霊能力もUFO探知も通販で買えた! 素晴らしき昭和オカルトグッズの世界/昭和こどもオカルト回顧録
あのあやしく魅力的な「装置」たちは何だったのか……。“懐かしがり屋”ライターの初見健一が、あらゆる雑誌に掲載されていた通販広告を回想する。
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幽霊が出る場所で、酒を呑む。いたずら感覚の肝試しではなく、だれかの心霊体験を肴にして、静かに呑む。そんな異色の実録漫画『東京怪奇酒』が、なんと「東京ウォーカー」誌にて連載中だ。作者は北区赤羽の人々や暮らし、または極個人的なこだわりを取材してきたルポ漫画の旗手、清野とおる氏。 実在の心霊スポットが舞台となる作品と聞いて、「ムー」も黙ってはいられない。
――「心霊スポット巡りのプロを連れていくので、もっとすごいところで、怪奇酒やりませんか?」
そんな提案が実現し、われわれはネオンきらめく歌舞伎町に集合した。
そこで清野とおる氏が「ゾクッ」とした瞬間とは?
「このあたりだったら、いくらでも怪奇酒できる場所がありますよ」
“ムー的・東京怪奇酒”をやるとすれば、案内人はこの人しかいない。心霊スポット取材歴15年超、オカルト探偵として「ムー」でも連載中の吉田悠軌氏だ。吉田氏の提案から、清野とおる氏、東京ウォーカーの加藤玲奈編集長を招いたのは、歌舞伎町一番街の入り口となった。
歌舞伎町は戦後から現在まで、たびたび火災に見舞われている。われわれはまず2001年9月1日に44名が死亡した火災(放火説もある)現場を横目に、ラブホテル殺人事件の現場となったホテルTに隣接するパーキングや、連続火災を象徴するホテルMをめぐる。
「その現場がここです……ってスッと見せられる状況で怪談を聞くの、いいですね……」(清野とおる氏)
清野氏はもともと怪談ファンであり、代表作の『東京都北区赤羽』にも、心霊現象を扱ったエピソードがある。「怪談+酒」のアイデアも自らの発案だという。
「30代も後半になって、物事に対して心が動きにくくなっていたような気がして、焦りもあったんです。なので、あえて突飛な、イヤなことをして強引に自分の心をかき乱してみよう、というような思いもありましたね。
心霊スポットに行くのは、今でももちろん恐いです。でも時々、幽霊が呑み仲間のような感覚に思えるんですよ。なんというか……漫画にするならオバケって楽なんですよね。気を遣わなくていいし。言ってることおかしいんですけど、僕の場合は街の人たちと濃厚に関わる漫画をずーっと描いていたので、気遣いの要らない取材が息抜きのように思えます。街のみんながどんなにいい人でも、基本的に人付き合いが得意ではないので、どうしても気疲れは溜まっていきますからね(笑)」
対人関係から逃避して幽霊に会いにいくとは、なかなかこじれた理由ではある。
「もともと、赤羽で一人暮らしを始めたときに住んだ物件が“事故”がらみだったんですよ。その部屋ではないんですけど同じアパート内で…という。『清野とおるが住んでいるアパートで過去にこんなことが』って情報も地元の不動産業者が勝手にブログで流してて知ったんですけど(笑)、確かに、住んでてどうにも居心地が悪かった。夜にひとりでいるのがイヤで、金もないのに呑み歩くようになったんです」
赤羽ルポ漫画『東京都北区赤羽』シリーズのきっかけが、気づかないまでも心霊現象だった……? 結果的にはご利益のある体験だ。
「そのアパートのキッチンで、一度変なものを見たことがあるんです。換気扇から、黒くて長い髪の毛みたいなのが一本、ニュルっと垂れさがっていて、で、それに気づいたとき、なぜか直感的に『目が合った』気がしたんです。髪の毛なのに。そう思った瞬間、その髪の毛がシュルシュル~と換気扇に吸い込まれていったんです……」
くっきりとした目撃と奇妙な心理のエピソードだ。「霊感はない」と自称する清野氏だが、怪異を引き付ける、または発見するカンの良さはさすがである。
「でも、僕の中で心霊体験としてはカウントしていないんです。幽霊とするなら怪しい人影を見たとして50点くらいでしょう。はっきりと見えて会話して、なんなら後で『あの人、幽霊だったの!?』というくらいの体験をしたいんですよ」
体験者への取材を通じて構成する実話怪談を好むだけあって、清野氏のリアリティへのこだわりは強い。
「心霊系の実録本も昔から好きでけっこう読むんですけど、又聞きのエピソードや『見える人』目線のエピソードは、いまいち興味が持てなくて。オブラートに包み過ぎて体験者の人物像が見えてこない怪談も感情移入しにくい。リアリティがないと、モヤモヤするんですよね。もっとディテールくれよ!って。できれば、そのとき食べていたものや飲んでいたもの、その時していた雑談の内容。また、体験者と一緒に怪奇体験した第三者がいた場合、その人からも直接ちゃんと詳細を聞きまくっておくれよ!とか、いろいろ求めてしまう。
