謎のゲーム「ポリビアス」は米政府の極秘プロジェクトだった!? MIBも暗躍した40年前の都市伝説/オレゴン州ミステリー案内
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あなたは『さきさのばし』というアニメ作品について聞いたことがあるだろうか? 日本が舞台でありながら、海外で異様な盛り上がりを見せるネットロアの秘密を暴く!
海外でも日本のアニメやゲーム、漫画などが人気を集めているのはよく知られた話である。実際、日本人でさえ驚くほどの情熱と知識を持ち合わせた外国人ファンもいる。ただし、諸外国の愛好家にとって、日本国内のサブカルチャーを取り巻く環境は、かなり異質に見えているようだ。
『さきさのばし』という奇妙なアニメに関する噂がある。このネットロア(ネットで発生した都市伝説)は外国で生まれ、ジャパニーズ・カルチャーによって育まれた、しかし日本ではあまり知られていない新興の都市伝説といえる。
2015年、海外掲示板サイト「4chan」に『The most fucked up thing you’ve ever seen on the deep web(あなたが今までにディープウェブで見た一番ヤバいもの)』というスレッドが立てられた。ディープウェブとは、通常の検索では辿り着かないようなインターネット深部のことだ。そして、真偽もわからない数々の情報が次々と投稿される中、一つの書き込みが注目を集めた。奇妙でグロテスクなアニメを見たという、こんな投稿である。
『ドアのない広いトイレに閉じ込められた9人の裸の女子たちが、部屋から出られないことについて哲学的な議論をする。数日後、彼女たちは希望を失い、飢えに苦しみ、徐々に発狂していく。叫び声を上げ、頭を床に打ち付け、自ら首を引っ掻き、血だらけで次々と絶命する女の子たち。ある女の子は、シンクで溺死することを試み、失敗すると仲間に殺してくれるよう求める……』
投稿者は、このアニメを見た夜はショックのあまり泣きながら眠りについたという。アニメは音声も含め全体的に1980年代のテイストで、宮崎駿を思わせる絵柄だった。登場人物たちは日本語を話し、そこに英語の字幕が挿入されていた。アニメは30分程に短く編集されていたようで、エンドクレジットも無かったという。
スレッド内でのやり取りから、投稿者が語ったうろ覚えの英語タイトルは『Go for a punch』。すぐに作品探しが始まったが、誰もその本編を見つけられなかった。一連の捜索の中で、誰かが作品と関係があるかもしれないとして『Saki Sanobashi』という単語を上げた。それが何を意味するかは誰にも分からなかったが、以後、一見すると日本語にも思えるこの『さきさのばし』が謎のアニメのタイトルとして定着していく。
ネット上ではさまざまな憶測が飛び交っている。1980年台に発売されたマイナーな作品であるという説。発売前にお蔵入りになったアニメが流出したという説。当時のアマチュアが作ったもので、ごく限られた場所でしか公開されなかった作品だという説……。『さきさのばし』はその後も捜索が続けられ、何度かそれを見たという者やビデオを持っていると主張する者が現れては消えた。ネット上にはファンアートが投稿され、ゲームまで登場するなど、存在の証拠が一切無いにもかかわらず、一定の人気を得ているのだ。
だが、これだけ多数の人間が捜索しているのに、画像の一つも見つからないとは、いったいどういうことだろう。投稿者の記憶違い? あるいは多数の人間がありもしない記憶を作り上げてしまう「マンデラ効果」のようなものか? 同じようにネットロアとなった『天空の城ラピュタ』の“幻のエンディング”や、アメリカのローカルテレビ局が放送したとされる奇妙な番組『キャンドル・コーヴ』のように。
『さきさのばし』は主にアメリカやヨーロッパで人気が高いが、検索すると中国のSNS「百度(バイドゥ)」に詳しい解説ページがあったりと、アジアでも広く知られているようだ。特にマイナーゆえ忘れ去られた番組やCM、音楽、書籍、テレビゲームなどを捜索している韓国のサイト『ロストメディアギャラリー』などが、かなり踏み込んだ調査をしている。このサイトは、今年4月に『さきさのばし』の正体は90年代にVHSで発表された『絶望その果てに 先のない世界』という同人アニメであり、ある高校のパソコン研究部がそのソフトを保存している、というフェイク情報が日本から流れたときにも、言葉の壁を超えて詳細な調査を真っ先に行うなど、旺盛な活動をしている。
