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超常現象の宝庫アメリカから、各州のミステリーを紹介。案内人は都市伝説研究家の宇佐和通! 目指せ全米制覇!
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米ユタ州北東部に位置する「スキンウォーカー牧場」で起きる超常現象を科学的に解明していくドキュメンタリー番組が大きな支持を受けている。検証に参加しているのは、航空宇宙工学博士のトラヴィス・テイラーをはじめとする各分野のエキスパートだ。本国ではすでにシーズン5を迎えていて、かなりの人気だ。多岐にわたる超常現象をリアルに再現した映像に視聴者も共感を抱きやすいのだろう。
今回の原稿では、この番組のタイトルにも使われている「スキンウォーカー」について掘り下げていきたいと思う。
ボーイスカウトのメンバーであれ、星空の下でキャンプファイアーを楽しむバックパッカーであれ、アリゾナ州を訪れるほぼ全員が耳にする「スキンウォーカー」とは、ネイティブアメリカンの一部族であるナバホ族の伝承で語られる超自然的存在のこと。ただし、ナバホ族の人々にとっては単なる想像上の産物ではない。窓から覗き込んだり、壁をノックしたり、人型の生き物が自分の車と歩調を合わせているのを見たという報告もある。現代においても、日常生活とリアルな接点をもつ存在だ。
伝承によると、ナバホ族のシャーマンの中に悪意をもって妖術を実践する者がいた。スピリチュアリティというポジティブな道から外れ、力を悪のためのみに使う。その邪悪な魔術によって生まれたのが「スキンウォーカー」だ(ナバホ族は「イー・ナールドルーシー」と呼ぶ)。
「スキンウォーカー」は、魔術で動物に変身したり憑依する魔女の一種と定義されることもある。動物に変身するときはコヨーテやオオカミ、クマなど、悪巧みや死を連想させる姿になることが多い。目を合わせるだけで憑依し、他人に危害を加え、病気を引き起こしたり、死をもたらしたりする。変身した動物の鳴き声で犠牲者をおびき寄せ、襲いかかり、その瞬間に生まれる恐怖をエネルギーに変える。
つまり「スキンウォーカー」とは、調和と癒し、善と悪のバランスを重視するナバホ族の価値観や精神性から逸脱した物事の擬人化である。そして、悪意と精神の腐敗を体現し、かつスピリチュアルな力が悪い方向に振れるときの恐ろしさを浮き彫りにする概念にほかならないのだ。
ナバホ族の間では、今でもスキンウォーカーについて語ることは絶対的なタブーとされている。1700年代にアリゾナ州を生活の拠点にし始めたナバホ族の現在の人口は約30万人で、ほとんどがアメリカ南西部に居住している。それゆえ、ナバホ文化特有の伝承であるスキンウォーカー伝説の中心地もアリゾナ州であると考えるのが自然だろう。
ナバホ文化において恐怖と神秘の象徴として残る伝承がテレビ文化と融合し、さらにユタ州のスキンウォーカー牧場のような場所が知られることによって拡散し、注目されるようになった。実際の目撃・遭遇報告としては、人里離れた場所を車で走っているときに奇妙な生き物を見たというものが多く、半人半獣のような存在が車の中に入ろうとしたり、荒涼とした道路を走っていた車が謎の失踪を遂げたりするというストーリーラインが目立つ。
今でもタブーとされている話題なので、ナバホの人々が部外者とスキンウォーカーについて議論することはほとんどない。しかし、ポップカルチャーという枠組みの中では事情が異なる。伝説はナバホ文化圏をはるかに超える広さで認識され、ホラー小説やメディアのモチーフとして定番化した。こうした背景から、伝統的な信仰と現代的なホラーストーリーを融合させた現代的解釈が生まれ、ネットを中心とした新たな経路で拡散することになった。
アリゾナ州内では特にウィンドウ・ロックやフラッグスタッフなどで、スキンウォーカーの目撃例が報告されている。こうした話一つひとつが、同州の民間伝承や都市伝説で構成される巨大な文化的ジグソーパズルのピースとなるのだろう。一方、ナバホ文化の中では、スキンウォーカー伝説は今も、そして今後も不文律のように受け継がれ、スピリチュアルな力の悪用に対する戒めであり続ける。
最後に、伝説と密接に関係する史実を紹介しておこう。
1864年、当時のアメリカ政府によるネイティブアメリカンに対する民族浄化運動の一環として行われた「ロングウォーク」という事件があった。ナバホ族の人々が、アリゾナ州からニューメキシコ州南東部の強制収容所まで徒歩で移動させられたのだ。残忍な計画で命を落とした人々がスキンウォーカーとなって、今も荒野をさまよっているという解釈もある。
また1878年には、部族内の均衡を取り戻すための自浄作用の結果として、魔女と疑われた者たちが処刑されるという事件が起きた。
スキンウォーカー伝説には、暗い歴史的事件の影響がしばしば見え隠れするのも事実だ。だからこそ単なる伝承・都市伝説という枠の中だけで考えるべきではなく、実体験として世代を超えながら、部族全員が共有し続けていく記憶的な意味合いのほうが強いのかもしれない。
宇佐和通
翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。
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