もちろん、又聞き怪談でも、見える人目線の怪談でも、オブラート包みまくりの怪談でも、秀逸で好きな作品は複数ありますけども(笑)。
『東京怪奇酒』は、「こういう怪談本があったらいいな~」というものを、自分でそのままカタチにしてみた漫画です。リアリティを追求したいから、また聞きはナシ。僕が本人から聞いて、詳細を確認できる範囲で取材しています」
細部へのこだわりから、連載中には入れられなかったエピソードやディテールが単行本に「おこぼれ怪奇情報」として収録してある徹底ぶり。
担当編集者の加藤氏が「お酒の銘柄も実際に呑んだものを再現しています。このときは期間限定のフレーバーだったよねとか、食べた料理の味の感想も入れたりと情報が詰まっています」と言うとおり、『東京怪奇酒』には直接は怪奇と関係ない描写も多い。
清野氏の「どうでもいい事実を重ねると、怪奇が際立つんです」というスタンスは、実話怪談の収集を生業とする吉田悠軌氏も深く頷くところだ。
「体験談を聞いていると、作り話だったら絶対に思いつかない、余計なディテールが入ってくるものです」――そういう吉田氏が次に案内したのは、歌舞伎町まで徒歩圏にある某マンション。80年代に建設された、レンガ造りのブランドマンションである。さすがに住人や管理者に配慮はするが、明治通り沿いに並ぶこのマンションに住んでいた住人から、吉田は怪奇体験を直接、聞いている。
――
このマンションの一室に暮らしていたユキコさんは、夜中にふと気づくことがあった。かすかな、耳をすまさなければ聞こえないような雑音が、部屋に響く時がある。
「コッ、コッ」という硬いもの同士がふれあう音。
家電の音ではない。ネズミかもしれないが、その割には一定で規則的すぎる。あまりに小さく、音源すら判別できないほどだったので、最初は気にもしていなかった。もともと寝入るときも含めて、常に音楽を流しているタイプだったせいもある。ただ、何かの拍子に室内の音が消え、自分も静かに座っているようなタイミングがあると、
コッ、コッ、コッ
決まって小さな音が響くのだ。
(別にどうでもいいや)と思っていたユキコさんも、この現象が十回を数える頃になると、だんだん耳障りになってきた。
ある夜、ユキコさんは意を決した。部屋中の家電のコンセントを抜いて、待機音まで消す。完全な静寂の中、じいっと神経を集中してみる。すると例の音はベランダの方向から鳴っていると判断できた。
ベランダを隔てる窓に近づき、カーテンを開けた。例の音はよりクリアになったようだ。しかし窓から外を覗いても、特に不審なものは見あたらない。
コッ、コッ
いや、違う。音はガラス戸の最下部で響いている。ユキコさんはおそるおそる戸を開き、足元の暗く沈んだベランダの底へと視線を落とした。
人の形をした、細く小さなものが横たわっていた。1メートルに満たない背丈の、骨と皮だけになった子どもだった。
こちら向きに倒れているそれが、片手を震わせ持ち上げて、またガラスをたたこうとする仕草をした。
一瞬、気を失っていたのだろうか。へたりこんだ姿勢で我に返ったユキコさんだったが、開け放たれたベランダにはもう何も転がっていなかった。
数日後、不動産屋に解約の手続きをしに行くと、向こうも特に不思議がることなく手続きに応じた。
「なんか嫌なことありました?」
百も承知とばかり、スタッフの若者がべらべらと物件の過去を打ち明けてきたのである。
「あそこ、けっこう前に風俗嬢が住んでたんですけど、ちっちゃい連れ子がいたんですよね。でも男ができて邪魔になったから、何にも世話しなくなっちゃって」
最後はベランダに子ども放りだしたまま、どこかに逃げちゃったみたい。
物件の間取りでも説明するかのように、若者はそう言い放ったそうだ。
――
この怪談の詳細は吉田氏の原稿やイベントに譲るが、現場では部屋までは特定できないものの、そのベランダの構造が確認でき、「あれが……」と思わされた。探訪は夜の9時ごろ。寝るには早い時間帯であり、普通なら部屋の明かりがいくつも灯っていそうなものだが、そのマンションは多くの住人が夜の世界で働いているため、不在を示す真っ暗な部屋が目立つ。
ラブホテルでの連続殺人やビルまるごとの火災のように大きく報道される事件以外にも、愛と欲のうずまく歌舞伎町はいわゆる“事故”が起きやすい。結果的にそれが心霊現象との縁も深めているようだ。
有名なホストビルからは飛び降り自殺が相次いでいるし、ホストを刺した女性が血まみれのまま電話していた事件はビジュアルの鮮烈さからネット上でも話題が広がった。「怪談解題」で吉田氏が書いたように、ホストにハマった女性の事件も急増している歌舞伎町では、それに基づく怪談が生み出されていく場所でもある。
新宿エリアの怪奇探訪のしめくくりとして、大久保の某教会地下にあるファミレスに落ち着いた。ここは吉田氏がライフワークとしている「新宿地下の都市伝説」で重要な場所でもある。
