グーグルの最新量子コンピューターは並行宇宙で計算している!? 驚異的速度が示す“分岐した宇宙”の存在

文=仲田しんじ

関連キーワード:

    グーグルの最新鋭量子コンピューターは、スーパーコンピューターで10の25乗年かかる計算を、なんと5分で終えるという。しかも、この新たな量子チップは時空を越えた異世界で計算を行っている可能性があるようだ。

    驚異の量子チップ「ウィロー」

     米IT大手、グーグルは特定の計算を非常に高速に実行できる新しいタイプの量子チップ「ウィロー(Willow)」を発表し、量子コンピューティングの広範な商用導入に向けてさらに大きな一歩を踏み出した。

     グーグルの最先端の量子チップであるウィローは特定の計算を驚異的な速度で実行できるため、一部から「この世のものではない」とも指摘されている。ウィローは現在の世界最速のスーパーコンピュータが10の25乗年(100垓年)かかる計算をわずか5分で解答できるという。

    画像は「Google Quantum AI」より

     また、ウィローはより多くの量子ビットを使用してスケールアップさせるにつれて、エラーを指数関数的に削減できることも大きな成果であるという。この分野でほぼ30年にわたって追求されてきた量子エラー訂正の重要な課題が解決されたということだ。

     量子コンピューターにおける最大の課題の1つはエラーであり、量子コンピューターの計算単位である量子ビットは情報をあまりにも急速に扱うため計算を完了するために必要な情報を保護することが困難になる。したがって通常、使用する量子ビットの数が増えるほどエラーが発生する。

     しかし12月9日に「Nature」で発表された研究では、ウィローは使用する量子ビットの数が増えるほどエラーが減ることを示す結果が報告されている。量子エラー訂正の最新技術を利用してエラー率の指数関数的な削減を達成したことで、1995年にピーター・ショアが量子エラー訂正を導入して以来、未解決であった課題が解決されたのである。

     ウィローの開発は、量子力学を利用できる有用な大規模量子コンピューターを構築し、新たな科学的発見、役立つアプリケーションの開発、社会課題への取り組みにつながるということだ。

    画像は「Google Quantum AI」より

    計算はパラレルワールドで行われている?

     研究論文の発表と時を同じくして発表された同社プレスリリースでは、気になる言及がある。

    「この途方もない(計算速度の)数字は、物理学で知られている時間スケールを超えており、宇宙の年齢を大幅に上回っています。これは、量子計算が多くの並行宇宙で行われているという考えに信憑性を与え、デイヴィッド・ドイッチュが最初に予測した、私たちがマルチバースに住んでいるという考えと一致しています」(プレスリリースより)

     イギリスの物理学者で量子計算理論の先駆者であるデイヴィッド・ドイッチュ氏は、量子力学における「多世界解釈」の支持者でもある。

     量子論における「シュレーディンガーの猫」は、箱の中にいる限り“生きてもいれば死んでもいる”のだが、箱を開けて“観測”することで生死が決定される。「多世界解釈」ではこの瞬間、猫が生きている世界と猫が死んでいる世界の2つに分岐したことになり、その後もあらゆる“観測”で世界は無数に枝分かれしていると説明している。

     今いる現実と枝分かれした、少し違うがよく似た世界は「パラレルワールド」ということになり、それが無数に存在していることになる。

     今回発表されたウィローの驚くべき計算処理速度は、この世界のみならず、量子現象を通じて数多くのパラレルワールドでも同時に行われている結果だとすれば、確かにひとつの可能性として説明がつきそうだ。そしてグーグルの開発チームもそう考えているのだとすれば興味深い。

     量子コンピューターの開発から多世界解釈が証明されることがあるとすれば画期的な展開だが、それも含めて今後の研究開発の成果に期待したい。

    Gerd AltmannによるPixabayからの画像

    実用化はまだ先だが将来を占う先端技術

     パラレルワールドの存在すら想起させるウィローの驚異的計算速度だが、ウィローが今回5分で計算した問題は、実は性能のベンチマークとして「量子コンピュータに特化した問題」であったため、古典的なコンピュータと比較した際の「普遍的な速度向上」を示しているわけではないという。

     物理学者で科学ジャーナリストのサビーネ・ホッセンフェルダー氏は「この計算結果は実用的ではありません。これらの特定の問題が使用されるのは、従来のコンピューターでは計算が難しいことが正式に証明されているためです」と自身のXで説明している。

    「これは、2019年に約50量子ビットのチップで行った計算とまったく同じです。ご存じない方のために説明すると、2019年のグーグルの量子超越性の主張は、主張がなされるやいなやIBMによって疑問視され、数年後にはあるグループが同様の時間で従来のコンピューターでそれを実行したと発表しました」(ホッセンフェルダー氏)

     確かに量子コンピューターは進化しているのだが、ホッセンフェルダー氏のような専門家によればまだまだ実用化にはほど遠いということである。事実、当のグーグルは今年、量子コンピューターの実用化に500万ドル(約7億5000万円)を提供する世界規模のコンテストを主催している。

     ウィローは、カリフォルニア州サンタバーバラにある同社の最新の製造施設で製造された。この施設は量子コンピューターの研究開発の目的のためにゼロから構築された世界でも数少ない施設の1つである。

     ともあれこの最新鋭施設でこれからも続けられる同社の量子コンピューティング研究は、将来を占う先端技術として注目せざるを得ないものであることは確かだ。

    ※参考動画 YouTubeチャンネル「Google Quantum AI」より

    【参考】
    https://www.iflscience.com/google-suggests-its-quantum-computer-may-use-other-universes-to-perform-calculations-77155
    https://blog.google/technology/research/google-willow-quantum-chip/

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

    関連記事

    おすすめ記事