生け贄にされていたかもしれない男の話など/南山宏のちょっと不思議な話

文=南山宏 絵=下谷二助

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    「ムー」誌上で最長の連載「ちょっと不思議な話」をウェブでもご紹介。今回は2026年3月号、第503回目の内容です。

    材木ジャック

     米オレゴン州ポートランドの警察当局は、手ノコ一丁だけで樹木を切り倒して回る無法な材木ジャック犯を懸命に捜索している。
     犯人がジャックして回るのは、とくに人気の高い森林遊歩道周辺の樹木で、犯行はいつも人気のない真夜中に行われるが、犯人が何を目的にこんな無法を働くのか、目撃者もいないし犯行声明もまったく出ないので、当局は手の打ちようがなく苦りきっている。
     すでに700本以上も切り倒され、被害総額は25万ドル(約3900万円)にまで達している。
     現地周辺に急遽設置された監視カメラに、不審な男がひとり映ることは映ったが、現在のところどこのだれなのかは判明していない。
     それに正体不明の材木ジャック犯は、樹木をただ切り倒しただけで、それを森から運びだして持ち去ろうとか売り飛ばそうとかした気配もまったくないため、目的も動機も完全に不明で、関係者は完全にお手上げの状態なのだ。

    異星人襲来?

     オーストラリアはヴィクトリア州ミルデューラで、2022年7月半ば、夕方の曇り空に無気味なピンク色に輝く巨大な円盤物体が出現した時、住民たちはみな、
    「異星人が侵略にきた!」
    「〝この世の終り〟だ!」
     と絶望の淵に叩き込まれた。
     でも、しばらくして判明したのは、〝巨大な円盤物体〟の正体はたまたま近くの医療用大麻の栽培場の開閉屋根が閉め忘れたままにされたため、場内から漏れでた照明光が曇り空に反映してUFOと誤認されたのだった。やれやれ。

    人身御供譚

     ボリビアのエルアルト市で毎年8月5日から始まる〝地母神〟祭の開催初日、地元民のビクトル・ウーゴ・アルバレス氏は、連日の深酒が祟って突然死した。
     だが翌朝、なぜかそこから80キロも離れたアチャカチまで運ばれる途中、彼は奇跡的に息を吹き返して棺の中で目を覚ました。
    「昨夜は前夜祭なんで、みんなで踊りに行った。そのあとはまったく記憶がない。気がつくと自分が棺の中に入れられていた。棺にガラス部分があったので、そこを叩き壊して何とか脱出できたんだ」
     ボリビアの地母神祭は、大地と豊穣の女神パチャママを祝福するお祭りで、祭礼の開催期間中、信者たちは〝スールー〟の名で知られる捧げ物をお供えする。
     祭りの期間中だけはパチャママが口を開けて、そのスールーを食べるのだという。
     供え物は生きた動物なら何でもよく、そのほか山羊の胎児、コカの葉やスイーツなどでもよい。昔は人身御供――人間の生け贄が供えられることさえあったそうだ。
     いや、今でも秘密裡に人間が生きたまま女神パチャママに供えられることがある、という根強い噂さえ密かに囁かれている。
     前出のアルバレス氏も、ひょっとしたらこの人身御供の犠牲者として、生きたまま埋葬されるところだった可能性がありそうだ。
     アルバレス氏当人もこの可能性に気がついて、地元の警察に届け出たが、「お前はまだ酔っぱらってるのか!」とけんもほろろに突き放されてしまい、真相は今もなお、真っ暗な藪の中に置かれたままだ。

    怪音恐怖症

     メキシコはモレロス州ココヨクの住民たちは、得体の知れぬ怪音を毎朝早くから聞かされるようになり、それ以来家々の戸口や外壁に十字架を白ペンキで描いて、魔除け代わりにするようになった。
     怪音の発信源が人間なのか動物なのか、どうしても突き止められなかったので、結局、地元の民間信仰に登場する〝ナグアル〟のせいだということになった。
     ナグアルとは、いつでもどこでも自在に動物の姿に変身できる恐ろしい妖術使いのことだ。
     ココヨクの住民を代表して、ルイス・サルガードは説明する。
    「最初はひと握りの住民だけだった……だが、日が経つにつれて、怪音を聞いたと主張する住民がどんどん増えてきた!」
     彼らはこの超自然的怪異をなんとか回避しなければと結論して、自分たちの家々の要所々々に、魔除けの記しとして、十字架を白ペンキで描いたのだ。
     当初、白十字架が描かれたのは怪音が聞かれた場所にいちばん近いブエノスアイレス通り付近だけだったが、日が経つにつれて白十字架はほかの場所にも拡散し、住民たちはみな、夜も10時を過ぎると、ナグアルを怖れて家の中に閉じこもるようになった。
     その後、この怪音恐怖症は、同じメキシコのソレダードデドブラド市など、ほかの都市にも飛び火して、住民を怖がらせている。

    パンダ犬

     中国江蘇省泰州市にある泰州動物園では、2024年の春、チャウチャウ犬2匹を白黒2色のペンキで一見パンダ風に塗り替えて、〝パンダ犬〟として客集めを図ったため、内外の識者はもちろん同園を訪れた一般観客たちからもヒンシュクを買っている。
    「パンダではなく、パンダ犬とはっきり断って売り出しているのだから、いいではないか」
     というのが動物園側のいい分だが、はてさていかにもこの国らしいといえば、この国らしい?

    逃亡失敗

     英国デボン州内で、ヘリコプターを使って脱走逃亡犯を追っていた警察は、相手が逃げる途中でついうっかり、決定的なミスを犯したのを見逃さなかった。
     逃亡犯の男は、親牛や子牛がたむろして牧草を食んでいる野原を突っ切って近道しようとしたのだが、食事を邪魔された牛たちが一斉に怒りだし、男を取り囲むと牧場の柵囲いまで追い詰めた。
     そこへすかさず警察の地上班の車両が追いついて、牧場のゲート付近でめでたく逃亡犯の再逮捕に成功したのだ。
     2023年12月8日付「デイリースター」紙によれば、警察のスポークスパーソンは、報道記者団にこう説明したそうだ。
    「リスクの高い追跡劇でしたが、幸い牛たちがモー烈に怒って、容疑者を警察当局の手の中に追い込んでくれました!」

    南山宏

    作家、翻訳家。怪奇現象研究家。「ムー」にて連載「ちょっと不思議な話」「南山宏の綺想科学論」を連載。

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