「地鎮」を侮るなかれ! 前橋の土地神・長壁大神の怪異譚
山河を鎮め、かしこみかしこみ神を鎮める「地鎮」の儀式。それは安全と平和な暮らしを祈願するためのものだが、もしも誤ると大変な結末を招くこともある、恐ろしいものでもあった。
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多くの人に語られつつも存在が確認されない、幻のテレビドラマがある。マンデラ効果(マンデラエフェクト)に飲み込まれた作品なのか、それとも…?
「懐かしのTV番組について語ろう」的なインターネットのフォーラムは日本にもあり、ユーザーも多い。こうしたフォーラムは参加する人の絶対数が多いだけに奇妙な噂の温床となりやすく、一度奇妙な噂が生まれると、爆発的な勢いで流布する。この原稿では、ネットで生まれた都市伝説的な話の爆発力、そしてそれに盛り込まれる今日的な要素について触れていこうと思う。
アメリカのとあるフォーラムに、1970年代にオンエアされていた『キャンドル・コーヴ』という子ども番組についてのスレッドが立ち上げられた。スレッドを立てた人物によれば、この番組はウェストバージニア州のローカル放送だったはずだという。
しばらくすると、「この番組を見たことを覚えている」という人たちからの書き込みが増え始め、登場する“ジャニス”という女の子のキャラについてなど、さまざま情報が集まるようになった。
どうやらこの番組は、ジャニス(人間のキャラクター)が海賊の人形たちと絡みながら話が進んでいく、『セサミストリート』に似たようなフォーマットだったらしい。
ただ、この番組には子ども向けとはとても思えないダークな一面があった。海賊の一団が、パーシーという別の海賊のキャラに向かって言い放つ「中に入っていただかないと……」という決めゼリフをきっかけに、画面全体にそれまでの進行とまったく違う暗い雰囲気が漂い始めるのだ。
この中核にいるのが、スキン・テイカーという骸骨のキャラだ。あろうことか、“子どもたちの死体から剥ぎ取った皮で作ったマント”を着ている。喋るときは顎が上下するのではなく、前後にスライドする形で動く。これは、子どもたちから皮を剥ぎ取るときにも役立つ動きであるという設定だった。
フォーラムは大いに盛り上がった。
やがて、こんな書き込みが現れる。
「みんな覚えてるかな? 登場人物がただひたすら叫んでる回があっただろ? あれは強烈なイメージで、しばらく夢にも出てきて夜中に泣き出したのを思い出す」
こんな内容の書き込みもあった。
「叫んでいたのはジャニスとスキン・テイカーだったはずだ。あの回がとても怖かったから、僕も妹も番組を見なくなった」
書き込みをした人たちによれば、このきわめつきに不気味なエピソードが放送されてからずぐに、番組も突然終了したということだった。
また、しばらくして、こんな書き込みがあった。
「この間、老人ホームで暮らしてる母親を訪ねたときの話。『キャンドル・コーヴ』を覚えているかきいてみた。そしたら、こう答えたんだ。僕がある日『キャンドル・コーヴ』を見ると言ってテレビの前に座ったらしい。でも、いつまでも番組は始まらない。母によれば、僕は30分間ずっと“砂の嵐”を見続けていたらしい。その後は、高熱を出して何日か寝ていたそうだ。自分では全然覚えていないんだけど」
インターネットを媒体とする情報のやり取りが今ほど盛んではなかった時代では、都市伝説と呼ばれるジャンルの話が、ぼすべて口伝えという形で広がっていた。当然のことながら伝播の速度はかなり遅く、いちどに働きかけられる人数もきわめて限られていた。
ところが、ウィンドウズ95の普及によってPCがテレビや電子レンジと同じ家電に近いものというニュアンスでとらえられるようになり始めた頃から、奇妙な噂も主としてメールを流布の媒体としながら高速化した。こうした過程を経て、都市伝説という言葉にそれまでの時代の定義は通じなくなった。
『キャンドル・コーヴ』は、こうした“インターネット・アーバン・フォークロア”の中でも異質な光を放つ特別な話であるといえるだろう。どうして異質で特別なのか。それは、意図的に作った話によって多くの人々の“偽記憶”を刺激し、その記憶を既成事実化して、それを基にスピンオフ的なアーバン・フォークロアを作って流布させたという実に複雑な構造が見てとれる。
すべての出発点、それは、そもそも『キャンドル・コーヴ』という番組が70年代に放送された記録はないという事実だ。つまり、ありもしなかった子供番組を「見た」と思った人たちがたくさんいて、さらにはキャラや特定のシーンに関する思い出話で盛り上がったということになる。それだけではない。
『キャンドル・コーヴ』のスレッドそのものが仕掛けだった可能性がある。ごく少数のメンバーから成るグループ、あるいは個人がすべての書き込みを担当し、実在しなかった番組の話を盛り上げた。仕掛けはこれだけではない。この人物あるいはグループは、オリジナル放送版の番組をダイジェストした動画をYouTubeにアップした。中には砂嵐だけが延々と映っているもの含まれていたが、70年代っぽいレトロな雰囲気を醸し出した動画が多数アップされた結果、さらに既成事実化が進み、思い出話が独り歩きする状態が生まれた。かくて『キャンドル・コーヴ』は今の時代ならではの代表的なフォークロアとなった。
こうして、存在しなかった子ども番組『キャンドル・コーヴ』は、ごく少ない数の人間から成るグループが意図的に作って流布させたという図式の話が流布することになる。ここで、それを一度確認しておきたい。
