「怪々YOKAI祭」が新たな妖怪の住処となる! 怪異への畏怖を絶やさないための伝統催事を目指すプロデューサーにインタビュー

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    京都・東映太秦映画村で開催中の「怪々YOKAI祭2025」イベント現場で怪奇現象が発生していた。場所の記憶や人の思いを形にする妖怪たちが集う場所を作ったプロデュース陣に、妖怪を集める活動について聞いた。

    開催初日前夜に怪奇現象が発生

     京都・東映太秦映画村(以下、映画村)で開催中の「怪々YOKAI祭2025」。時代劇のロケ地として知られる映画村に妖怪たちが現れ、昼夜の百鬼夜行やアート展示、ワークショップなど、子どもから大人まで楽しめる催しが連日行われている。

     本イベントを指揮するのは、総合プロデューサーの河野隼也氏。妖怪造形家・妖怪文化研究家である彼は、「怪々YOKAI祭2025」でどのような世界を創り出しているのか。開催の背景をはじめ、河野氏が描く妖怪の世界観とその想いについて、株式会社東映京都スタジオの企画制作部 課長代理である洲崎哲嘉氏も交えながらお話を伺った。

    河野隼也(こうの しゅんや)*右から2番目
    1982年生まれ。京都府出身。妖怪造形家・妖怪文化研究家。「妖怪藝術団体百妖箱」代表。幼少期より妖怪に惹かれ、大学では「妖怪×観光」をテーマに研究を行う。これまでに「一条百鬼夜行」「嵐電妖怪電車」「伏見妖怪酒祭」「三井寺妖怪ナイト」など、妖怪にまつわる商店街や地域イベントをプロデュース。また、妖怪に関連する書籍やアート作品も手掛けるなど、幅広い分野で活躍中。

    ――妖怪たちが集う「怪々YOKAI祭2025」ですが、歴史ある映画村が舞台ということで、“何か”が起こりそうな気配を感じます。開催期間中に“ムー的な出来事”はありましたか?

    河野隼也(以下、河野) じつ僕たちが今いるこの場所、「出る」というウワサがあるんですよ。

    ――え、ここですか!?

    河野 ここは普段ヒーローショーを行っている施設で、僕たちも百鬼夜行のリハーサル等で使用しているんですが、東映のスタッフさんから「あの世の者が、壁に向かってじっと立っている」と聞きました。
    それで、開催初日前夜の練習終わりに、百鬼夜行のメンバーと舞台袖を通りながら「ここ、出るらしいですよ。怖いですね」なんて話していたんです。みんなを出口まで送って、僕だけ舞台に戻ったとき、ポケットの中に何か違和感があって……。見てみると、持ち歩いている鍵に付けていたプラスチックのキーホルダーたちが、全部バキバキに割れていました。もしかしたら、その者が「お前、私のことをウワサしたな?」と伝えてきたのかもしれません。

    ――めちゃくちゃ怖いじゃないですか!

    河野 他にも映画村内で聞いた話だと……。新人の警備員さんが、初めて夜の見回りを任されたとき、先輩からいろいろとレクチャーを受けていたそうです。たとえば、ロケ中は邪魔にならないようにとか、落とし物を拾ったら指定の場所に届けてとか。そして、先輩が最後にこう言ったらしいんです。「あそこ、ときどき誰かがうずくまっているけど、気にせんでええ」って。その話を聞いてから、「怪々YOKAI祭」の後片づけで夜中にその場所の近くを通るときは、少しゾクッとしちゃいます。

    ――洲崎さんはいかがですか?

    洲崎哲嘉(以下、洲崎) 警備員さんの話は初めて聞きました(笑)。僕は“見える”タイプではありませんが、ときどき何かを感じることはあります。河野さんの話を聞いていると、映画村は「見えないもの」を感じさせる場所なのかもしれません。それこそ、映画村の隣にある撮影所は、夢を追いかけた多くの人たちの想いが込められた場所です。その想いが形を変えて、妖怪や霊的な存在として現れても不思議ではありませんね。

    開催初日前日の通しリハーサルにて。この場所でインタビューを行ったわけだが……!?

    現代社会で居場所を失った妖怪たちが映画村へお引越し

    ――今年の「怪々YOKAI祭2025」では、「現代社会で居場所を失った妖怪たちが映画村に“引っ越してくる”」という物語が設定されています。洲崎さんのお話にあったように、まさに「見えないモノ」が引き寄せられたような展開ですね。2024年の開催では物語はなかったそうですが、今回はなぜこのようなストーリーにされたのでしょうか?

