映画『樹海村』公開記念! 樹海とコトリバコの呪力と生命力/清水崇・吉田悠軌

構成=吉田悠軌 インタビュー撮影=我妻慶一

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    自殺の名所としても知られる「樹海」には、死にきれなかった者たちが集う「樹海村」があるーー。 『犬鳴村』に続いて、有名都市伝説の映画化を成し遂げた清水崇監督と、都市伝説ルポルタージュの第一人者、吉田悠軌が“樹海”と“コトリバコ”の呪力について語り合う。

    『樹海村』は恐エッグ!?

    吉田悠軌(以下、吉田):『樹海村』。さきほど試写会で観たばかりで5分も経っていないのですが……めっちゃ恐かったです。
    清水崇(以下、清水):ありがとうございます。
    吉田:恐さ、エグさ、おぞましさについては、『犬鳴村』をしのいでますね!
    清水:『犬鳴村』よりエグいというのは、どういうところで?
    吉田:スプラッターな感じのエグさではなく、精神的なエグさですね。
    清水:あ、それは嬉しいですね。そういうご意見は嬉しいです。
    吉田:『犬鳴村』とは、また趣向や方法を変えてきたなって思いながら観てました。いい意味で「エグい」「おぞましい」のつるべ打ちみたいな感じで。これはもう中田秀夫監督いうところの「恐ポップ」じゃなくて「恐エッグ」ですね。
    清水:どうしてもホラー映画というのは若い人向けなんです。ハリウッドでは「ジャンプスケア」というわかりやすい言葉がありますが、「わー! ぎゃー!」と驚かせた後に、「声出ちゃった」と、ホッとして笑う……みたいな興奮の緩急が、やっぱり若い人は好きなので。今回もそういうところは絶対に求められてる、というのはわかってましたが…正直苦手なんですよね。驚きと怖さは別ですし、わかりやすすぎるのは恥ずかしくて。それとは別に精神的「恐エッグ」といわれると、ありがたい。

    『犬鳴村』公開からすぐに制作開始

    清水:今回の『樹海村』制作にあたっては、吉田悠軌さん、村田らむさん、TOCANAの角由紀子さんにも事前に取材させていただいて。その時は、まだ第一弾の緊急事態宣言前だったので、3月の『犬鳴村』公開すぐ後でしたね。そこから脚本に入っているので、企画から完成までのスピードは早かった。犬鳴村は撮影から公開まで1年半以上、期間があったんですけどね。
    シリーズ1作目が当たって次、ってなると大体そうなるんですよね、アメリカでも日本でも。それでクオリティを下げたくないし、似たようなこともできない。そこで緊急事態宣言が出て自粛に入っちゃって……。
    まあ、ちょうど外出できなくなってしまったタイミングで脚本作りだったので、脚本家の保坂大輔さんとかプロデューサーの紀伊さんとリモート会議をしていきました。そして数週間で、世界中が新型コロナに震え上がるのを目の当たりにした。
    そうした中で脚本を書いていたからでしょう、今回の映画は「自然の怖さには、誰も太刀打ちできない」という裏テーマになっていったんです。
    吉田:確かに。『犬鳴村』だと、悲劇の大元は悪い人間たちの行いでしたから、そことはテーマ性が違っている。ただ、『犬鳴村』と共通している点もあります。家族や血縁への恐怖というのは、今回も引き継がれていますね。
    清水:そうですね、そこは……。
    吉田:しかも『犬鳴村』よりおぞましくなっている。もちろん「謎の集落」へのロマンや恐怖もあるんですけど、家族・血についての抜き差しならない恐怖っていうのにより比重が置かれたのかな、と。
    清水:ありがたい言葉です。

