宇宙を創造した超越的存在「サムシング・グレート」とは? 「インテリジェント・デザイン」の基礎知識

文=泉 保也

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    ダーウィンの「進化論」だけでは自然界の森羅万象を十分に説明することができない。宇宙も生命も、知性ある何者かによってデザイン(設計)されたとする「インテリジェント・デザイン」という新たな理論が必要となった。万象の背後に存在する「大いなる知性」とはいったい何者なのか?

    ダーウィン進化論は間違いだった?

     進化論の見直しに拍車がかかっている。チャールズ・ダーウインが『種の起源』を発表し、自然淘汰と突然変異を骨子とする革命的な進化論を提示したのは1859年だった。以来、およそ150年間、ダーウィン進化論はほとんど定説に等しい仮説として認知され、科学の飛躍的な進歩・発展に寄与してきた。だが、皮肉なことに、科学の進歩・発展は進化論の欠陥を露呈させることにもなった。

    「進化論」の祖となったイギリスの自然科学者、チャールズ・ダーウィン。
    ダーウィンの著書で、1859年に刊行された『種の起源』の初版本。
    ダーウィンが進化論を考えるきっかけになったとされる「ダーウィンフィンチ」のスケッチ。

     進化論においては、生命を司るすべての事象は「偶然」と「必然」というふたつの自然的要因に還元される。突然変異=偶然、自然淘汰=必然であり、ランダムに起きた遺伝子の変異(偶然)のなかで、環境に有利なものだけが次世代に受け継がれる(必然)という図式のもとですべての生命は進化してきた、と説く。

     ところが、そうした前提ではどうしても説明できない事象が次々と発見されはじめた。

     精妙かつ複雑なシステムから成り立つ生命すなわち生物の構造が、偶然によって生まれたとは考えにくい。ましてや、生命が現在のような形態とシステムを持つに至る過程で、偶然が何百回も連続して起きることはありえない。偶然でないのであれば、意図的に行われたと考えざるをえない。

     かくて、偶然と必然のほかにもうひとつ「デザイン」という要因を科学として認めるべきだ、との主張がなされるようになった。すなわち、精妙かつ複雑な生命のシステムは、生命を育もうとする意図を持った知性ある何者かによってデザイン(設計)された、とする論であり、これを「インテリジェント・デザイン(ID)」という。

     このID理論を、一部では「クリエイショニズム(創造論)」の焼き直しと批判する向きもあるが、両者はまったくの別物だ。

     紙幅がかぎられているので先を急ぐが、クリエイショニズムでは、『聖書』の「創世記」の記述をすべて事実と見なし、神という絶対的な創造主を出発点に置き、森羅万象は神によって創りだされたとする。

     だが、ID理論は『聖書』に基づくものではないし、宗教的権威から導かれたものでもない。生物学のデータからの推論であり、想定する知性ある何者かは、必ずしも神であるとはかぎらないし、その検証には科学的手法が厳密な形で適用されるのである。

    自然界に溢れる「知性のデザイン」

     もう少し具体的に説明しよう。

     生化学者マイケル・ビーヒーは「還元不能の複雑性」という言葉をキーワードにしてID理論を展開する。

    「還元不能の複雑性」という言葉で「インテリジェント・デザイン」の本質を説明したアメリカの生化学者マイケル・ビーヒー(ベーエ)(写真=Bryan Matluk/Wikimedia Commons/CC BY-SA 3.0)。

     還元不能に複雑なシステムとは、全体の基本的な機能に貢献するいくつかの部品からなる単一のシステムのことで、それら部品のどれひとつが欠けても効果的に機能しなくなるものをいい、ビーヒーはネズミ捕り器を例にあげて説明する。

     ネズミ捕り器は、①木製の平らな基盤、②ネズミを挟むコの字形の金属ハンマー、③ハンマーを押さえるバネ、④触れるとバネが外れる引き金、⑤引き金とハンマーをつなぐ金属棒からなっている。

     これら5つの部品のうち、どれひとつが欠けてもネズミ捕り器は機能しない。つまり、これ以上には還元(簡略化)できないし、基盤だけ、金属ハンマーだけ、バネだけ、引き金だけ、金属棒だけでもまったく用をなさない。すべての部品があるべき場所に正しく設置されてはじめてネズミ捕り器として機能するのである。

