人類は太陽からエネルギーを直接“食べる“存在になる!? 無機物を食料に変える最先端の合成生物学

文=仲田しんじ

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    地表に燦々と降り注ぐ太陽光エネルギーの究極の有効活用とは――。それは太陽光を“食べる”ことにあるという。

    “人工食品革命”が進行中

     生きていくためには食べていかなければならないが、食べることは命を奪うことだ。われわれは「従属栄養生物」であり、ほかの生物を食べることで身体を動かすエネルギー源としている。

     一方、ほとんどの植物や藻類は「独立栄養生物」である。彼らは光合成によって太陽光、水、そして空気中から取り込んだ炭素をエネルギーに変え、命を奪うことなく自らを繁殖させる。競争によってほかの生命を死滅させることはあっても、食べるために命を奪う必要はない。

     食物連鎖を突き詰めて考えると、人間のエネルギーの源はすべて光合成の産物ということになる。ならば、太陽光エネルギーを直接活用することができれば、命を奪うことなく自分の生命を維持できるのではないか――!? そのアイデアはもはや空想ではなくなっている。世界中の多くの学者や企業が、太陽から得られるエネルギーを利用して、空気、水、そのほかの無機物を食料に変えることを目指しているのだ。

     米スタートアップ企業「Savor」は、乳牛を使わずに空気中の二酸化炭素や水から成分を合成して「バター」を製造する技術を開発した。フィンランドのスタートアップ企業「ソーラー・フーズ」は、空気中の二酸化炭素と電気を使って食用タンパク質を生産する革新的な技術を開発している。

     さらに現在、従来の「育てる農業」から「作る農業」への転換を目指す次世代テクノロジーとして、合成生物学を用いた食料生産が注目を集めている。細胞や微生物を人工的に設計・改変し、有用な物質やタンパク質を効率的に生成することで、環境負荷の低減や食料危機への対応が期待されているのだ。

    ※画像はYouTubeチャンネル「Solar Foods」より

     こうした取り組みは、農場で飼育される動物を微生物へと置き換えることで、食料の生産プロセスを根本的に簡素化する。独立栄養生物を模倣することで、人類文明が抱える最も根源的かつ永遠の課題、すなわち利用可能なエネルギーを最大限利用し、外部の搾取を最小限に留めるという目標に正面から挑んでいるのだ。

     合成生物学における最初の画期的な進歩は1828年に訪れた。ドイツの化学者、フリードリヒ・ヴェーラー(1800~1882)が、それまで生物によってのみ生成されると考えられていた尿素を、非生物材料を用いて合成したのである。

     ヴェーラーに倣い、著名な化学者マルセラン・ベルテロ(1827~1907)は無機物から多くの有機化合物を合成した。化学的な意味ではすべての食品は有機物であるため、非生物から食品を作れるという考えは、当時から非常に魅力的なものであった。ベルテロは1894年のインタビューで「未来の美食家は人工肉や人工野菜を食べるだろう」と予見し、トウモロコシ畑や農場は地球上から消え去り、この“人工食品革命”を阻止できるものは何もないと断言した。

    人類は独立栄養生物になれるのか

     一方で1850年代以降、熱力学は成熟し、エネルギー保存の法則とエントロピー増大の法則という2つの基本法則を定めることで、地球上のあらゆるエネルギーの源を明らかにした。

     エネルギーは創造も破壊もされず、ただ形を変えるだけであり、これらの変換過程において物事は乱雑、無秩序、複雑な方向へと向かい、自発的に元に戻ることはない――。これらの事実を総合すると、あらゆる営みは枯渇しつつある何らかの資源に依存しているという事実が浮き彫りになった。

     地球表面におけるあらゆる活動の源泉は、ごくわずかな例外を除いて、太陽にあることは自明である。降り注ぐ太陽光は、地球に惜しみなく光を注ぎ込み、気候を左右し、光合成を促進し、生態系を支えている。この太陽光を最大限利用しようとする技術革新の果てに、人類が独立栄養生物として振る舞うという究極のゴールが見えている。