    人間の恐さより、自然の恐ろしさ

    ――「樹海村」は映画にしづらい、ということをおっしゃってたそうですが。
    清水:そうなんですよ。僕とプロデューサーと脚本家とで、実際に樹海に行ってみたんですけど。我々はなんの予備知識も土地勘もない素人たちなので、事前取材に協力していただいた村田らむさんや“樹海のKさん”と違って、どっちが中心なのかもわからないまま、浅いところをウロウロしていただけ、でした。ただ空気は清々しかった! これ、マイナスイオン出てるんじゃないか?って。
    しかし…如何せん、歴史がない。人が住んだ形跡も、人がそこに思いを残したってのもない。だからこそ、人と交わらずに、そこでひとりで死ねるということかもしれないですけど、人の痕跡や匂いがしないので、「物語をつくる」「ミステリーの要素を持ち込む」には、まったくかけ離れてる土地なんですよね。
    ではどうするかということで、まあ創作の部分もあるんですけど、過去、ここに邪魔なものを捨てていくっていうイメージをくっつけていきました。また『犬鳴村』と同じく、都市伝説と主人公の家族とを繋げたかった。そこで入れたのが、「コトリバコ」の要素だったんです。
    吉田:そうなんですよね。犬鳴村の方は、北九州・福岡を繋ぐ要所ですから、ずっと昔から人間の歴史がある。なので、物語が生まれやすいんですよね。でも樹海村はけっこう新しい都市伝説――映画パンフレットにも書きましたけど、たぶん2005年あたりから――ですし、設定とか背景とか歴史とかがない。そこに歴史性を背負った怪談であるコトリバコをもってきたのは、正解だったんじゃないですかね。まあ、樹海は人の歴史が無いぶん、自然の怖さを描く方向にもっていけて、そこは犬鳴村とはまた違った良さがありましたね。
    清水:映画の観客というのは、人の死になんらかのルールがあると思っている。「どうしてこの人、なにも悪いことしてないのに死んじゃうの?」とかよく言われるんですけど、「いや、現実の方がよっぽどルールないじゃん! 現実の方が怖いじゃない」っていう話をするんです。新型コロナも、東日本大震災の時もそうでしたが、人がなにも太刀打ちできない自然だったり、人間が作ったもので人間がやられてしまうという状態。なんというか、神の力みたいなもの、とんでもない恐ろしさみたいなものを感じたんですよね。
    それはずーっとどこかにあって、人は自分たちにとって便利な世の中にしてはいるけど、自分たちが作ったものに首を絞められ続けてる。放射能に代表されるような、どうにも自分たちの手で浄化しきれないものをどんどん生みだしている。それは物凄く怖いことなんだけど、その脅威が身近にこないと、人間という生き物は怖さを感じられなくなってるんじゃないかなって。自分もそのひとりですけど。主人公の一人、響はそういうものを無意識に感じてる女の子にしたかったんですよね。

    コトリバコと血の呪いで、アリ・アスター!?

    吉田:「コトリバコ」なんかがまさに、そうですよね。最強の呪物を作ろうとしたために、自分たちでも手に負えなくなってしまう。本当に原発や放射能などのメタファーかと思えるほどです。本当によくできた話ですよ。
    清水:ただコトリバコの呪いって、オリジナルの方は女子どもに対してだけなんですよね?
    吉田:そうです、男たちには被害が及ばないっていう設定ではありますね。
    清水:そこはちょっと映画の為にアレンジしたんですけど。まず姉妹の話にしたい、というのがあり、そこから過去何があったのか、どういう人がいて……と創造していくうちに、だんだん母親、おばあちゃんへと女系に繋がっていった。
    吉田:オリジナルのコトリバコとは、残されている人が男・女で逆転してますよね。
    清水:オリジナルでは、残ったのは男だけ。残された者の地獄っていうのもあるとは思うんですよ。ただ、ホラー映画となると……やっぱり男性主人公って成立しづらいんですよね。男がどんなにイケメンだろうと、母性愛くすぐる人だろうと、ワーギャー怖がってたら観客は「自分で頑張れよ!」と思っちゃうんですよね。それはもう世界共通。先日、リモートで話したアメリカの女性プロデューサーも「ホラーの主人公は女がいい」に大賛成してました。男の怯えや悲鳴、嫉妬などは万人が受け止め難い……その辺、男って損ですね。
    吉田:それはそれで、オリジナルと違って「女だけが残されている」嫌な感じもあります。お父さんと息子って、そんなに繋がりが強くないじゃないですか。成長したら分離・独立していくような感じ。でもお母さんや姉妹の方は、生涯ずーっと繋がっている感じがありますから、より抜き差しならない恐さが出る。この例えが清水監督にとって嬉しいかわかりませんが、ちょっとアリ・アスター監督の映画みたいな。
    清水:おお! 『犬鳴村』の時、ちょうど『ミッドサマー』公開とぶつかってました。
    吉田:「恐い村」対決でしたね。
    清水:もちろん『ミッドサマー』好きですよ。『ヘレディタリー/継承』はとっつきづらかったんですけど。『ミッドサマー』観た時は、「この監督は確実に歪んだ才能がある!」「日本じゃなかなか商業的に成立しないブラックユーモアのホラーだ!」と思いました。
    でも『犬鳴村』の主人公をやってもらった三吉彩花が「何なの、あの気持ち悪い映画! 今年一番、嫌な思いをさせられる映画だった」と言ってたと聞いて、それがは普通の人の感想なんだろなー……と。
    吉田:『ミッドサマー』は、癒されるという人も多いんですけどね。
    清水:そう! そうなんですよ。気持ち悪いって思う人がいるのはわかるけど、自分の映画の主演やってくれた女優が、なんて普通の感想なんだ!と……ここ、絶対カットしないで残してくださいね(笑)。
    吉田:いやいや(笑)。いい意味で、歪んでないということでしょう。

