名探偵シャーロック・ホームズVS名状しがたきクトゥルー神話『Sherlock Holmes The Awakened』/藤川Q・ムー通

文=藤川Q

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    ファミ通とのコラボでムー的ゲームをお届け!今月の1本はホームズ×クトゥルー神話!

    名探偵VS邪神?

     あの名探偵シャーロック・ホームズの冒険で、唯一相棒のワトソン博士が記録しなかったエピソードが存在した。それは、名状しがたき邪神にまつわる怪事件だった――と、ムー民の皆様ならばきっと垂涎の設定が光る『Sherlock Holmes The Awakened』。

     ホームズが活躍した英国はヴィクトリア朝時代は、奇しくも暗黒神話の父、ラヴクラフトが生きた1900年代初頭と重なる。じつは、何を隠そうラヴクラフトとともに暗黒神話を体系化したオーガスト・ダーレスですら、『ソーラー・ポンズの事件簿』というホームズものの探偵小説のパスティーシュを執筆していたりするくらいなのだから、ホームズとクトゥルー神話のマリアージュはじつによくなじんでいるのもうなづけるというもの。

     そんな論理と推理の権化であるホームズが、論理を超越した外宇宙の邪神的存在が絡む怪事件に挑むというテーマをオープンワールドでのインタラクティブな体験として楽しめてしまう『Sherlock Holmes The Awakened』。
     開発は長年ホームズもののアドベンチャーゲームを手掛けてきたFrogwaresで、本作は同スタジオが過去にリリースした初期作品のリメイク版となっている。ちなみに、先行する作品としてクトゥルー作品『The Sinking City』もリリースしているので、コナン・ドイル的かつラヴクラフト的な深い理解と偏愛が注がれていることは間違いない。

    探偵ミステリーとコズミックホラー

     ゲームデザイン的にも、観察と調査を重ねて集まる情報を自らで組み合わせて真相に迫っていくというミステリーアドベンチャーの醍醐味を満喫できる作り。というかプレイすると、ホームズの性格や、暗黒神話的な存在の気配の描き方までがいちいち壺を心得ていてニヤリとしてしまう場面の洪水である。

     冒険はロンドンから米国はルイジアナはバイユーまでをまたにかけて展開。まさに双方の原作の聖地を舞台とするだけに、物語は暗黒神話としての恐怖と狂気に満ちた展開として、次第に名探偵ホームズとワトソン博士に這いより、やがてスリリングな奇譚へと変容していく。そんな狂気の深淵へと落ち込んでいくなかで、まだ出会ったばかりの若きホームズとワトソンの信頼も深まっていくことになる。ホームズファンもクトゥルーファンも、気になった方は最新のゲーム表現で再び語られる秘匿された名状しがたき体験を覗いてもらって、論理と狂気の狭間でどちらが勝利するのかを見届けてほしいところ。

    本作のムー民度(★★★★☆)

    Steam、Nintendo Switch、PlayStation 4、PlayStation 5、Xbox One、Xbox Series X/Sで配信中。
    © 2022 Frogwares Ireland Ltd.

    藤川Q

    ファミ通の怪人編集者。妖怪・オカルト担当という謎のポジションで、ムーにも協力。

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