     また、この装置はネズミを捕るという目的のためだけに設計された構造物であり、より原始的な罠を改良(進化)しながら完成に至ったものでもないのだ。

    ネズミ捕り器は5つのパーツから構成されているが、いずれのパーツも単独ではまったく用をなさない。ネズミ捕り器であるためには、最初から5つが完璧な形で備わっていなければならないのだ。これが「還元不能の複雑性」である。

     この事例のように、ある目的のためにデザインされ、なおかつ還元不能の複雑性を備えた構造物が自然界には満ち溢れている、とビーヒーは主張し、バクテリアの鞭毛、脊椎動物の眼球構造、人間の血液凝固システム、鳥類の羽の構造などを例示して、説得力ある説明をしている。

     たとえば人間の目は、ガラス体、網膜、水晶体、毛様体、虹彩、瞳孔、角膜、視神経などからできており、このうちのいずれかひとつが欠けても正常には機能しない。

     進化論が説くように、目がもし進化の結果として完成したのなら、その過程では視覚器官としては何の役にも立たなかったろうし、役に立たない器官は自然淘汰されただろう。したがって、眼球は最初から眼球として完成していたとしか考えるほかはないのである。

     ネズミ捕り器に比べて遙かに複雑で精妙な構造の器官が最初から完成していたとするなら、それを偶然の産物と考えるには無理がありすぎる。むしろ、知性ある何者かによって意図的に創られたとするほうが納得しやすいのだ。

     バクテリアの鞭毛もしかり。単細胞生物の推進力になる鞭毛は、小さな分子のモーター、細胞壁にモーターをつなぎとめる分子の枠組み、鞭状のプロペラなど三十数個のタンパク質の部品からなっており、ひとつでも部品が欠ければバクテリアは移動できなくなる。

     進化論的な考え方で鞭毛の構造と機能を説明するのは難しい。というより、不可能だろう。

    鞭毛とは、原生動物、細菌、藻類や菌類、動物の精子や細胞などに見られる運動をするための糸状の構造をいう。この鞭毛も、進化の過程で試行錯誤の末に生まれたものではなく、最初から「移動する」という目的のためだけに存在していたと考えるべきなのだ。

     かりに、三十数個の部品がそれぞれ独自に突然変異を起こしたとしても、個々の部品は単独では機能しないのだから、生存に有利な遺伝形質とは見なされずに淘汰される。

     遺伝形質が次世代へ受け継がれるためには、三十数個の部品がいっせいに突然変異を起こし、なおかつその変異が生存に有利な変異と見なされるように相互に調和を保って機能する必要があるのだ。

     そのような奇跡のような現象が現実に起こるとは考えにくい。それよりも、この「還元不能の複雑性」は、あらかじめ意図的にデザインされたと考えるほうが遙かに合理的ではないか。

    宇宙に隠された謎の数字と「微調整」

     とまれ、ID理論は現在、主として生命現象のデザインに焦点を当てているが、宇宙のデザインに熱い視線を向ける科学者もいる。広大無辺の宇宙にも、IDを示唆するような不可思議で奇妙な出来事が多数存在するからだ。

     周知のように、宇宙はさまざまな不変の物理常数によって支配されている。ノーベル物理学賞受賞者のポール・ディラックは、それら常数のなかに奇妙な数字を見つけだした。10の40乗がそれだ。

    イギリスの理論物理学者、ポール・ディラックも、宇宙に存在する不思議な「偶然」に気づいたひとりだった。

     たとえば、電磁気力の常数を重力常数で割ると10の40乗になる。宇宙の年齢を、陽子の半径を光が通過する時間で割っても10の40乗。宇宙の物質密度の比も10の40乗で、宇宙に存在する核子の数は10の40乗をさらに2乗した数になるのである。

     ディラックのこの発見は「大数仮説」と呼ばれ、その後の天文学者や理論物理学者たちに多大の影響を与えることになる。

     イギリスの理論物理学者ブランドン・カーターも影響を受けたひとりで、彼は、宇宙には“設計図”が存在するという概念をさらに一歩進め、宇宙では生命のためにさまざまな「ファイン・チューニング(微調整)」が行われているという独創的な仮説を提示した。
     宇宙の基本的な物理法則やその常数は、宇宙創造(ビッグバン)時から驚くべき精度でファイン・チューニングされていた。それは、人類のような知的生命体とそのための環境を創りだすためであった、と主張するのである。

