大自然の中で人々が次々と消える…未解決失踪事件の続発エリア/バーモント州ミステリー案内

文=宇佐和通

    超常現象の宝庫アメリカから、各州のミステリーを紹介。案内人は都市伝説研究家の宇佐和通! 目指せ全米制覇!

    自然豊かで四季のはっきりした土地

     米北東部のニューイングランド地方内陸に位置し、ニューヨーク、ニューハンプシャー、マサチューセッツに囲まれるバーモント州は、「緑の山の州」というニックネームで知られている。東海岸内陸部の州と聞くと保守的なイメージがつきまとうが、最初に奴隷制度を廃止した州である事実を意外に感じる人も多いのではないだろうか。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     バーモント州は、秋に州全体で素晴らしい紅葉が見られることでも有名だ。これは、冬は寒く夏は暑いこの州ならではの気候条件が理由だ。過去の記録では冬の最低気温がマイナス39度、夏の最高気温は38度という振れ幅の激しい数字が残されている。季節ごとの寒暖差が激しく、四季がはっきりしていて、とにかく美しいバーモント州にミステリー要素などほとんど感じられないように思えるのだが、それでも不思議な話はある。

    奇妙な連続失踪事件

     州南西部に、多くの謎と民間伝承に彩られた「ベニントン・トライアングル」と呼ばれる地域がある。グラステンベリー山を中心としてベニントン、ウッドフォード、シャフツベリーといった周辺の地方都市をカバーするエリアで、作家ジョセフ・A・シトロが生み出したこの固有名詞が使われ始めたのは1992年だったという。同地では、1945~50年にかけて以下のように不可解な失踪事件が連続した。

    ⚫️ミディ・リバーズ事件(1945年)

     74歳の狩猟ガイドが、グラステンベリー山付近でハンターのグループを案内中に失踪した。先頭を歩いていた彼が突如姿を消し、広範囲にわたる捜索にもかかわらず発見されることはなかった。

    ⚫️ポーラ・ジーン・ウェルデン事件(1946年)

    ポーラ・ジーン・ウェルデン(情報提供を求めるチラシに描かれた肖像) 画像は「Wikipedia」より引用

     ベニントン大学に通っていた18歳の女子学生が、グラステンベリー山中のハイキングコースを歩いている間に行方不明になった。同州史上最大規模の捜索活動が展開されたが、手がかりは一切見つからなかった。

    ⚫️ジェームズ・E・テッドフォード事件(1949年)

     第一次世界大戦の退役軍人ジェームズ・E・テッドフォードが、ベニントン行きのバスに乗った状態のまま消した。同じバスの複数の乗客の話によれば、彼は最終停留所まで乗っていたはずだが、到着時には姿がなかったという。

    ⚫️ポール・ジェプソン事件(1950年)

     8歳の少年ポール・ジェプソンが、グラステンベリー山で家族とともに登山中、両親がほんの一瞬目を離した隙に姿を消してしまった。捜索に動員された警察犬が、数年前にポーラ・ウェルデンが姿を消したのと同じハイウェイまでにおいを追跡している。

    ⚫️フリーダ・ランガー事件(1950年)

     53歳の女性が、サマセット貯水池近くでハイキング中に行方不明になった。州警察は経験則から事件発生直後から鉄壁の捜索態勢をとって彼女を探したが、結局見つからなかった。数か月後、以前捜索された場所で彼女の遺体が発見され、謎が深まることとなった。ちなみに、失踪者の遺体が見つかったのはこのケースだけである。

     これらベニントン・トライアングルで起きた失踪事件関しては、背景に超自然的な力が働いているのではないかという推測がかなり昔から語られてきた。より現実的な推理としては、連続殺人犯の仕業という説もある(アメリカでは、旅行者やヒッチハイカーを拉致・監禁し、挙句の果てに殺害するという犯行が決して少なくないのも事実だ)が、いずれの事件もシリアルキラーの典型的犯行パターンからは乖離が見られる。また、後に(殺人事件であることを前提として)行われたプロファイリングでは、犯人のタイプがそれぞれ異なることもわかっているので、少なくとも単独犯ではなさそうだ。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     いずれのケースでも行方不明者たちが姿を消したのは山間部だったことから、ボブキャットやクーガー、そしてピューマといった在来種の大型ネコ科生物に襲われたのではないかという憶測もある。しかし、こうした野生動物はかなり臆病で、自ら進んで攻撃行動には出にくいようだ。さらにいうなら、地域一帯では、1940年以降は信頼できるピューマの目撃例は報告されていない。

     発生後かなりの年月が経過しているが、5件の失踪事件を結び付ける具体的な手がかりはまったくない。手がかりとなりそうなポイントを強引に挙げるなら、失踪事件の発生が5年ほどの期間に集中していること。失踪者が最後に目撃された時間帯が、いずれも午後3~4時の間。そして、失踪者が最後に目撃された時期が年末の3か月に集中していること程度だ。

    超常現象のホットスポット

     ベニントン・トライアングルの謎は、地元の伝説やさざまなな仮説によってさらに深まっている。ネイティブ・アメリカンのアベナキ族は、グラステンベリー山を呪われた山として受け止めていて、「人を飲み込む石」があると度々警告していたという。

     また、この一帯ではUFOや奇妙な光、さらにはビッグフットの目撃談が相次いでいる事実も、神秘性を高める理由となっている。言うなれば、ベニントン・トライアングルとは、規模が大きなスキンウォーカー牧場のような特性の場所なのだ。息を呑むほど美しい山並みには、人間の想像をはるかに超えた何かが潜んでいるのかもしれない。

    イメージ画像:「Adobe Stock」

     地元出身者だけではなく、この一帯の特性に興味を抱くリサーチャーは多い。ミステリアスな事象の数々に対する解釈はさまざまだが、グラステンベリー山が何らかのエネルギースポットとなっているのではないかという仮説も支持されているようだ。ここから一歩踏み込んで、異次元へとつながるポータルのようなものが存在するという考え方もある。

     米国には「アラスカン・トライアングル」という有名なミステリースポットがある。こちらもかなり知られているのだが、ベニントン・トライアングルはアメリカ内陸部のバミューダ・トライアングルといったニュアンスで形容されることが多く、さまざまな媒体でテーマとして取り上げられる。

     バーモント州内の博物館や図書館では、今もベニントン・トライアングルの特別展示が定期的に行われており、多くの人々で賑わうという。ひたすらに美しいイメージとは対極に位置するバーモント州のダークサイド、ベニントン・トライアングルにまつわる逸話。怖さがさらに引き立つような気がする。

    宇佐和通

    翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。

    関連記事

    おすすめ記事