AIの次に「脳を直接支配される」未来が迫る! 脳チップ研究の最前線と先行する中国の脅威

文=久野友萬

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    AIの普及が人間をバカにしている!? それも大いに問題だが、しかし時代はその次――人間の脳を直接操作する未来を見据えている!

    AIによる就職氷河期の深刻化

     AIの導入でホワイトカラーの人口は大幅に減ると言われている。すでにアメリカでは、IT企業が卒採用を大幅に絞り始めた。新入社員が担うような簡単なコーディングやデータ入力が、AIに取って代わられているからだ。

     アメリカの就職あっせん企業のレポートによると、2024年度の大手テック企業の新卒採用数は前年比25%も減少したそうだ。今後5年で新卒レベルの仕事は半分以上がAIに奪われるという予想もある。まさにAIによる就職氷河期の到来だ。

     それも時代の流れで、手仕事の職人や工業労働者がオートメーション化で職を失うことと同じだろうという楽観論もある。AIは労働者の優秀な部下となり、そこから新たな仕事も生まれるという考えだ。しかし、水面下ではもっと深刻な事態が進んでいる。

     AI導入は新人の仕事を奪うだけではなく、なんと人間をバカにするというのだ。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

    AI導入で低下する脳力

     米カリフォルニア大学のグロリア・マーク教授はスマホやパソコン、ゲームなどの電子デバイスが注意持続時間にどう影響するのかを20年にわたり調べてきた。2003年には、人間の注意持続時間が約2分半にすぎないことを発見したが、厳密に測るとそういうものらしい。

     ところが同じ測定を2012年に行ったところ、なんと注意持続時間は約75秒に短くなっており、さらに2014年から2020年の調査では平均47秒まで短縮されていたそうだ。

     電子デバイスによって注意力散漫な状態に陥る――この状態を問題視する専門家や教育関係者は多い。昨年末にはオーストラリアで、今年6月には英国で、16歳未満のSNS利用が禁止されたが、このことも理由のひとつだろう。

     そして、AIである。マーク教授はAIの利用が脳の処理を劣化させ、認知能力を低下させると警告している。AIにレポートを書かせる時、人間はなにも考えない。情報を集めて分析し、相手に伝わるように編集する、つまり考えることをAIに代行させている。その結果、歩かないと足の筋肉が衰えるように脳も衰えてしまうのだ。

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     電子デバイスを使うことは、認知能力をサボらせることになる。これからはデジタルネイティブの次の世代、生まれた時からAIのある世代が育っていく。脳の劣化の問題は、想像以上に深刻かもしれない。

    世界初の商用脳チップは中華ブランド

     しかし、「脳が衰えるからスマホを使わない」というのは、もはや「足腰が弱るから自動車に乗らない」ことと同じくらい難しい。やがてAIはシンギュラリティ(人間の能力を超える瞬間)を迎える。AIによってバカになった人類と、人類を超える能力を持つAIの世界が着々と近づいているわけだ。

     AIを使ってバカになるなら、脳をパワーアップすればいいじゃない? 起業家イーロン・マスクは、そんな理屈で脳チップの開発を進めている。脳をWiFiをつなぎ、クラウド上のデータベースや高速演算子に脳波で直接アクセスできるようにすれば、シンギュラリティを迎えても人類はAIに負けない! 脳サイボーグで乗り切ろう、というトランスヒューマンの考え方である。そして立ち位置こそ違うが、同じことを国主導で推し進めているのが中国だ。

     実は中国には制空権ならぬ“制脳権”という考え方があり、中国人民解放軍は自国や他国の世論を誘導したり分断を促すためのサイバー戦を戦略的に行ってきた。2026年1月から自民党に対するネガティブな投稿を行った3000以上ものSNSアカウントが中国によって作られたという報告もある。これはプロパガンダとして昔からあった手法をネット上で展開しているにすぎないのだが、それらの行為の根拠となっているのが制脳権の考え方なのだ。

     そして、制脳権の次の段階こそが、脳そのものにアクセスすることだ。もはやメディアを通じて洗脳するような時間も手間もかかることは止めて、脳を直接操作しようというのだ。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     そんなことは、本当にできるのか? イーロン・マスクの脳チップは直接脳にチップを埋め込む一方、中国のニューラクル・テクノロジー社が開発した脳チップは脳そのものではなく、硬膜(脳を覆う膜)の上に設置するため患者の負担が少ない。すでに中国政府が販売許可を出したことで、世界初の商用脳チップは中国製品ということになった。

     首から下が麻痺した患者に同社のチップを埋め込み、脳波をコントロールするリハビリ機器を使ったところ、なんと1年で名前が書けるまでに回復したという。

     しかし、前述の通り中国が脳チップを研究しているのは、医療のためでもAIのためでもない。他国と戦うための道具として、脳のコントロールを考えている。寝ない兵士や認識能力が異常に高い兵士を作ったり、今は硬膜上につけるチップを次は頭蓋骨上に、いずれは無線で脳にアクセスして人間をコントロールする技術を開発しようと考えているのだ。

      ロシアのウクライナ侵略で「極超音速ミサイル」だ「ドローン」だと言っている間に、時代はさらにその先の戦場、脳を見据えている。AIでバカになったりAIに征服される世界も怖いが、人間を機械のように操ることを真剣に考えている国が隣にあるというのもなかなかのホラーである。

    久野友萬(ひさのゆーまん)

    サイエンスライター。1966年生まれ。富山大学理学部卒。企業取材からコラム、科学解説まで、科学をテーマに幅広く扱う。

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