    虫愛づる主人公・響

    清水:でも僕の中からは、ああいうエグさは出せないのかなーって思ってたので、今、例えにあげていただいて嬉しいですね。
    吉田:自分は『樹海村』を観ながら、どちらかというと『ミッドサマー』より『ヘレディタリー/継承』の方を思い出しました。やっぱり家族や血の愛憎というか、愛してる部分もあれば、憎しみあっている部分もある、その抜き差しならない感じがホラーに転換されているっていうのが、『ヘレディタリー』とも共通しているな、と。
    清水:あれも娘さんが出てきますし。
    吉田:ちょっと響(※主人公姉妹の妹)と印象が似てますよね。
    清水:響は、僕の中ではナウシカなんですよ。
    吉田:そういえば虫と遊んでますしね。
    清水:あれ、響役の山田杏奈はそうとう我慢しながらやってくれたんです。台本ではダンゴムシだったんだけど、現場が山奥だったので、尺取虫をスタッフが見つけてきて「監督こんなのいましたけど」「いいね! こっちに切り替えよう」と。山田杏奈に大丈夫か聞いたら「えええええっ!?」と叫びながらも「……がんばります」と。何度もテイクを重ねたので、実は泣きそうになってました。女優魂ですね。
    吉田:確かにナウシカというか、自然・異界と現実・人間界とを媒介する存在ですね。響が見ているのは、自然側であり、死んだ人たちの世界だったりする。
    清水:ひきこもりのナウシカ。僕も妹がいまして、ひきこもりどころか活発な奴ですけど、小さい頃からちょっと不思議ちゃんで、大人になってもずっと変わらない。多分、ずっと自分とは違うものが見えて感じてきてるんですよね。この映画では、別にいがみ合っている訳ではないけど、対極にいるような姉妹にしたかったんですよね。

    病院の少年は……

    吉田:他の主人公たち若者グループ全体もそうですし、人間関係の微妙さからくる恐怖がにじみ出てますね。そのあたりは大人に受けがいいかもしれない。
    清水:いまのところ関係者とかマスコミからは評判いいです。もちろん大人ばかりだからというのはありますが。若者たちには、どう映るのか……。
    吉田:若い人のホラー映画需要の中には、とりあえず驚かしてくれるアトラクションを期待している人たちもいるでしょうけど。その点、病院のシーンなんかは驚かしの「ジャンプスケア」と、エグみのある「おぞましさ」が上手くブレンドしていたな、と感じました。
    清水:あ、あそこですれ違う男の子、『犬鳴村』にも出てる子ですよ。
    吉田:気づきましたよ!
    清水:もう前作の撮影から2年くらい経ってるんで、だいぶ成長しちゃってますけど。気づいてくれる人がいたら面白がってくれるかなあ、って。今回の『樹海村』のストーリーには関わってきませんけどもね。
    ――となると、3作目の「村」があれば、やはり出てくるのかと期待しますが……
    吉田:シリーズ3作目にも出てくるなら主人公かラスボスですかね……。
    清水:実は、この2作目『樹海村』の撮影中から「村3」企画にも追われてて……。「恐怖の村シリーズ」という題材の縛りに苦しみながら。吉田さん、また取材させてください。
    吉田:ええ、村でしたら、こんな話があるんですよ……。

    (右)清水崇/1972年群馬県出身。映画『犬鳴村』に続き、『樹海村』でも監督・原案・脚本(共同)を務める。『呪怨』シリーズなどJホラーの旗手として知られる。
    (左)吉田悠軌/1980年東京都出身。怪談サークル「とうもろこしの会」会長。都市伝説ルポを中心に各種メディアで活動。「ムー」でルポ「オカルト探偵」を連載中。

    映画『樹海村』作品情報

    映画『樹海村』/2月5日(金)全国ロードショー
    監督:清水 崇
    脚本:保坂大輔 清水 崇
    出演:山田杏奈 山口まゆ 神尾楓珠 倉 悠貴 工藤 遥 大谷凜香 山下リオ 塚地武雅 黒沢あすか 高橋和也 安達祐実 原日出子 國村 隼
    製作:「犬鳴村」製作委員会
    制作プロダクション:ブースタープロジェクト
    配給:東映
    (C)2021「樹海村」製作委員会

    映画『樹海村』公開情報

    2月5日(金)より全国ロードショー
    公式サイト https://jukaimura-movie.jp/

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