ただ、事態はさらなるスピンオフを見せる。『キャンドル・コーヴ』現象の裏側にあったのは、NASAの秘密プロジェクトだったという話が持ち上がったのだ。
NASAの『キャンドル・コーヴ』プロジェクトによって達成されたのは、放送用電波を使って特定の人口の脳波に働きかけ、脳波を受信するシステムの実用化ロードマップ構築だったという。
2007年5月、NASAはとある番組を媒体として特殊な信号を放送する実験を行った事実を発表した。NASAによる発表の内容を覚えている人は少ないかもしれない。そして当該番組のプロデューサーは実験への協力に関して明言を避けたが、問題の番組を放送していた地方局にNASAが直接働きかけていたという記録が残っている。この放送局こそが、ウェストバージニア州のローカル局だったというのだ。
このとき使われたのは、SEBTAW=Sound Echography Braincasting Transmissing Air Wave Signal(脳投影型伝導性超音波音声放送電波信号)というテクノロジーだ。放送用電波を脳波に変換して脳細胞に直接送り、テレビの映像や音声なしでも特定のイメージを創出させることができるという。
こうした信号はいわゆる“砂の嵐”と呼ばれる画面を通じて受け手に送られることが多く、周波数が合った人は、ほかの人には砂の嵐としか見えないテレビ画面に特定の映像と音声を認識することになる。つまり、砂の嵐に見えるものの本質は信号なのだ。そして、実験的に伝えられた映像と音声は、ちょうどモスキート音と同じように、一定の年齢以下の人たちだけが聞こえたり、映像として認識できたりする脳の領域に働きかけるよう調整されていた。大人の目には砂の嵐としか見えない画面であっても、子どもは映像も音声も認識していたことになる。
極秘ソースによれば、送られていた信号の波長は2~6歳の子どもに特化したものだった。この年代の子どもたちの脳は最終的な骨髄形成過程を過ぎていないので、送られてくる信号を受け容れやすい構造になっている。NASAは、だからこそ子供向けの番組を実験にしたというのだ。
ということは、『キャンドル・コーヴ』という番組はごく限られた人たち――1970年代にウェストバージニア州に住んでいて、当時2~6歳だった人たち――だけが覚えていたことになる。
ただし、そもそもこの話の出発点は、実際はオンエアされていなかった番組に関する偽記憶がテーマの都市伝説ではなかったか?
都市伝説と呼ばれるジャンルの話は、語られていく過程で自ら変容し、誰が聞いても納得がいくように進化していくという特徴がある。『キャンドル・コーヴ』も例外ではない。
NASAの秘密プロジェクト説がピークを迎えていた頃、「いやいや、それは違うよ」というバージョンの話が生まれた。
都市伝説では、それまで流布しているバージョンの内容を否定し、よりも理に叶った説明を試みようとする「対抗神話」的バージョンが生まれることがあるものだ。
『キャンドル・コーヴ』の場合、対抗神話バージョンのキーワードとなったのは“マンデラ効果”だった。マンデラ効果というのは、ごくざっくり言ってしまえば“偽記憶”に関する共感を指し示す言葉だ。この現象を使った心理実験として実行されたのが『キャンドル・コーヴ』で、実験を取り仕切ったのはNASAであるともCIAであるとも言われている。「いや、真実はそうじゃない」とする説もさらに生まれた。
『キャンドル・コーヴ』はマンデラ効果(マンデラエフェクト)のような偽記憶をSEBTAWというテクノロジーに乗せたらどうなるかという実験だったというのだ。電波ジャック説と、偽記憶説の融合だ。
都市伝説的な話の進化の過程というのは、こういうものなのだ。
誰が考えるともなく、ふと湧いた情報がネット上に乗り、何万人という人間が作るフィルターを通して“聞いていて無理のない”“面白くて信じられる話”、ちょっと弱めの言い方なら“明確な形では否定できない話”に自ら変容していく。変容の過程には数えきれないほどの人々が介在するが、彼らの一人ひとりは介在している自覚が全くない。
オチらしきものについても触れておく。
『クリーピーパスタ』というオンラインのホラーチャンネルがある。このチャンネルのコンテンツに『キャンドル・コーヴ』が含まれていて、ネット上で公開されている“オリジナル映像”もこのチャンネルのプロデューサーであるクリス・ストローブという人物が2009年に製作したものであることが、明らかになっている。
でも、ネットロア――インターネットを舞台に増殖し続ける都市伝説的な話――が進化を止めることはない。厳然とした事実があるにもかかわらず、NASAやCIAの極秘プロジェクト実験説は根強く生き残っている。
なぜなら、誰かの“作品”であると認めてしまうよりも、偽記憶だろうが陰謀論的な実験の話だろうが、わからないまま語り続けるという行いそのものを楽しむ人の絶対数のほうが圧倒的に多いからだ。
インターネットでは、情報も消費財化している。価値ある情報――面白い話――は、広がっていく過程においても品質を上げながら、浸透しやすく変容していく。
『キャンドル・コーヴ』は超現代的な広がり方をしながら今も根強く生き残る、新しい形の超トラディショナルな性質の都市伝説ということができるかもしれない。
(2020年1月18日記事を再掲載)
宇佐和通
翻訳家、作家、都市伝説研究家。海外情報に通じ、並木伸一郎氏のバディとしてロズウェルをはじめ現地取材にも参加している。
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