――
大久保駅から新大久保駅の間には、昔から伝わる秘密の地下道が残されている。現在は外国人による地下銀行や裏マーケットとして利用されている……。噂をたどれば江戸時代に徳川将軍用の脱出地下通路として使われた地下通路が、明治~昭和にかけて旧陸軍に活用され、現在はその遺構がヤクザや外国マフィアなどの地下マーケットとして使われている……というのだ。
実際、徳川時代の江戸城に地下への脱出経路があったのは図面からも事実だと言える。その出口と目されるポイントが新大久保駅と大久保駅の間にある百人町の皆中稲荷神社だ。徳川将軍を警護する組織・鉄砲百人組が信仰していた神社であり、脱出ルートの管理を任されていてもおかしくない。しかも戦後の再建工事で、本殿下に深い縦穴の地下トンネルが発見されているのだ(火坂雅志『甲州街道将軍 脱出計画』)。
ほかにも牛丼チェーン店脇に地下へ続く長い階段が存在するのだが、しっかりと施錠されていて内部は不明。現在は鉄扉で閉じられ、階段にすら近づけなくなってしまったのである……。
もうひとつ、入り口とされている場所がある。某教会の地下にあるファミレスには、厨房奥に件の地下通路に通じる空間があるというのだ……。ふたつの大手外食チェーンと地下マーケットのかかわりも含めて、新宿地下に闇社会の規模は計り知れない。
――
というわけで、われわれは厨房奥にある扉に疑惑の視線を向けながら、清野氏に自身の怪奇体験について話を伺った。
「4~5歳のころから7~8歳までの記憶なので、夢か現実かあいまいなところもあるんですけど、寝るときに毎晩、空中に色とりどりのツブツブが見えていたんですよ。砂状の、キレイな粒子が空中に散らばっていて。で、それを自在に動かすことができたんです。自分の意思で。スピードも調節できて、ぐるぐる回したり、左から右へ流したり……。なぜか右から左へは流しにくかったんですけど、回して流して寝る、という習慣になっていました。それをやると、いつでも気持ちよく入眠できたんです。
でも、いつの間にか見なくなったというか気にしなくなってたんですけど、中1か中2のときに『そういえば粒子を見てたよな?』と思い出したら、やっぱり見えるんですよね。でも回すことはできなくなっていて、左から右へちょっとだけ流すのが精いっぱい。今もときどき見るんですが、もう粒子はビクともしませんね」
目か脳の病気だったのかなんなのか、と本人も述懐するが、サイケデリックな色合いは一般的な霊のイメージとは異なるし、そもそも「幽霊=白っぽい」というスレテオタイプを理解するかしないかくらいの年齢からの体験だ。
「粒子を回してたのと同じ部屋で、別の体験もしているんですよ。小3か小4のとき。弟と同じ部屋で寝てて、窓の向こうが月明かりで明るかった夜です。バサッバサッとやたら大きな鳥の羽音みたいな音と、変な鳴き声みたいなのが聞こえてきて。目を覚ましたら、窓が一瞬、暗くなったんです。エっと思って窓を開けて外を見たら、プテラノドン級の巨鳥が飛び去っていく後ろ姿が遠方に見えて……。一瞬暗くなったのは、その怪鳥が窓際を通過した瞬間だと思うんですけど、「ギャーギャー」という鳴き声込みで、今でも鮮明に記憶していますよ。って、なんですかね、このエピソードは(笑)」
検証できないけど、確かに見たという極私的な要素は、むしろ怪談、怪奇体験の構成に必須といえる(客観的に検証できたらただの事件だ)。
担当編集者であり東京ウォーカー編集長の加藤氏も、あるはずのない「大仏」に遭遇していたり(詳細は『東京怪奇酒』に収録)、名古屋旅行で心霊現象としか思えない宿に泊まっている。「心霊現象なんて経験がないと思っていても、誰しもが説明できない記憶や体験をもっている」と実感した加藤氏は、『東京怪奇酒』の今後をちょっとだけ語ってくれた。
「今度、『ヒュードロドロ』という音が聞こえた場所に行くんです。漫画みたいに『ヒュードロドロ』って実際に聞こえたって、気になりませんか?」
伝統芸能の笛や太鼓の幽霊演出が、唐突に? はたして音源の正体は? そしてそこで呑む酒は? ディテールを含めた顛末は、『東京怪奇酒』にて。
……補足になるが、某ファミレスを辞する際に「あの扉の向こう」についてスタッフに問い合わせたのだが、「とくに使っていない」という、通説とは異なる回答であった。この矛盾もまた、新たな疑惑である。吉田氏の調査の進展に期待したい。
『東京怪奇酒』(清野とおる・著/KADOKAWA/本体1000円)
幽霊が出るという場所や住人が怪奇に悩む事故物件、あるいは「見たはずなのになくなった大仏」を前に、酒を呑むというルポ漫画。不気味なエピソードをほろ酔いで緩和し、状況を味わう異色作だ。連載時に言及できなかった要素を詰め込んだ「おこぼれ怪奇情報」もあわせ、じっくり読み込める。
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