    河野 昨年はストーリーを考える余裕がありませんでしたが、今年も開催期間が2ヵ月半あるので、「物語があったほうがお客さんの没入度も高まるし、テーマパーク感が増すかな」と思いました。妖怪たちがただ練り歩くよりも、百鬼夜行に特別な意味を感じてもらえるかなって。それと、百鬼夜行は“災い”として語られることが多いので、「みんなで盛り上がろうぜ!」というお祭りの意味も込めたかったんです。

    ――突然映画村に現れたのではなく、「引越ししてきた」というのが現代的で面白いですね。

    河野 自然が少なく夜も明るい現代で、妖怪が居場所を失いつつあることは、さまざまな作品で言及されています。そこを、「住処を失くした妖怪たちが『ここなら昔と同じだぞ!』と勘違いして住みつく」という設定にすると面白いかなと思いました。彼らは映画村がテーマパークだと知らずに、かつての日本だと感じているんですよ。

    洲崎 今回のストーリーを拝見したとき、「より背骨の通った豊かなイベントになるな」と興奮を覚えました。ただのエンタメではなく、社会的なメッセージやアイロニーも込められている。大人が鑑賞しても、考えるきっかけや共感を得られるはずです。見応えがあって心に残るようなイベントになると確信しました。

    ――そもそも、なぜ昨年から映画村で「怪々YOKAI祭」を開催することになったのでしょうか。

    河野 映画村さんから「ハロウィンの時期にお化けイベントをやりたい」とご相談をいただいたのが始まりです。僕は地元が京都なので、映画村には子供の頃から来ていて、愛着や思い出があるんですよ。時代劇も好きなので、「映画村で妖怪イベントをやれるなら、面白いことになるな」と思ってお引き受けしました。当初は「ハロウィン期間に一度だけ妖怪行列をするのかな」と考えていたので、こんなに長期間いろんなことをやるとは想像もしていませんでした。

    洲崎 映画村ではこれまで、人気アニメなどとのコラボイベントを数多く開催してきました。そうした取り組みを重ねるうちに、「もっとオリジナル性の高い、メイド・イン・ジャパン、そしてメイド・イン・京都といえるイベントを作れないか」と考えるようになったんです。そこで思い浮かんだのが、以前からご活躍を耳にしていた河野さんでした。妖怪なら京都という土地に合いますし、独自の「和風ハロウィン」を生み出せると思い、ぜひご一緒にとお声がけしました。

    絵巻の日本画を立体化する! 妖怪造形の世界

    ――百鬼夜行そのものが京都で生まれた伝承なので、まさにぴったりですよね。妖怪たちを間近で見ると、造形がとてもリアルで生々しく、おどろおどろしさがあります。彼らは河野さんが代表を務める「妖怪藝術団体百妖箱」のメンバーだと伺っていますが、造形面ではどんな部分にこだわっていますか?

    河野 妖怪たちは基本的にすべて僕が作っています。被って歩けるくらい軽く、破損してもすぐに修理ができるよう、紙粘土と半紙を使った張り子で作っているんですよ。「日本画で描かれている妖怪を、忠実に立体化していく」ことを目標に制作しています。

    ――日本画で描かれている妖怪には、どんな特徴があるのでしょうか。

    河野 古い日本画では、異形の者を表現するときに独特の筆遣いをしているんです。線を過剰に重ねたり、現実には存在しないような顔のシワが描かれていたり。「この姿のまま実在したら、どうなるんだろう」と想像しながら作っていくのが楽しいですね。仕上げの絵付けでは、あえて古ぼけて見えるような加工をしています。「昔からこの姿で伝わってきたんだ」とお客さんに感じてもらえると嬉しいです。

    ――絵姿がなく、文章でしか残っていない妖怪はどうしているんですか?