    ※ルートヴィッヒ・ボルツマン 画像は「Wikipedia」より

     1886年、オーストリアの物理学者ルートヴィッヒ・ボルツマン(1844~1906)は、すべての生命を「エントロピーをめぐる闘争」と表現し、それは「熱い太陽から冷たい地球へのエネルギー移行によって利用可能になる」と述べた。1923年になると、少なくない専門家たちが「太陽エネルギーの直接利用」によって地球は「現在よりも何十億も多くの人々が住める場所になる」と表明するようになっていた。

     その2年後、ロシアの地球化学者、ウラジーミル・ヴェルナツキー(1863~1945)はこの考えを明確にした。「Human Autotrophy(人間の独立栄養)」と題されたエッセイの中でヴェルナツキーは、未来を確保するために文明は「独立栄養生物」、つまり「栄養を自分自身だけに依存する」光合成生物のような存在になることを提案したのだ。

     ヴェルナツキーの同胞であり、ロケット技術者でSF作家のコンスタンチン・ツィオルコフスキー(1857~1935)は、この考えをさらに推し進めた。彼は、生命がかつて海から離れたように、地球からも離れ、宇宙の虚空で生きるように進化し、「太陽光」だけを栄養源とする「動物植物」になると推測している。

    ※光合成するウミウシ 画像は「Wikimedia Commons」より

    恒星を丸呑みする“ダイソン球”

     19世紀半ばまでに、合成食品は未来学における定番の食材となっていた。1953年、イギリスのSF作家、アーサー・C・クラーク(1917~2008)は、「未来の地球外居住地ではすべての食品が合成食品であるため、ステーキを求める田舎者はたちまち蔑視されるだろう」と述べている。実際、クラークが“予言”を行った頃には、太陽のエネルギーを利用する新たな方法が発見されていた。

     1950年代初頭に初めて人工的な熱核反応が実現したことで、ゆくゆくは太陽エネルギーを利用して元素から食料を合成できると考える科学者も現れた。1963年、ソ連系アメリカ人の物理学者ジョージ・ガモフ(1904~1968)は、地球の海洋中に存在する重水素を核融合反応の燃料として利用することで生まれるカロリーを算出。なんと、現代の世界人口の年間需要を今後600億年間にわたって満たすことを突き止めた。もし核融合を食料生産に活用できれば、食料危機の心配はほぼ払底されることになる。

     その3年前の1960年、天体物理学者フリーマン・ダイソン(1923~2020)は、より効率的かつ大胆な構想を抱いていた。彼は将来の人類が木星を破壊し、その物質を太陽を取り囲む太陽電池パネル群の建設に利用することで、太陽のエネルギー出力をすべて捕捉できると提唱したのだ。

    ※ダイソン球の想像図 画像は「Wikimedia Commons」より

     ご存じの通り、このアイデアは彼にちなんで「ダイソン球」と呼ばれるようになり、今日の地球外生命体探査にも大きな影響を与えている。すべての活動にはエネルギーが必要であるという熱力学の基本原理に基づき、「ダイソン球」を地球外の知性を探る際のひとつの指標にすることができるのだ。

     ダイソン球は「カルダシェフ・スケール」において恒星の全エネルギーを利用する「タイプII」の文明が建設していると考えられることから、研究者たちはこうした文明を「星食者(Sun-eaters)」、つまり恒星を丸呑みした超先進文明であると定義している。

     はたして今後、われわれは太陽のエネルギーを余すところなく利用する文明を築いていくことになるのか。オカルト界で長らく考察されてきた、太陽の光だけを栄養にして生きる「不食人間」が、実は人類の未来と密接につながったコンセプトであることだけはおわかりいただけるだろう。いずれにしても、まずは低コストの合成食品の開発と、フリーエネルギー社会の実現こそが、究極の未来に向けての一里塚となるはずだ。

    【参考】
    https://bigthinkmedia.substack.com/p/everything-you-eat-is-sunlight-scientists

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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