「天眼」が導く大衆救済は降霊術で始まった! ベトナム「カオダイ教」の世界/新妻東一
フランス占領下で生まれ、社会主義政権下でも活動が認められているベトナムの大衆宗教・カオダイ教。その始まりは降霊術だった。
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100年前のベトナムで、降霊会での霊示から誕生した新宗教カオダイ教。フリーメーソンの強い影響を受けつつも、そこでは土地の文化、伝統宗教が融合した独自の世界観が育まれていた。この記事を三上編集長がMUTubeで解説。
「テクニカラーのような色の竜だの蛇だののいる、〝東洋〟のウォルト・ディズニー的幻想風景」
ベトナム・タイニン省のカオダイ教の大聖堂を、英国スパイ小説作家のグラハム・グリーンは、1950年代のインドシナ戦争を舞台にした小説﹃おとなしいアメリカ人﹄で右のように形容した。
カトリック教会を模したふたつの尖塔の中央には「目」が大きく描かれている。さらに大聖堂の建物の壁には、三角形の中に「目」、その目からは放射状に「後光」らしきものが描かれ、いくつもの目が建物の壁をぐるりと取り囲んでいる。
内部に入ると、いくつもの柱がたち、その柱には角のある龍が取り巻いている。
その最奥には空色に塗られた巨大な球体の「目」が全身白のアオザイをまとった、跪拝する信者たちを見下ろしている。およそ奇怪な光景ではある。
カオダイ教の創始者のひとり、ゴー・ミン・チェウが今から100年以上前に植民地政府の役人として赴任した先のフーコック島に、白昼巨大な天眼が現れ、カオダイを名乗る至高神から啓示を受けた。大聖堂の天眼はそれをあらわしている。
米ドル紙幣にもピラミッドの上に浮遊する目が描かれている。米ドルのデザインに秘密結社フリーメーソンとの関係があるのではないかとかねてから噂されている。天眼、つまりプロビデンスの目はフリーメーソンがそのシンボルとして好んで使用する意匠だからだ。
正面入り口中央には、フランス語と漢字で「Dieuet Humanité, Amour etJustice」「天上天下、博愛公平」との文字を書きつける、3人の人物、ビクトル・ユゴー、孫逸仙(孫文)、グエン・ビン・ヒエムが描かれている。「神と人類、愛と正義」との文字は「自由、平等、友愛」といったフランス革命とフリーメーソンのスローガンを想起させる。
門の対連には、「高上至尊大道和平民主自」「臺前崇拝三期共享自由権」と掲げられ、和平、民主、自由などの文字が目につく。およそフランス啓蒙主義、フリーメーソンの目指すところではないか。
カオダイ教とフリーメーソン。建物にその関係を示す痕跡があるものの、これまではその関係は明らかにされてこなかった。本稿ではその知られざる関係を解き明かしたい。
今からちょうど100年前の1925年サイゴン。現在はホーチミン市の、踊り子のおどるバーが立ち並ぶ歓楽街、ブイビエン通りにほど近い民家で、テーブルティッピングという降霊術が行われようとしていた。タイニン省を同郷とする20代、30 代の若者、それもひとりはフランスのコーチシナ総督府の鉄道局、ふたりは商工局に勤めるベトナム人エリート官僚たちだった。彼らはその後、カオダイ教の幹部となる、ファン・コン・タック、カオ・クイン・クー、カオ・ホアイ・サンの3人だ。
テーブルティッピングという降霊術のことを彼らが知ったのは、当時流行していた神霊学について詳しいフランス人のポール・モネという人物からだった。彼は神霊学に通じていたと同時にフリーメーソンでもあった。
ポール・モネは、1884年、フランス・アンジェに生まれた。植民地歩兵少尉としてハノイに赴任した。1914年に第1次世界大戦がはじまるとフランスに帰国して参戦、戦闘で負傷したことで退役し、戦後はベトナムに渡り、文化活動家として活躍した。
米国YMCA会長、ジョン・モット氏の支援も受けて、1923年「安南( ベトナム) 学生の家(Foyerdes Étudiants Annamites,FEA)をハノイに設立した。彼は、儒教、道教、仏教という東洋の伝統的価値観とキリスト教と西洋の近代的な文化を融合させ、安南人と普遍的な価値観を共有することで、植民地の改革を目指した。
またモネは、フランス語はもちろん、中国語、ベトナム語も流暢に話すことができたという。
彼はConfusius(孔子)という名称のフリーメーソンのロッジに参加した。フリーメーソンの目指すところを儒教・孔子の教えに接合してベトナムの知識人に広めようとしたのだろうか。
当時、フランス植民地であるインドシナの総督、高等弁務官など歴代の植民地政府の権力者の半数以上はフリーメーソンのメンバーであった。フランスには2大ロッジであるフランス・グラントリアン(GODF)とフランス・グランドロッジ(GODF)があるが、それぞれの系列の植民地ロッジが主なものだけでも8つも確認できる。
フランスのフリーメーソンは自分たちがかつて支援したアメリカ独立革命の100周年を記念して「自由の女神」を贈ったが、その16分の1のレプリカを自らの植民地であるインドシナにも贈ったのだ。それは多くのフリーメーソンがインドシナにも存在していたからだ。
植民地インドシナにある多くのロッジはベトナム人の入会を拒んでいたが、ロッジ「孔子」はもっとも早く、被植民地人であるベトナム人の入会を認めていた。メンバーのなかにはベトナム立憲党の創始者や、著名なジャーナリスト、安南の植民地からの独立を過激に主張する人物などの姿もあった。
(文=新妻東一)
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webムー編集部
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