「山姥」から「走る老婆」へーー高速化する都市伝説ばばあの進化/朝里樹・都市伝説タイムトリップ
都市伝説には元ネタがあった。今回は、飛んだり跳ねたり、アスリートなみの身体能力をもつ老婆たちの登場だ。
記事を読む
人気アニメ「ダンダダン」には数多くの妖怪、宇宙人、UMAが登場する。それらのほとんどには源流となる都市伝説が存在のはご存じだろうか──!
「ダンダダン」は霊能力を持った女子高生・綾瀬桃(モモ)と、オカルトマニアの同級生・高倉健(オカルン)が怪奇現象に見舞われながらも、そこで対峙する不可思議な存在と戦いを繰り広げるオカルティックバトル漫画だ。
作品中に登場する怪奇な存在として、ターボババアやセルポ星人、フラッドウッズモンスターにアクロバティックさらさら、ネッシーに邪視、サンジェルマン伯爵と、ムー読者ならおなじみの面々が続々登場してくる。
2023年11月に始まったテレビアニメは、迫力ある戦闘シーンを見事に描き切った美麗な作画が好評を博す。そして2025年7月からは第2期が放送され、そこでは新たな怪奇現象が2人を襲っていく。
そこで本シリーズでは、そんな「ダンダダン」に登場する怪奇な存在たちにスポットをあて、それらの源流ともいえる都市伝説と併せて掘り下げていく。
宇宙人の存在は信じるが幽霊・妖怪の類は否定する、主人公のオカルンがモモとの口論の末にお互いのおススメスポットを探索してその真偽を確かめるために訪れたのが正能(しょうのう)市の廃トンネル。
暗闇の中を進むと、懐中電灯の灯りに突如照らされる一人の老婆。その正体は「時速100kmで追いかけてきて、追い付かれると呪われる」という、この地に巣食う妖怪ターバババアだった。
もともと相手の身体を乗っ取るほどの強靭な呪力を持つが、更に廃トンネルの中に蠢く地縛霊たちと合体することで危険な存在となっている。
口調は全体的に荒く乱暴的で「クソだらあ」「年上に対するリスペクトが無え」「誰に向かってフカしてんだコラァ」など、相手を挑発しつつ喋るのが特徴的。さらに自分の優位性を疑わず、絶対的な自信を持っている様にも伺える。
序盤は地元の大妖怪としてオカルンとモモの前に立ちはだかるが、その戦いの中で力を失い最後は招き猫に憑依した。以降はモモの家に居候しつつ、渋々だが協力していくようになる。
ターボババア、その源流となるのは都市伝説の「100キロババア」だろう。そのビジュアルイメージは多数存在するが、AIで生成を試みたところこのあたりが標準的な姿といえるようだ。
「夜中に高速で走り回る老女」という都市伝説は全国各地に存在し、場所によって「100キロババア」「ターボお婆ちゃん」「ジェットババア」など様々な呼び方がある。
1990年代に登場した近代妖怪で、いずれも高速道路やトンネルを時速100km~140kmほどで爆走し「追いつかれたら死ぬ」「出会ったら事故る」など、ドライバーにとって不吉の象徴とされた。
バックミラーを見ると凄まじい形相で追いかけてくる着物姿の老婆が映し出され、あまりの恐怖にアクセルを踏み込むもあっさりと車を追い抜いていくという。その後、ドライバーが呆気に取られていると事故にあったり、車道から外に飛び出しているといった悲惨な結果を招く。
「100キロババア」は北海道の摩周湖や支笏湖の近辺に現れると言われていて、逃げ切れば何事もないが追いつかれると大事故に見舞われるという。
また「ターボお婆ちゃん」は兵庫県にある六甲山に出現する妖怪で、やはり高速移動しながら標的を抜くと呪いが発動する。さらに福岡県では手足を激しく動かしながら四つん這いで迫りくる「着物の老人」という妖怪の姿が目撃されている。
他にも山形県では時速80kmで走る「快速バーチャン」、宮崎県の海岸線沿いに出没する「三輪車のお婆さん」、大阪府難波に出現する「ひじ掛けババア」、愛知県で出会うと呪い殺される「ぴょんぴょんババア」など類似点の多い妖怪は多数存在するが、そのどれもが共通しているのは「老人」であるということだ。
幽霊や物の怪の類が語られるときによく聞くのは「髪の長い若い女性」というパターンだが、こうして老人がモチーフとなりかつ全国に流布されるほどに広まっているのは珍しいケースだ。人生経験豊富で天寿を全うしたはずの老人が、未だこの世に未練があり妖怪となって現れるという残酷さを含み、かつその華奢な身体からは想像もつかないなダイナミックな動きで高速移動するというギャップが強烈なインパクトを与える。
これら高速で移動する老婆の姿は、はるか昔から伝承されてきた。山に住み着き、そこを訪れた人間を追いかけて襲い掛かるという「山姥」である。「三枚のお札」という昔話では、山に栗拾いに出かけた寺の小僧が山姥と遭遇し、しつこい追跡をかわしつつ命からがら逃げのびるという話だ。
他にも山姥が登場する昔話は数多く存在する。そしてそのどれもが、走って逃げる人間を後ろから追いかけてくるというもの。当時は走る人間に追いつく程度なので山姥のスピードもそれほど速くはなかったのかもしれない。が、現代になって車やバイクが登場し人の移動速度が上がってきた結果、山姥も進化をよぎなくされ、ターボババアと変化していったのかもしれない。
一度聞いたら忘れられない都市伝説だからこそ、ダンダダンでも栄えある登場妖怪の第一号に選ばれたのかもしれない。
webムー編集部
関連記事
「山姥」から「走る老婆」へーー高速化する都市伝説ばばあの進化/朝里樹・都市伝説タイムトリップ
都市伝説には元ネタがあった。今回は、飛んだり跳ねたり、アスリートなみの身体能力をもつ老婆たちの登場だ。
記事を読む
怪異は4時44分に現れる! 四時ババアと四次元ババアは4階に出る?/学校の怪談
放課後の静まり返った校舎、薄暗い廊下、そしてだれもいないはずのトイレで子供たちの間にひっそりと語り継がれる恐怖の物語をご存じだろうか。 学校のどこかに潜んでいるかもしれない、7つの物語にぜひ耳を傾けて
記事を読む
上半身だけの怪異「テケテケ」はどこで生まれたのか?/学校の怪談
放課後の静まり返った校舎、薄暗い廊下、そしてだれもいないはずのトイレで子供たちの間にひっそりと語り継がれる恐怖の物語をご存じだろうか。 学校のどこかに潜んでいるかもしれない、7つの物語にぜひ耳を傾けて
記事を読む
荒ぶる仮面神軍団が集落を黒く染め上げる!鹿児島・指宿「メンドン祭り」で無病息災/奇祭巡り
思い思いの仮面をつけた異形の集団が観光客に襲いかかる…!薩摩に伝わる奇祭「メンドン」の一部始終を目撃した!
記事を読む
おすすめ記事