     たとえば、宇宙の基本構造を決定づける重力常数がほんのわずかでも大きかったら、恒星ははるかに高温になって短期間で燃え尽き、惑星に知的生命体が誕生するまでの十分な時間がなくなる。逆に重力常数がわずかでも小さかったら、恒星の温度は低くなって内部で核融合反応が起こらない。結果、鉄や酸素などの重元素は生成されず、地球型の岩石惑星も生まれない。

     カーターはさらに、プランク常数、光速、単位電荷量などを例証にあげながら、基本的な物理常数がほんのわずか上下にずれるだけで知的生命体が存在しえなかったことを証明。この宇宙は知的生命体を誕生させることを目的にデザインされている、と結論づけるのである。

     天文学者ヒュー・ロスもまた、さまざまな物理常数の計測的事実を根拠に、宇宙は最初から人類を念頭に置いて創られたとしか考えられない、と説く。
     ロスがあげる項目は強い核力、弱い核力、重力、電磁力それぞれの常数、重力常数に対する電磁力常数の比、陽子に対する電子の質量比、宇宙の膨張速度、光速……など100項目を超えている。しかも、それらすべての数値がほんのわずかでも上下にずれていれば、地球も人類も存在しえなかったという物理的事実を指摘するのだ。

     ちなみに、ファイン・チューニングされたこれらの項目が偶然に揃う確率は10の1230乗分の1という、数学的にほとんどありえない数値になる。

    生命誕生のためにデザインされた地球

     天文学・宇宙生物学者のギエルモ・ゴンザレスと哲学者のジェイ・リチャーズは、銀河系内の太陽系の位置もまた知的生命体を生みだすために計算(デザイン)されて決められた、と唱える。

     彼らによると、銀河系内における“生命適合ゾーン”は非常に狭い。にもかかわらず、生命体にとって危険な放射線や彗星の衝突の脅威が最小限で、なおかつ大きな岩石惑星を形成するのに必須の重元素の利用が可能なゾーンに太陽系が位置しているのは偶然ではない、というのだ。

     太陽系における地球の位置や地球環境にも、インテリジェント・デザイナーの意志が働いている、と彼らは主張する。

     地球は他の太陽系の惑星と異なり、適度な温度と液体の水を表面に持つことが可能な、狭小な“環恒星生命適合ゾーン”に位置している。むろん、宇宙空間にも水の分子は散在しているが、液体の状態で水が存在する惑星は地球だけだ。水が液体として存在できるのはセ氏0度の氷点からセ氏100度の沸点までの100度の温度差のなかだけである。

    太陽系において「生命適合ゾーン」に位置するのは地球だけだ(図=天文学辞典(日本天文学学会))。
    地球に生命をもたらした水。それが液体として存在できる温度の条件は、非常に限られている(写真=Marilena Signorini/Fotolia)。

     宇宙空間における温度差は、絶対零度から超高温まで2000万度もある。そのなかで、わずか100度という温度差は奇跡といっていい。なぜ、地球だけが、水が存在できるほどのゆるやかな温度差になっているのか。

     大気の存在も偶然とは考えにくい。大気は窒素78パーセント、酸素21パーセントで、残りの1パーセント中にアルゴン、二酸化炭素、一酸化炭素、ネオン、ヘリウム、メタンなどを含むが、窒素と酸素の構成比がじつに絶妙なのだ。かりに、酸素が3パーセント多かったら地上にあるものすべてが炎上し、地球は火焔に包まれる。窒素が3パーセント少なかったら大地は凍てつき、地球は氷に覆われてしまう。
     また大気に含まれる酸素によって、地球上の生命体の多くは生命を維持している。さらに大気は地球の温度を一定に保ち、上層に形成されるオゾン層は、有害な紫外線などからわれわれを守っている。

     地球磁場も無視できない。強力な磁場に防御されているおかげで、恐るべき太陽風や宇宙線の直撃から逃れられているのであり、磁場によるバリア・システムがなければ、地球上のほとんどの生物は生命維持不能に陥るのだ。

