ロシアのアトランティス「キーテジ」の謎! 神の意志で湖に沈んだ“見えない都市”は今どこに?
邪馬台国やアトランティスがどこにあったのか依然として議論が続いているが、ロシアには湖底に沈んだ謎の都市があるという――。
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謎の神アラハバキとは、人間を神へと高める守護神だった? そしてその信仰の原点には、縄文時代の呪術の存在がみえてきた!
(前回から続く)
なぜ「はばき」が武勇の象徴なのか。それは、それこそ義経に関係した言い伝えにヒントがある。「弁慶の泣き所」という、有名な言葉があるが、それは脛のことだ。いかなる怪力無双の豪傑でも、鍛えにくい急所、それを防護するのが「はばき」なのである。
我々が日常口にする「アキレス腱」という言葉も、同様の神話伝説に基づく名称である。ギリシア神話で神懸った強さを見せた英雄アキレウスの急所が、かかとだったのだ。若干部位は異なるものの、いかなる英雄であっても下腿部が急所というのは、洋の東西を問わない、古代からの認識であった。
また、北欧神話の英雄ジークフリートなども、足ではないものの一ヶ所だけ弱点があって、それを狙われて殺されたと伝わる。無敵の英雄の、ただ一ヶ所の弱点が、逆説的ながら、無敵の英雄のシンボルでもある。それが「弁慶の泣き所」であり、「アキレス腱」なのだ。
そして、完全に近いながらも、不完全なその一点を補う、ジグソーパズルの最後の1ピースのようなものがあれば、それは本当に完全になり、「神」の領域に達する。その最後の1ピースこそが「はばき」であり、英雄を神たらしめる神器なのだ。完全無欠に近い英雄の、唯一の弱点を守り、神へと高めるもの、それが「はばき」なのである。
こうなって来ると、アラハバキという謎の神の神格も、姿が見えてくる。
アラハバキは足の神として信仰されていて、それは「はばき」による語呂合わせのような説明がなされることがあるが、そうではなく、最初から足の神なのではないか。無敵の英雄の弱点たる足を守り、英雄を神たらしめる武神、それがアラハバキなのではないか。
そうであれば、「アラ」というのも、単純に「荒」の意ということになるだろう。「荒」は、弁慶のような怪力無双の者を「荒法師」というように、武勇を示す言葉である。また「荒御魂」のように、非常に強力な神の霊力を形容する際にも用いられる。英雄の弱点の足を守り、武威を発揮する神、それがアラハバキなのだ。
そして、ここまで来ると、アラハバキの神格を示す「英雄と脛」という組み合わせと直結する、一人の神話的人物を思い出さずにはおれない。それは冒頭近くで述べた長髄彦である。長髄彦は一度は神武天皇を破った、神懸った武勇を誇る人物であり、長い脛というのは「巨人」のような意味合いを持つ、武勇を示す言葉ともいう。
アラハバキは漢字で「荒脛」と表記することがあるが、それと「長髄」とは、漢字だけ見ても、意味するところはさして変わらない。またその神話的意義を詳しく見ても、足において神性が顕現する英雄・長髄彦と、英雄の足を守る事で神性を発揮する神・アラハバキは、極めて近似していると言える。
先に、学術的には偽書である「東日流外三郡誌」に、長髄彦が津軽へ逃れたと書かれていると述べたが、実は、長髄彦や、その兄または同一の存在とされる安日彦が、津軽へ逃れたという伝承は、鎌倉時代〜室町時代に成立したとされる「曽我物語」に既に書かれている。それも、その場所は「外ヶ浜」、つまり陸奥湾西部沿岸から津軽半島東部沿岸にかけての地域で、まさに松尾神社の鎮座する場所も「外ヶ浜」なのだ。
陸奥一の宮である宮城県塩釜市の鹽竈(しおがま)神社も、江戸時代に書かれた「先代旧事本紀大成経(せんだいくじほんきたいせいきょう)」によれば、陸奥国に逃れて塩を焼いて民に施した長髄彦が祭神だという。先代旧事本紀大成経は幕府により偽書・禁書とされ、現代でも学術的には偽書だとされているが、長髄彦が東北に逃れたという話が「東日流外三郡誌」よりずっと古くからあったということは間違いない。それも、東北一の大社と言うべき神社の祭神という話として。
