映画『牛首村』公開記念! 坪野鉱泉から牛首紬へつながる「双子」の怪奇/清水崇・吉田悠軌

構成=吉田悠軌 インタビュー撮影=我妻慶一

関連キーワード:

    有名心霊スポット「坪野鉱泉」と、怪談「牛の首」。「犬鳴村」「樹海村」に続く、“恐怖の村”シリーズ3作目があぶりだした怪談世界について、都市伝説ルポルタージュの第一人者、吉田悠軌が清水崇監督に聞く!

    画像
    東映本社にて対談。写真奥が清水崇、手前が吉田悠軌。

    「恐怖の村」3作目の舞台は……

     吉田悠軌 恐怖の村シリーズもいよいよ三作目ですね。

     清水崇 3作目はいよいよ、なんの題材にすればいいのか困っていたんですよ。「坪野鉱泉」の名前は、その前から何度も上がっていたんですね。それこそ前作『樹海村』のネタ探しや取材の時から吉田さんからも聞きましたしね。そして今回、「坪野鉱泉で、なにかできないかな」という話から始まっていったんです。

    吉田 まず坪野鉱泉ありきだったんですね。意外でした! むしろ「牛の首」怪談ありきで、牛首村が北陸にあることからの、北陸の有名な心霊スポットといえば坪野鉱泉……という流れかと推測してまして、パンフレットに提供した「ムー」の記事にもそうじゃないのかって書いてしまったんですけど。

    画像

    清水 一番の大元は双子ネタです。最初『樹海村』の脚本に双子のお婆さんの出てくるシーンがあって…その時は削ったので。そのあとに坪野鉱泉。あそこは、いろいろ尾ひれついた話がありますが、どれが本当かもわからない。さらに例の失踪事件もありまして、たくさんの推測がささやかれたりもしました。ご遺体が発見されたのが、我々が撮影に入る前の年(2020年3月)でして。だから「坪野鉱泉を題材にしてます」とは言いにくい状況ではあったんですよね。
    ただしよく考えてみると、彼女たちは坪野鉱泉には行ってないとも考えられるわけです。事件当日、最後の連絡時間から察するに、富山新港からあそこまで往復する時間はなかったはずなんです。
    いずれにせよ、坪野鉱泉は事件と直接関係ないことは判明しているのだから、ご遺族や関係者に迷惑をかけるのは避けたい。ただし、坪野鉱泉というモチーフだけで劇作の映画にするのは絶対無理だとも思いました。タイトルも「坪野村」では怖くもないですし。
    それで、前々から扱ってみたかった実体のない「牛の首」を持ってきたらどうかと、僕から提案したんです。実体無いから、結局は創作せねばならないのですが。

    吉田 そうなんですね。隣の石川県になりますが、あのあたりには偶然にも「牛首」という地名が多い。

    清水 実は旧牛首村は隣県なんだよなーと思いながら、そこはもう架空のものとして。だから、実はあのトンネルも劇中では「牛首トンネル」とは言ってないんですよ。パンフレットやプレスの作成時にも「一緒にしないでください」と伝えていました。詳しい人にはトンネルと坪野鉱泉はすごく離れてて、途中で通るわけがないっていうのもわかりますから。

    吉田 とはいえ上手く繋がっていったな、という感じですね。私もパンフレットに書かせてもらいましたけど、牛首トンネルとはまた別の、白山の方の旧牛首村の特産品「牛首紬」もそうです。二匹の蚕がひとつの繭に入っている「玉繭」から作られるのが牛首紬ですが、そうしたイメージは、双子が絡むこの映画の内容とも繋がってますよね。

    清水 そうなんですよ、だからそれも本当は要素として盛り込み、繋げたかったんですよ。ただ牛首紬を作られてる方々にも迷惑をかけられないし……。双子ネタも『樹海村』からあったので、本当は牛首紬モチーフと繋げたかったです。
    なので初期段階から牛首紬とか旧牛首村、牛首トンネルを題材モチーフとしていたら、逆に坪野鉱泉の方が出てこなかったと思います。そっちには、多分いってないです。福岡県にも、漢字こそ違えど牛頸って地区が今でもありますしね。

    画像

    「双子」という血縁

    吉田 やはり双子モチーフというのは、清水監督の中に強くありますよね

    清水 はい。『樹海村』の時から。でもこれは一本の別の題材にできるんじゃないかという話になって。そこはもう坪野鉱泉より先に決まっていた。それで、『樹海村』が終わってすぐ、企画書も出る前に、なんのオーディションかお伝えしないまま「双子オーディション」をやっていました。とりあえず双子の役者や芸人さんやタレント、モデル、中には素人の双子の方まで来ていただいて。

    吉田 面白いですね。というか、オーディション受ける双子たちは、なんの仕事なのかすら知らされてないんだから、ちょっと怖かったでしょうけど(笑)。

    清水 『牛首村』で村の中にたたずんでいる人たちも、CGとかではなく、本当に双子です。クレジットを見れば、苗字が一緒の方がたくさんいらっしゃいます。あの中には、ザ・リリーズっていう双子デュオの歌手の方もいます。あと、東映の紀伊プロデューサーの妹さんが双子で、素人の方なんですけど出ていただきました。ほかにもゆうばりの映画祭で知り合った佐藤智也監督からのご紹介とか。
    だから、まず双子ものでやろうとしたところに、坪野鉱泉の話が持ち上がり。僕が「牛の首」を使いたいとなったら、双子の繭の牛首紬があるじゃん! と気づいたり。でも隣県だから使えないなあ……など、そのへんがいろいろかけ合わさって。

