君は爆乳女宇宙人との接触を夢見たことはあるか?/大槻ケンヂ・医者にオカルトを止められた男

文=大槻ケンヂ 挿絵=チビル松村

    宇宙人にさわられて体をいじられる……恐怖のアブダクション体験だが、もしそれが美女であれば、少年にとって事情は変わりうるのだ。

    エロ本保管計画

     昭和の頃の僕は典型的な“男子”であった。つまり、エロくてアホだった。当時は「エロ」ではなく「H(エッチ)」と言われていたように記憶する。Hでアホでとにかく女性の裸が見たくていつ何時でもいかんともしがたかった。
     昭和当時はもちろんスマホその他無かったから、Hなものを見る機会がまず少なかった。ごくまれに川辺に落ちている数冊のエロ本を発見して『これはHの神のファフロツキーズ現象によるお恵みか!』と感動したり、奇跡的に金のある時は夜中にエロ本の自販機にコインを投入し、ボタンを押すと「ブー!!」と大きな音がするもんだからあせってエロ本取らずにその場から脱兎のごとく逃走したりしていた。アホだ。それにしても昭和のエロ本自販機はなぜあんなバンベルグの黙示録のラッパのような大きなブザー音を鳴らすのか。

     そんな幸運や苦難を経てエロ本を入手したとして、今度はその隠蔽工作に苦心した。親にバレずにHなアイテムを自宅キープしておくことの大変さを、全てスマホにデータで所有しておけばいい現代の若者に、どう伝えればわかってもらえるのだ。こちとら隠すべきはデータでは無い、モノなのだ。ベッドの下、カバンの中、あらゆるところを試して行きついたのは屋根の上であった。二階の勉強部屋の窓から手をのばし一階の屋根の上にエロ本をつみ上げた。『フフフ、これなら親も気付くまいて』アホだ。屋内の親からは見えなくてもご近所さんから丸見えだ。風にページが旗めいているし、雨が降ったらどうするんだ。

    『フフフ、これで一安心、さ~て、UFOの本でも今日は読むか』

     昭和の頃の僕は典型的な“男子”であった。つまりエロくてアホでオカルトが大好きであったのだ。宇宙人によるアブダクションの事例などを読めばすぐ『…アグネス・ラムみたいなグラマラスな女宇宙人にだったらさらわれてもいいなぁ』などと窓の外を見上げたものだアホだ。

    喜びに打ち震えるほどの接触体験

     航空史学者カーティス・ピープルズが90年代までのUFO史をまとめた名著「人類はなぜUFOと遭遇するのか」によれば、75年ブラジルで、18歳のホセ・イグナチオ・アルヴァロがアブダクション体験を訴えたという。

     アルヴァロは「灰色の煙の球のようなもの」を目撃し、その後に記憶を失う。そして後日、催眠術によって「UFOにアブダクションされて、女性のUFO搭乗員とセックスした」ということを「思い出した」とのこと。なんと、しかも「彼女は、裸だった。背は高くて、体はふくよかで」あったと容姿についても語っているのだ。アグネス・ラムではないが、グラマラスだ。さらに、これはある意味では重要なのかどうか不明だが、同書によればアルヴァロの様子はと言えば「喜びに打ち震えていた」そうな。うれしかったのだアルヴァロ君。さらに「同じ内容の」話が「二回目の催眠でも繰り返された」とのことだ。よっぽどだ。

     爆乳女宇宙人との、喜びに打ち震えるほどのH。ところが、その後の調査によって、アルヴァロの目撃したUFOは「ソ連が打ち上げたモルニヤのブースターから漏れ出た燃料」が原因の誤認であったと判明してしまう。モルニヤは64年から打ち上げの始まった人工衛星である。つまり、人工衛星を見た後に眠ってしまったアルヴァロが、その眠りを宇宙人の仕業と考え、催眠術にかかってアブダクション・ストーリーを語ったところ、それは18歳男子の若きリビドーがゆえなのであろうか、爆乳女宇宙人との喜びに打ち震えるほどのH、と、ついついセクシャル夢妄想…『こんなエロいことがオレにあったらいいな~』…にシフトが入り暴走してしまった…という悲劇なわけである。「人類はなぜ~」によると「この事件について、UFO懐疑論者のオドーグは、『何千という目撃者が見た幻覚の中でも、最もむごいものの一つ』だろうと、皮肉って」いるとのこと。

