君と悪魔と幽霊とで滅亡預言ミラクル3を結成したことはあるか?/大槻ケンヂ「医者にオカルトを止められた男」
突然の訪問者といえばセールスか勧誘か。そう身構えるオーケンが預言者であったかもしれないパラレルを回想する。
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文=大槻ケンヂ 挿絵=チビル松村
霊の声が聞こえる。確かに歌ったはずなのに、自分の声ではなくなっていた。音響版の人怖怪談がオーケンを襲う。
幽霊の声の入った音源、といわれるものをいくつか聴いたことがある。正確には、幽霊の声とも聞こえる奇妙な音の入った…であろうか。
最初に耳にしたのは昭和54年。僕が中学生の頃だ。深夜放送から流れてきた岩崎宏美の「万華鏡」という歌謡曲の後半に、うめき声のようなものがハッキリと聴こえた。コーラスのフェイクがうめいているみたいに聴こえているだけとも感じられたが、「ううぁぁ~」と無気味に響いて薄気味悪かった。
発売から程なくして「聴いたか『万華鏡』? アレ幽霊の声だろ!」と教室で同級生たちの話題となった。「やべぇよ、かぐや姫の『私にも聴かせて』以来の本物だよアレは」などと騒ぐ者もいた。
なんでも、昭和50年、フォークグループ・かぐや姫の解散コンサートを「南こうせつのオールナイトニッポン」でオンエアした時に、何人ものリスナーから「わたしにも聞かせて」という声が聞こえたがアレは何か? 幽霊の声ではないのか!? という問い合わせが来たのだという。「私にも聞かせろ」だったという人もいたそうだが、こちらは後にテレビの心霊番組でも流され、当時少年だった僕も観てそれはモーレツにショックを受けた。
昭和63年にはレベッカの「MOON」という曲に「先輩」というつぶやき声が聴こえると話題になりやはり幽霊の声なのではないか?と話題になった。
持田保著「あなたの聴かない世界」によれば、幽霊の声に限定するわけではないが、「存在するハズがない音声が録音される現象」のことを「ELECTRONIC VOICE PEHNOMENA」エレクトロニック(エレクトリック)・ヴォイス・フェノミナ(EVP)というのだそうだ。
EVPの歴史は古く、かのエジソンも関心を寄せていたとか。1959年にはスウェーデンの映画プロデューサー、フレデリック・ユルゲンソンが「野鳥の声を録音中に偶然EVPを採取し、その研究に目覚め」「数百ものEVP音源収集に成功」したとのこと。
果たしてフレデリックさんの収集が日本にまで手を広げていたかはわからないが「万華鏡」「かぐや姫コンサート」「MOON」は、昭和日本3大EVPと呼べる音源ではないのだろうか?
しかし「万華鏡」に関しては、やはりコーラスの過剰なフェイクが薄気味悪く聴こえるだけだ。との謎解きが今ではなされている。「MOON」に関しても、ボーカリストのフェイクが「先輩」と聴こえているだけとの説がある。両方とも、NGテイクのはずがなぜか完成品にのこってしまったために起こった幽霊EVP騒動なのだといわれてもいる。
いや、でも、歌のレコーディングなどというものはそれこそ完成までに複数の人が何百回と繰り返し聴く作業なわけで、そんな単純ミスの生じることなんてあるのだろうか?と疑問に思えるのだが、音楽に携わっている者として言えば、ごくまれにだがそんなこともある。
僕の場合、自分のバンドの新譜を聴いていたところ、歌一曲聴こえるはずのない音声が聴こえてきてギョッ!?とした経験がかつてあった。
「こ、この歌はなんだ!? どういうことだ?? え? 一曲丸々にEVP!?」
今すぐフレデリック・ユルゲンソンさんに連絡せねば!……と僕が焦った理由は、聴こえてきた歌声が丸々一曲分、OKテイクのものでは無かったからだ。
「あ…これは…仮歌の歌声だ!」
ハッ、と気付いた。OKテイクではなく仮歌のテイクだったのだ。
レコーディングではまず調子を見るために軽く流して歌ってみるのだけど、なんとその仮歌が商品となってCDになってしまっていたのだ。
一体そんなことあるのかといえば、本当に起こってしまったのだ。
後日、レコーディングの最終工程であるマスタリングという作業をするスタジオの人から平謝りされたのである。あろうことか、マスタリング作業中に本歌と間違えて仮歌をCDに入れてしまったのだという(!)。
そ、そんな…そんなのレコーディングの歴史上初めての大大凡ミスだよ!