    吉田 どんどん繋がっていったという。三部作とも監督は「血の呪い」の怖さを描かれてますが、今回の双子モチーフこそ、それがすごく前面に出てきてますね。

    清水 そうですね。双子の謎というのがありながらも、人間関係は比較的シンプルにしたつもりなので、前二作よりも人物関係図がすごくわかりすくなっていると思います。

    吉田 まあでも「血の呪い」を描く以上、人間関係が複雑になるのは、しょうがないですね。

    清水 悪しき因習とか、土着の薄気味悪さみたいなのを使うとなると、どうしても血筋がらみのキャラクターが出てこざるをえない。その土地を怖い感じで描くのも、あまり気楽にはやりにくいですし。

    画像

    ロケ地・富山の「怪奇ご当地」

    吉田 富山県は、意外とホラー映画と相性のいい土地といいますか。暴走族発祥の地、ロカビリーの聖地でもあるし……言い方が難しいな……アウトサイダー文化に寛容なところではあります。

    清水 アウトサイダー文化に寛容(笑)。でも確かに、富山のフィルムコミッションはものすごく素晴らしい協力をしてくださいましたね。今回はすべてにわたってサポートしてくださる担当者がいまして、もう「あなた、現場のスタッフですか?」っていうくらい動いてくれました。メインスタッフより早く現場に来てたり、地元の方を説得してくれたり。
    富山のフィルムコミッションは優秀で活動的というのは有名で、自分も聞いてはいたんですけど、体験したのは今回が初めて。あそこまで、とは! 本当に無くてはならない存在でした。
    だって、僕がロケハンで初めて現地を訪れた時にはもう、担当者の方、撮影部・照明部のスタッフの方々を知っていましたからね。「おー、よく来たね!」って。以前に他の映画で関わってて、既に旧知の仲になってるんです。ホラー映画だけど、最初から担当者の方が面白がってくれたのも大きかった。それをきっかけに色々なことが実現できました。

    吉田 実際の場所を舞台にして、かつ土着の因習みたいなテーマでやる「ご当地ホラー映画」となると、けっこう現地との折り合いが難しくなると思うんですよね。でも「恐怖の村」シリーズは三部作ともうまくいきましたよね。

    清水 どれも現地の方々のおかげです。『樹海村』の時なんか、撮影の時にはかなり厳しく門前払いだった方たちも、公開前に試写を観た途端、「素晴らしい映画だった! コラボしたい」と言ってきたり…「よく言えたな」と大人の手のひら返しに閉口しました…。特にこのシリーズは、ドラマの軸もあるので、そこを見ていただけたんだとは思いますが…撮影時、実際にご協力いただいた土地の方々へも失礼になりかねないし。

    吉田 ホラー映画というだけで、あらぬ悪口を描かれるんじゃないかという恐れがあったのかもしれないですよね。

    清水 そうですよね。イメージがあるんですよね、ホラー映画=人が血まみれになって死ぬだけ、怖いだけ気味悪いだけの、変な人が観る映画だという古いイメージが、いまだに。いや、そういう映画もあるし、そういう中にも名作はあるんですが、わかり易い表面だけで判断するのはいつの時代も大人や社会の悪い癖ですね。自分もオッサンになってしまったので、なんとも言えないですけど(笑)。

    吉田 でも『牛首村』は初めからフィルムコミッションが協力的だったし、公開後も現地の感触は良さそうですね。

    清水 この取材のあと、公開前のキャンペーンで現地の試写会に行くんです。東映さんみたいな老舗の商業映画で、全国規模のかたちだからこそできることです。現地に突っ込んでいって、とにかく撮るんだ、みたいな自主映画的なものとは違いますね。全国にお披露目する映画なのだから、きちんと扱わないといけない。

    画像

    「村」の後は……?

    吉田 ともあれ今回で、恐怖の村シリーズはひと段落ですか?

    清水 そのつもりではいます。三部作でやるということだったから、他の仕事を断ってでも参加してくださるスタッフもいましたし。まあ、わかんないですけどね。大林宣彦さんの新・尾道三部作みたいなことになるかもしれませんが。

    吉田 私は『犬鳴村』の時点から清水監督に、次の「村」としてホワイトハウス、ジェイソン村を推してましたが。

    清水 ジェイソン村は名前がね。もうその時点で、別の映画を連想させてしまうから(笑)。また、日本の怖い感じとも違うじゃないですか。そのネーミングは重すぎます。『牛首村』も僕が言い出したんですけど、その前までは下手したら『坪野村』になるところでした。『犬鳴村』については最初からあるものでしたが、むしろこのネーミングがいいよね、という入り方でしたね。

    吉田 確かに、こと映画にするとなれば、ネーミングがすごく大事でしょうしね。

    清水 今はもう、村シリーズとは違うものに入ろうと準備をしているところです。現状で話せることは……なにもないかな(笑)。

    吉田 とはいえ、ホラー映画ですか?

    清水 ホラー映画ですね。なので、もしかしたらですが、吉田さんにもまたご協力いただければ……

    吉田 なにが出ることやら…ですが… もちろんご協力します。

    画像
    (左)清水崇/1972年群馬県出身。映画『犬鳴村』、『樹海村』に続き、『牛首村』でも監督・原案・脚本(共同)を務める。『呪怨』シリーズなどJホラーの旗手として知られる。(右)吉田悠軌/1980年東京都出身。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。都市伝説ルポを中心に各種メディアで活動。「ムー」でルポ「オカルト探偵・女が怖い」シリーズを連載中。
    画像

    映画『牛首村』公開情報

    2月18日(金)より全国ロードショー
    公式サイト https://ushikubi-movie.jp/

    吉田悠軌

    怪談・オカルト研究家。1980年、東京都生まれ。怪談サークル「とうもろこしの会」の会長をつとめ、 オカルトや怪談の現場および資料研究をライフワークとする。

    関連記事

    おすすめ記事