ここにおいて、義経の「はばき」を祀るというアラハバキ明神こと松尾神社は、本当は東北、津軽へ落ち延びた長髄彦、あるいは長髄彦の「はばき」を祀っていた可能性が浮上してくる。実際に長髄彦が落ち延びたかどうかは別として、そのように信じられていた長髄彦を。それが、後世義経と習合し、伝説が上書きされたのではないか。
江差の小山権現も、アラハバキを祀るとは言われておらず、アラハバキの名を冠してもいないが、菅江真澄が連想するほどに由緒が酷似しており、これも元はアラハバキであった可能性がかなりある。そして即ち、長髄彦であった可能性もあるのだ。
アラハバキが長髄彦であったなら、三河から蝦夷地まで、広い範囲で信仰されていてもおかしくはない。長髄彦は大和に住んでいたのであり、記紀神話では、物部氏の祖神・饒速日命(にぎはやひのみこと)の義理の兄となっている。つまり物部氏の母系の祖先は長髄彦の妹なのだ。
物部氏であれば、日本中、東国や東北にも進出している。ただ、あくまでも母系である上に、天皇に逆らって討たれたという由緒を持つ、あまり大っぴらに出来る信仰でもないので、アラハバキという似た意味合いの言葉に変えて、隠れるようにして信仰した。そのようなことであれば、細々とのみ残るという現状にも納得がいく。
また、中世に津軽や蝦夷地を領有した安東氏(後に秋田氏に改姓)は、長髄彦を祖とする伝承を持っている。外ヶ浜も江差も、古くは安東氏の領地であった。それならば、尚更長髄彦の信仰があって不思議ではない。いやむしろあるべきであろう。先述の「先代旧事本紀大成経」において長髄彦を祀るとされている鹽竈神社の神主の中には、安東氏がいた記録もある。なお、安東氏は前九年の役で滅びた古代東北の豪族・安倍氏も祖としており、安倍氏は義経の庇護者・奥州藤原氏の母系の祖である。
そして、アイヌとの接触が極めて多い氏族であり、混血や「プレアイヌ」の存在を考えるなら、安東氏自体の出自が半ばはそうであった可能性もある。そうであれば、アイヌが類似の信仰を持っていても不思議ではない。時代や場所によって、義経や小山隆政、あるいはオキクルミと習合したのが、アラハバキなのではないか。しかしてその正体は、「はばき」が守る場所をその名に持つ英雄・長髄彦。あるいは、それすらも習合の結果であって、それよりも遡る、足をシンボルとする、太古の武神なのかもしれない。
アラハバキが太古の武神だとしたら、「東日流外三郡誌」が示す、遮光器土偶はその神像、というようなことも、見直してみる必要もあるだろう。宇宙服説さえ唱えられた複雑な文様は、鎧兜のような防具ともとれる。シンボルである遮光器は、そのまま防具としての用を成すだろう。
縄文時代は争いが少なかったとされるが、全くなかった訳ではないし、遮光器土偶が制作されたのは縄文晩期である。気候は寒冷化し、弥生時代の萌芽として、食糧争奪戦が始まっていた可能性もある。
さらに言えば、遮光器土偶の中でも最も有名な亀ヶ岡遺跡から出土したものは、片足がないのである。これは、「弁慶の泣き所」「アキレス腱」のような、唯一の弱点というわずかな不完全性をもって、逆説的に完全に限りなく近い英雄の神性を表現する、ということと一致する。
もちろん遮光器土偶には両足揃ったものもあるが、土偶は一部が破損しているものが非常に多く、これは身代わりや豊穣祈願等の為、呪術的な意図をもって行われた、という説明がよくなされる。その「身代わり」という発想と、唯一の弱点を守ってもらう、という発想は、極めて近い呪術的意図である。アラハバキの原点は、土偶破壊の呪術にあるのかもしれない。
そこまで考えるなら、アラハバキは、そのような名でなかったとしても、そもそも縄文時代から北海道でも信仰されていたことになる。そして義経と習合したオキクルミも、もとは長髄彦引いてはアラハバキかもしれず、義経北行伝説も長髄彦北行伝説を下敷きとしたもので、そもそも、アラハバキ自体が、激動の縄文晩期〜弥生早期に、縄文文化が東北北部と北海道を残して消えていく「北行」のなかで誕生した神なのかもしれない。
高橋御山人
在野の神話伝説研究家。日本の「邪神」考察と伝承地探訪サイト「邪神大神宮」大宮司。
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