    アブダクションは事実、爆乳は偽装

     アルヴァロが不憫でならない。75年に18歳ということは、僕よりは少し上の世代であるけれど、日本⇔ブラジルと遠く離れていても、そこは昔の、Hでアホでとにかく女性の裸が見たくて仕方なかった男子同士なのである。「宇宙人にアブダクションされた。さてどうなった?」と大喜利されたらそこはついつい「爆乳女宇宙人とHいたしまして」うっかり願望が口をつい出てしまったその気持ち、わからんでもない。というか、よくわかる。

    「う…うそじゃねぇって! オレ、マジで宇宙人とヤったんだって!! モルニヤ!? 知らねぇって、アレはUFOだって! え? 願望? そうじゃねぇって! オレそんな爆乳フェチじゃねぇし微乳も好きだしマジでオレあの…」

    「先輩!アルヴァロ先輩、もういいっス。学者は信じなくても、僕は信じるっスよ」

    「誰だよテメーは?」

    「このブラジルの裏側の東の国で、屋根の上にエロ本をつみ上げて隠したつもりになっていた者です。HでアホなUFO好きです。同志ですよ。だから僕だけは信じます。もう、それでいいでしょ?」

    「でもよう…恥ずかしいじゃねぇかよ…オレ、たっぷりと性癖を語っちまったんだぜ! それが本にも載っちまったんだぜ!」

    「先輩、じゃこうしましょう。先輩が宇宙人にアブダクションされたのは事実です。だけど宇宙人は、一つ隠蔽工作をした。先輩に爆乳女宇宙人とのHという性夢を脳内にプログラミングし、それを先輩に語らせることによって、あまりにアホらしい話なので学者たちがそれを認めないように仕かけた。世間もただ先輩がUFOにかこつけて性癖を語ったに過ぎない、と、そういう流れにして事件自体を闇に葬り去ろうとした、つまり爆乳女宇宙人H事件は、宇宙人の陰謀による偽りの幻想だったのです! 先輩がアブダクションされたことだけは事実、エロの話は宇宙人の疑装工作にひっかかったから。そういうことにすれば、アルヴァロ先輩も世の中に面目が立つってもんでしょう」

    「…あ、うぅん、なるほど、いいかも」

    「僕、地球の裏側で…あ、先輩はフラットアーサーではないですよね? 地球の裏側で『webムー』ってオカルトサイトでUFOのこととか書いているんで、先輩の事件をそう書いておきますよ。アブダクションは事実、爆乳事件は宇宙人の疑装工作だ、って」

    「オブリガード、アミーゴ。そうしてくれると…でもアミーゴよ!」

     言いかけたホセ・イグナチオ・アルヴァロを制して、僕は言った。

    「先輩、言わなくてもわかります。僕も…男子はみんなそう思いますよ。逆だったらいいのになって、ね。幻だったのはアブダクションの方。そして、爆乳美女との喜びに打ち震えるほどのHの方は本当にあった出来事。真実だった。そう逆に、思いたいですよね」

    「ああ…こんなアホな話までも、これからはコンプラ的にダメなんだろうな。時代は変わるな。もう一度、オブリガード、アミーゴ」

    「アディオス。先ぱ…いや、アミーゴ」

    大槻ケンヂ

    1966年生まれ。ロックミュージシャン、筋肉少女帯、特撮、オケミスなどで活動。超常現象ビリーバーの沼からエンタメ派に這い上がり、UFOを愛した過去を抱く。
    筋肉少女帯最新アルバム『君だけが憶えている映画』特撮ライブBlu-ray「TOKUSATSUリベンジャーズ」発売中。

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