    地球を覆う強大な磁場により、生命は有害な太陽風や宇宙線の直撃から守られている(図=NASA/CXC/M.Weiss)。

     地球の衛星である月にも注目したい。月の直径は約3500キロで、地球の直径の約4分の1。惑星に対してこれほど巨大な衛星は、太陽系には存在しない。異常といっていい大きさであり、地球に及ぼす影響も大きい。

    夜空を見上げれば、そこに当たり前のようにある月もまた、精妙な計算によって地球のそばに「置かれた」としか思えない存在なのだ。
    太陽系の各惑星と衛星のサイズ比率。わかりやすくするために惑星の大きさを揃えてみると、地球に対し、月がいかに巨大かがわかる。

     その最たるものは、地軸の傾きの安定にある。月の巨大な重力があるからこそ、地球の地軸の傾きはおよそ3度以内に収まっているのである。

     もし月が太陽系の他の惑星の衛星と同様のサイズ比率だったならば、地軸の変動幅は30度以上にもなり、地球環境は激変して灼熱の季節と極寒の季節が交互に訪れるので、生命の維持・繁栄は困難になる。

     月の巨大な引力がもたらす潮汐作用も見逃せない。潮汐作用のおかげで、水圏と陸圏の間に磯や干潟が生じ、豊かな生態系が誕生した。そしてこの生態系を舞台にして、海中に棲む生命体の一部はやがて陸地へ進出していくことになるのである。

    月の引力により、地球で潮汐摩擦が起こる仕組み。月に引っ張られるようにして、表面の海水が動いていく。これによって、海岸は生命の宝庫となったのだ。
    母なる星、地球。ここにわれわれ人類をはじめ、生命が誕生したことを単なる偶然と片づけるのは、数学的に見ても大いに無理があるという(写真=NASA/GSFC)。

    宇宙をデザインした「大いなる者」とは?

     銀河系における太陽系の位置と太陽系における地球の位置。水、大気、月の存在。それらを検証してくると、地球は選ばれた特別な惑星であると見なさざるをえまい。地球は、いわば特権的惑星なのだ。

    銀河系における太陽系の位置。中央でもなく、また極端な周辺でもなく、微妙な位置にあることがわかる。実は生命が存在できるゾーンは、このわずかな範囲だけだったのだ(写真=NAOJ)。
    太陽と8つの惑星からなる太陽系。広大な宇宙では非常に小さなこの環境において、生命は偶然誕生したと考えられてきた。しかし、それは知性ある何者かの意図でデザイン(設計)されたというのだ(図=NASA/JPL)。

     地球上のさまざまな事象は一見偶然を装ってはいるものの、生命のためにきわめて絶妙にファイン・チューニングされている。宇宙は、ビッグバン時から人類を中心とした生命的調和を目ざして働いてきたのである。

     では、宇宙の生命を意図的にデザインしたのはいったい何者なのか。インテリジェンスの正体は?

     わからない。不明だ。
     ID理論を支持する科学者や哲学者たちも答えを用意できないでいる。ちなみに、筑波大学名誉教授で遺伝子工学の世界的権威として知られる村上和男は「サムシング・グレート」と呼んでいる。

     サムシング・グレートは神なのか、神の化身なのか、それとも万物の創造主なのか。謎ではあるが、おそらくは人智を遙かに凌駕する超越的存在なのであろう。

     近年、白熱化するID理論をめぐる論争は、ときに科学の範疇(はんちゅう)を超え、宗教の領域に接近しようとすることがある。しかしID理論は宗教に基づくものではない。生命の起源に関する証拠に基づく科学理論であり、唯物論的な進化論に挑戦する新理論なのである。

    一見、無秩序にも思える広大無辺の宇宙のすべてが、生命を誕生させるために意図的にデザインされたものならば、それを行った「サムシング・グレート」とは、はたしてどんな存在なのだろうか――(写真=Zhanna Ocheret/Fotolia)。

    ●参考資料=「科学が発見した〝神〟サムシング・グレートの謎」(中野雄司/「ムー」316号所収)、「インテリジェント・デザインとは何か!?」(宇佐和通/「ムー」342号所収)ほか

    (月刊ムー2012年2月号初出)

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