鬼の角」が今も保管されている。
健太郎 根香寺は、僕にとってはお手軽な心霊スポットだったんです。以前に何回かバンド仲間大勢で肝試しに行ってるので、そんなに怖くないイメージがあって。
噂としては、入口近くに大きな木が並んでるんですけど、その木に手がしがみついてるだとか、白い着物を着た女の霊が出るっていう程度の場所です。
ただ、根香寺には牛鬼伝説があります。根香寺で悪さをすると牛鬼が追いかけてくるという噂もあるんです。
実は数年前に大きな事故があったんですね。心霊スポット巡りをしていた男女5人を乗せた乗用車が深夜走行中、中央分離帯に乗り上げ、国道と並行して走る高松自動車道のコンクリート製橋脚に衝突して大破。全員が死亡しました。現場は片側3車線で見通しの良い直線道路で、付近の道路にブレーキ痕はなく、かなりのスピードが出ていたとみられます。そして気になるのが乗車していたと見られる女子高生の事故直前のツイッターに「何かに追われている、こわい」と投稿されていたことです。
田中 まさか……牛鬼?
健太郎 そうなんです。彼らが行った心霊スポットというのは根香寺である可能性が高く、だとするならば追いかけてきたのは牛鬼なのではないかと。
タニシ 牛鬼は根香寺の入口の駐車場のところに像がありますよね。
田中 僕は牛鬼の像を見た瞬間に強烈な吐き気に襲われて根香寺のトイレでもどしました。
タニシ それは根香寺に来るまでに僕らうどん巡りしてたから、根香寺までの山道で車酔いもあって気持ち悪くなっただけでしょう。
健太郎 この牛鬼という妖怪は西日本各地に言い伝えがあり、「女性の姿をした物の怪とともに現れる」または「牛鬼自身が女性の姿に化けて現れる」と言われています。そして江戸時代初期にこの地で人や家畜に危害を加えていたのですが、弓の名手であった山田蔵人高清に退治され、その角が根香寺に祀られています。この牛鬼の角には今でも不思議な力が宿っているといわれ、そのせいもあって根香寺では怪異な現象が起きると噂されています。
タニシ なるほど、ということは牛鬼が女の姿に化けて事故に遭った若者たちを追いかけていた可能性があると……。
健太郎 この事故をきっかけに、僕はいつも怪談を提供してくれているO君を誘って、今度は真剣に根香寺へ行って怪異を検証しようと思ったんです。
田中 心霊スポットへ真剣に行くってすごいな。
健太郎 根香寺の山門をくぐり、本堂へ続く真っ暗闇の参道で僕はO君と霊を挑発しました。
タニシ 「幽霊出てこいや! 牛鬼出てこいや!」みたいな感じ?
健太郎 そうですね、そんな感じだったと思います。けど、やっぱり何も起きなくて、諦めてO君の車で帰ったんです。
車に乗っている間、僕は助手席でいつの間にか寝てしまっていたんですが、五色台の山道を下っていく最中の直線の道で急にO君に起こされて、
「今目の前にバキバキに骨の折れた血塗れの女が道に立ってた」
とO君が言うんです。
その女は有り得ない角度に両手両足の関節が曲がっていて、ゆーらゆらとその場に立っていたそうなんです。僕はそれを聞いてゾッとしましたが、気のせいかもしれないからとO君を落ち着かせて、なんとかその後無事家まで帰りました。
それから数日後、実家の2階で寝ていたら夜中に「おーい、おーい」と窓の外からO君の声が聞こえてきたんです。こんな時間になんなんだと思ったんですが、「おーい、下りてこーい」としつこく声がするので、近所迷惑にもなるので仕方なく起きて1階まで下りて玄関のドアを開けたんです。
けど、O君の姿はどこにもなくて、声も聞こえない。
あれ? 気のせいだったのかなと再び2階に上がると、また外から「おーい、おーい」って聞こえるんです。これはO君がいたずらしていると思って、また一階まで下りて玄関のドアを開けるんですが、やっぱりいない。これが夜中の2時に4、5回繰り返されます。
タニシ 4、5回は多いなぁ。
健太郎 さすがに僕も苛立ってきて、2階にいる時にまたO君の声が聞こえてきたから、「ふざけるな、何時だと思ってるんだ」と、O君を注意しようと窓を開けてベランダから外を見たんです。
そしたら家の前に、有り得ない角度に関節の曲がった女の人がこっちに向かって「おーい、おーい」ってO君の声で呼びかけてたんです。
田中 めちゃくちゃ怖いやん。
健太郎 で、僕もあまりに怖くて、すぐに窓を閉めてカーテンを閉めて布団に潜り込みました。だけどその間も「おーい、おーい」ってずっと聞こえてくるんです。しばらく震えながら布団の中で声がおさまるのを待ってたら、ようやく声がしなくなったので、もう大丈夫かなって布団から顔を出すと、僕の部屋のカーテンって少し短くてベランダの窓の下の方が少し見えている状態になってるんですが、そのカーテンの足りてない隙間から逆さまになった女の顔がこっちを見ていて、「おーい」って言ったんです
タニシ こわ!
健太郎 僕はびっくりして、気づいたら夢から覚めたかのように朝になってました。もしかしたら本当に夢を見ていただけなのかもしれないのですが、この出来事は鮮明に記憶に残っているので夢とも思えないんですね。もしかしたらあまりの恐怖に気を失ったのかもしれないです。で、朝起きた時に気づいたんですが、実はO君から深夜2時ごろにメールが入っていて、確認すると「健太郎、今俺ん家の前にいる?」という内容だったのですぐにO君に電話しました。O君と話してみてさらにゾッとしたんですが、僕がO君の声で「おーい、おーい」と呼ばれていたのと同じ時間に、O君の方にはバキバキに骨の折れた女が僕の声を使って「おーい、おーい」とO君に呼びかけてたそうです。
タニシ この話は健太郎さんの怪談の中でダントツに怖いですよね。しかしこのバキバキの女の正体は一体なんなんでしょう?
田中 牛鬼やろうね。牛鬼が女の姿に化けて出てきたんちゃうやろか
タニシ でもバキバキの女ってのが、その前に交通事故で亡くなった女性の姿を表してる可能性もありますよね。
健太郎 何にせよ、これが僕が唯一当事者となった心霊体験です。
松原タニシ
心理的瑕疵のある物件に住み、その生活をレポートする“事故物件住みます芸人”。死と生活が隣接しつづけることで死生観がバグっている。著書『恐い間取り』『恐い旅』『死る旅』で累計33万部突破している。
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