大失態に呆れ果てていると、スタジオの人が不意にササッ!とデパートの紙ぶくろみたいなのを僕に差し出して、頭を下げて言ったのであった。
「どうかこれで勘弁してください。お納めください」
紙ぶくろを開けると中にはアニメ「妖怪人間ベム」のDVDボックスが一箱入っていた。
なんでだよ!?
そのお詫びの品選び絶対間違ってるよ、と思ったものである。納めましたけどね。観たかったから。
この妖怪人間経験も含めてフレデリック・ユルゲンソンさんのEVPコレクションに加えてもらいたいものである。
幽霊EVPの話に戻ろう。
少年期に聴いた「万華鏡」「かぐや姫コンサート」がどれほど衝撃的だったかと言うと、僕は逆に『自分がもしレコードを作ることになった時には、幽霊の声入りのレコードを作りたい』と強く願ったほどだ。それは強烈なチョーキングのギターソロを聴いてギターに目覚めた少年が、もし自分がレコードを作ることになったら、強烈なチョーキングソロをそこに入れたい、と願うような気持ちであろうか? ちょっと違っている気もするけれど、幽霊の声入りレコードやカセットというのは、当時の昭和の少年には、ビートルズの登場に匹敵するリスニング・ショックがあった。驚き、畏怖し、畏怖は人によっては憧れへと昇華していったのだ。
「いつかは僕も幽霊の声入りレコードを!」
高校生になって空手バカボンという音楽ユニットを結成し、自主製作で「バカボンのススメ」というソノシートを作った。ジャケットデザインを決める時に、僕はコピーだけでも子供の頃の“EVPの夢”をかなえたくって、ジャケに「幽霊の声入り」との一文を載せた。
ところがソノシートが出来上がると、その一文はジャケに入っていなかった。消えていた。
「え? 何? なんで消えてんの?? それこそ霊現象的なやつ?」
驚いていると、メンバーのケラさん(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)が「あ、あれ? あの冗談はつまらないから没にした。抜いといたから」と言った。
昭和の若者の誰もが「いつかは『幽霊の声入り』レコードを!」と憧れていたわけではなかったようだ。幻のEVPジャケットになってしまった。
それでも僕は「いつかは『EVP』!」の音源にこだわっているところがあって、10年くらい前、ある女性の曲に歌詞を提供する時に、こっそり「エレクトリック・ボイス・フェノミナ」という台詞をそこに加えた。心霊もオカルトも120%まったく関係のないラブソングに不意に“EVP”が聴こえてくるという、世界でおそらく僕とフレデリック・ユルゲンソンさんくらいだけがほくそ笑むことができる…ま、ある種のレトリックだ。
本当の幽霊の声を入れるのはなかなか至難の業であるし、せめて「EVP」という言葉自体を入れてしまおうという試みであった。その女性の方の言い回しもとても素晴らしくて完成した時に僕はすっかり満足したのだけど、フレデリック・ユルゲンソンさんのコレクションに入れるかはかなり微妙なところだし、「それ、わるふざけです」と言われたらまったく否定できないかもしれない。すいません。このお詫びは妖怪人間のDVDで。お納めください。
ちなみに、「かぐや姫コンサート」の謎の声は、いまだ真相は判明していない。
大槻ケンヂ
1966年生まれ。ロックミュージシャン、筋肉少女帯、特撮、オケミスなどで活動。超常現象ビリーバーの沼からエンタメ派に這い上がり、UFOを愛した過去を抱く。
筋肉少女帯最新アルバム『君だけが憶えている映画』特撮ライブBlu-ray「TOKUSATSUリベンジャーズ」発売中。
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