夜の学校にいるはずのないものが出る……「ゾンビ看護婦」との遭遇/学校の怪談

文= 朝里 樹 イラストレーション=zalartworks

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    放課後の静まり返った校舎、薄暗い廊下、そしてだれもいないはずのトイレで子供たちの間にひっそりと語り継がれる恐怖の物語をご存じだろうか。 学校のどこかに潜んでいるかもしれない、7つの物語にぜひ耳を傾けてほしい。

    恐怖の看護師現る

     学校にいるのは教師や生徒だけではない。真夜中の学校には、なぜか頻繁に看護師が現れる。それもただの看護師ではなく、「ゾンビ看護師」や「追いかけてくる看護師」と呼ばれる、顔色の悪い謎の看護師だ。

     この看護師にまつわる怪談は、以下のように語られることが多い。

     ある少年が忘れ物を取りに深夜の学校に忍び込んだ。懐中電灯を頼りに何とか教室まで辿り着き、無事忘れ物を見つけて廊下に出ようとしたとき、遠くのほうから何かを転がすような音が聞こえてきた。その音が近づいてくるため、だれかいるのかと少年がそちらを覗くと、そして暗闇の奥から手術用の器具を乗せた台車を押す、ぼろぼろの白衣を着た看護師が現れた。
     その顔は死人のように青白かったが、看護師は少年に気づくと、凄まじい形相で睨みつけた。少年はすぐに逃げだしたが、看護師も台車を押しながら物凄い速さで追いかけてくる。少年は必死に逃げ、トイレの中に逃げ込むと一番奥の個室に潜り込み、鍵を掛け、息を殺した。
     やがて看護師の押す台車の音が近づいてきた。そして今度はトイレの個室のドアを開く音がし、それとともに「ここにはいない……」という声が聞こえてきた。看護師は一番手前の個室からドアを順番に開けているらしい。
     ドアを開ける音と「ここにもいない……」という声も近づいてくる。しかし、その声と音は少年のいる個室の隣の個室を確かめた後、止まった。恐らく諦めて戻っていったのだろう。少年はそう考え、安堵するとともに緊張の糸が切れ、眠ってしまった。
     それからどれぐらいの時間がたったのか、気がつけば窓の向こうは明るくなっていた。まだあのゾンビのような看護師はいるのかと耳を澄ましても何の音も聞こえてこない。そこで安心し、少年が個室のドアを開けようとするが、向こう側からだれかが押さえつけているように開かない。
     少年が恐る恐る顔を上げると、そこにはドアと天井の隙間から顔を出して少年を見下ろす看護師の姿があった。

     病院や廃墟、廃病院などが舞台になる話や、丑の刻参りをしている女を偶然見てしまい、その女に追いかけられて公園の公衆トイレに逃げ込む話となっているものもよく語られる。しかし学校の怪談として、夜の学校を舞台ととして語られるパターンが非常に多く、その際は看護師が出現する理由として、小学校が建っている場所にはかつて病院があり、それを取り壊した跡地に校舎が建てられた、という話が加えられることもある。
     また押しているのは台車ではなくワゴンであるという場合や、車椅子を押しており、過去の犠牲者の亡骸をその上に乗せて徘徊している、という、より悪趣味になったパターンも存在する。

    ゾンビ看護師の起源

     この話は「看護師」という言葉が定着しておらず、「看護婦」と呼ばれていた時代からあるようで、別冊宝島『現代怪奇解体新書』に収録される小池壮彦の「『怪談』を増幅するメディアという装置 手押し車を押す看護婦・幽霊ボート・髪の伸びるお菊人形」によれば、平野威馬著『お化けの住所録』(1975年刊)にある「手押し車を押す看護婦の幽霊」という話が文献における初出なのだという。

     同書を確認すると、埼玉県上福岡市立第一中学校で起きた幽霊騒動が元ネタだとされる。
     この騒動は戦時中の兵器工場の跡地に建てられた第一中学校で1973年に起きた幽霊騒ぎについて記されており、この学校では夜が更けると手押し車を押しながら白衣の看護婦が現れるが、この看護婦は幽霊で、昼間は便所の左から3番目にいる、という昼間の居場所まで語られている。
     また、この学校は戦時中、陸軍病院があった場所に建てられ、幽霊が出る便所の下には今も何百という遺骨が埋まっている、という話も載せられており、病院の跡地に建てられた学校の要素がすでに確認できる。
     ただし同書では手押し車を押す看護師の幽霊が出る、という話が載せられているのみで、子供を追いかけてくるという話は語られていない。

     先述した『現代怪奇解体新書』において、小池氏は阿刀田高著『子供をおどろかす3分間怪談』(1975年刊)、奥成達著『怪談のいたずら』(1977年刊)において、「ここでもない」といいながら次第に近づいてくる怪談が紹介されていることから、子供たちがこれと看護婦の幽霊の話を組み合わせ、ゾンビ看護師の話が生まれたのではないか、と自身の体験を交えて考察している。ただし、上から覗いているという要素はまだなかったと記している。

     これについては、松山ひろし著『真夜中の都市伝説 壁女』にて、明治時代に天狗に追われて神社の便所に逃げ込んだところ、ひと晩中天狗に上から覗かれていた話があった、と記されているが、該当する怪談については見つけられなかった。今後の課題としたい。

     さて、ここまで主に小学校に伝わる学校の怪談と呼ばれる話を7つ取り上げてきた。そして最初に書いたように、学校の怪談といえば学校の七不思議だ。
     学校の七不思議を7つすべて知ると怪異が起こるという話もある。それを回避するためには、知るのを6つでやめるか、8つ以上知るとよいとされる。
     ここでは、紹介した7つの怪談に加え、学校の七不思議という話そのものを8つ目の怪談として紹介し、怪異が起こらないことを願って筆を置こう。

    (月刊ムー2024年8月号より)

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    朝里樹

    1990年北海道生まれ。公務員として働くかたわら、在野で都市伝説の収集・研究を行う。

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