    河野 文章からイメージを膨らませて、日本画のテイストに寄せて制作しています。たとえば、「茄子婆」は絵姿が一切残っておらず、文章でしか伝承が残っていません。彼女は茄子色の顔をした老婆で、「比叡山七不思議」のひとつに数えられている存在です。見た目は不気味ですが、比叡山に危機が迫ると人々に知らせてくれるといわれています。

    茄子婆。河野隼也氏のXより。https://x.com/kouno0521/status/1974742191965958583

    ――今回の百鬼夜行にもいる妖怪ですね。

    河野 最近では茄子婆の知名度も上がり、さまざまな方がイラスト付きで紹介したりしています。これまで造形化されてこなかった妖怪が注目され、新たな形ができていくのを見るのは新鮮だし、一妖怪ファンとして嬉しいです。

    ――今回の百鬼夜行には、茄子婆以外の京都由来の妖怪も登場するのでしょうか。

    河野 京都生まれの妖怪だと、「酒呑童子」がいます。大江山(京都府福知山市)に棲むと伝えられる鬼の王で、妖怪の中でもとくに有名な存在です。今回は、福知山市から依頼を受けて制作した“オフィシャルの酒呑童子”を、そのまま映画村に登場させました。他にも、京都由来ではありませんが、「震々(ぶるぶる)」や「しゅのぼん」など、5体ほど新しく制作しています。開催期間が長いので、少しずつ作って随時投入していけたらと考えています。

    見えない世界への畏怖を具体化する

    ――「怪々YOKAI祭」は“新しい伝統を作る試み”ともいえるものだと思いますが、歴史ある妖怪文化を再構築するうえで、意識されていることは何でしょうか。

    河野 妖怪が現実に登場するという現象は、「なまはげ」や「あまめはぎ」といった来訪神に近いと思っています。なまはげなどの来訪神は、やっている側も見ている側も楽しんでいるからこそ、土着の信仰を超えて文化として続いている。妖怪はこれまで、本やアニメでしか見られなかった存在です。それを現実の世界にぽんっと出現させて、百鬼夜行を再現することで、身近に“いる”のだと感じてもらいたい。そして、百鬼夜行に参加する側も楽しんでもらえるようなシステムを作り、10年20年と続けていければ、文化や伝統になっていくはず。そういった意味で、「怪々YOKAI祭」は新しい文化を作ることにつながるのかもしれません。

    ――お客さんにとってどんな体験になってほしいですか?

    河野 いろんな方が遊びに来てくださっていますが、とくにお子さんにとって「家族の楽しい思い出」になってほしいです。僕は幼い頃、『電撃戦隊チェンジマン』が大好きで、映画村にショーを見に来たことがありました。でも、ショーに登場した青い戦闘員があまりにも怖くて、「帰るー!」と泣き叫んでしまったんです(笑)。多分、それが“恐怖”の原体験だったのかな。だから今の子どもたちにも、僕が感じたような怖さを味わってもらいつつ、大人になっても覚えている思い出として楽しんでほしい。絶妙な怖さと、どこかかわいらしさのある妖怪たちがたくさんいるので、家族で「怖かったけど楽しかったね!」と笑い合いながら、思い出をたくさん持って帰ってもらいたいです。

    洲崎 妖怪には、いとおしさや可愛らしさと同時に、“怖さ”もありますよね。今の時代は夜も明るく、昔のように“暗闇の中にある何か”に畏れを抱くことが少なくなっています。でも、人は誰しも心の奥に小さな闇や恐怖を持っていると思うんです。だからこそ、「怪々YOKAI祭」を通して、怖さや不思議さを楽しみつつ、自然や“見えない世界”など、「自分の力では解決が及ばないものに畏れを感じる心」を思い出してもらえたら嬉しいです。

    河野隼也氏が2歳の時に映画村で撮った写真。河野隼也氏のXより。https://x.com/kouno0521/status/1961703400816742456
    同じ場所で撮影したものがこちら。場所、記憶、本人が時を超えてまじりあう。河野隼也氏のXより。https://x.com/kouno0521/status/1961703400816742456

     取材の終盤、誰も触れていなかった洲崎さんのスマホが突然、「現在地を特定できません」と喋り出した。それも、何度も。我々3人の間に、短い沈黙が流れる。……もしかすると、私たちのすぐそばに“彼ら”がいて、彷徨っていたのかもしれない。

    「怪々YOKAI祭2025」
    開催期間:2025年9月13日(土)~11月30日(日)
    営業時間:平日9:00~17:00、10月/11月土日祝9:00~19:00、10/25(土),26(日)9:00~21:00、11/8(土),9(日)9:00~17:00、11/15(土)9:00~20:00
    会場:東映太秦映画村
    所在地:〒616-8586 京都市右京区太秦東蜂岡町10
    特設サイト:https://www.toei-eigamura.com/yokai/
    妖怪藝術団体 百妖箱 公式ホームページ:http://www.kyotohyakki.com/

    河野氏公式X(旧Twitter):https://x.com/kouno0521

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