このように海外で高い注目を集める一方、日本ではほとんど『さきさのばし』が話題に上がることはない。私はアニメや映画、1980年代のビデオ作品に詳しい友人や知人に『さきさのばし』について訪ねてまわった。ほとんどの人は初耳だと言い、作品に心当たりがあるという者は皆無だった。名前だけは知っていると答えた人たちも「以前『さきさのばし』を知らないかと問い合わせが来た」ことによって初めて認識したという程度で、結局は誰も見たことがないという話だった。では、実際のところ海外の人たちは何を見たのだろう。
『さきさのばし』のような、暗く救いのないストーリーが展開するアニメは“鬱アニメ”などと言われる。1980年代、内容的には“鬱”な展開の漫画作品などは存在したが、そのようなアニメ作品が存在した可能性は低いと思われる。
まず“鬱アニメ”が1つのジャンルとして確立するのは2000年代に入ってからだ。1990年代末期に成人向けパソコンゲームなどで鬱な展開を売りにした作品が発表され始め、いくつかはアニメ化された。その代表的作品ともいえる『ひぐらしのなく頃に』の初登場は2002年のことである。『さきさのばし』は、こういったゲームやアニメ作品からの影響が色濃く感じられる。しかし、『さきさのばし』は一説によると1986年の製作だという。いかに日本がアニメ先進国といえど、当時のマーケットに“鬱”なアダルトアニメを受け入れるだけの包容力があったかは、やや疑問が残るのだ(そもそもの書き込みには裸の少女達が登場する作品とされていた。つまり、アダルト作品なのである。後の考察ではその点が蔑ろにされてしまっていることを指摘しておきたい)。
VHSという家庭用ビデオゲーム規格の登場により、劇場やテレビで放映されない独自のOVA(オリジナルビデオアニメ)が登場するのが1983年ごろだ。そして、いわゆる“美少女アニメ”とも呼ばれる成人向けOVAが登場するのが1984年ごろ、『子猫ちゃんのいる店』そして『くりいむれもんシリーズ』といった作品のヒットで隆盛を極める。『さきさのばし』は当時の“美少女アニメ”の主流からは大きく外れており、その時点で日本のアニメファンからすると『さきさのばし』が存在する可能性は低いだろう、と想像できてしまう。
一方、この時期はいわゆる血みどろ描写が売りのスプラッター映画が流行りでもあった。1985年の日本では、後に通称・宮崎勉事件で美少女アニメと共にスケープゴートにされてしまう疑似スナッフビデオ『ギニーピッグ』シリーズが制作されている。あまりの精巧な作りにFBIも捜査したと噂される当作品だが、これらも海外での人気は異常に高い。
つまり話を総合すると、『さきさのばし』は、ある程度この時代の日本のアニメやビデオについて知識のある、だが日本人ではない人物が考えた噂話ではないかと考えられるのだ。宮崎勉事件以前のセルビデオの規制はかなり緩く、自由度が高かったことも事実である。ゆえに、当時の日本であれば『さきさのばし』の存在も「ありえる話」だと海外ファンの目には映るのであろう。このネットロアには、日本のサブカルチャーに対する期待や幻想が含まれているのかもしれない。
最後に、1990年代に存在した自主映像制作団体「電影軍団」による『血の海の美女』というシリーズにアニメ作品が含まれていたという調査途中の噂などもあり、まだ作品が存在する可能性も消え去ったわけではない。また、AIの進歩により、よくできた偽物の画像まで出始めており、今後は我々を惑わすようなフェイク映像も出現するだろう。
このネットロアは現在も新説を取り込みながら成長しており、単純な都市伝説として割り切れない奥深さがある。実際、有志によってゲーム化されたり、アーティストのミュージックビデオに影響を与えたりしているのだから。また、最近も中国のファンから「似た作品を見た」という証言が出てくるなど、日本が舞台の都市伝説でありながら日本を蚊帳の外に置き、海外で成長しているのが印象的だ。これこそネットロアの魅力である。逆に日本でしか取り沙汰されない「タクラーン村の少女」のような、外国が舞台の日本製ネットロアもある。腕が異様に長い少女が映り込んだホームビデオとされるが、こちらも手がかりすら見つかっていない。掘り起こせば、このような都市伝説はまだまだ見つかるはずだ。
今後も『さきさのばし』は、私たちの想像を超えた展開を見せてくれるかもしれない。物語の成長を見守って行きたい。
オオタケン
イーグルリバー事件のパンケーキを自作したこともあるユーフォロジスト。2005年に発足したUFOサークル「Spファイル友の会」が年一回発行している同人誌『UFO手帖』の寄稿者。
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