世田谷文学館に「富江」増殖…! ホラー漫画の鬼才初の大規模個展「伊藤潤二展 誘惑」が開催中

文=杉浦みな子

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    「富江」「うずまき」などを世に送り出すホラー漫画家・伊藤潤二の原画に魅入られる!

    細密な描きこみのホラーワールドへ

     ホラー漫画家・伊藤潤二初の大規模個展「伊藤潤二展 誘惑」が、東京都世田谷区の世田谷文学館で開催中だ。会期は2024年4月27日(土)〜2024年9月1日(日)と約4か月間にわたり、伊藤潤二の自筆原画やイラスト、絵画作品など、デビュー前から現在に至るまでの関連資料が一堂に展示されている。その展示点数は、なんと約600点!

     デビュー作品の「富江」をはじめ、「うずまき」「死びとの恋わずらい」「双一」など日本だけでなく海外でも人気のシリーズ漫画のほか、「首吊り気球」「伊藤潤二の猫日記 よん&むー」「溶解教室」などの原画、さらに本展用に描き下ろした新作の絵も公開中だ。伊藤潤二ファンやホラー漫画ファンには見逃せない内容となっている。見どころの一部を紹介しよう。

    一般公開に先立って開催されたマスコミプレビューでは、伊藤潤二氏ご本人が登場! 約600点という膨大な展示内容を振り返り、「37〜8年描いてきたけれど、あっという間だった」と語った。
    展覧会の挨拶パネルにも、直筆サインとイラストが。

    初っ端から富江に誘惑される

     まず本展、タイトルに「誘惑」と付いているのが秀逸だ。そう、「誘惑とくれば富江」と伊藤潤二ファンなら誰もが思うのではないだろうか。伊藤潤二のデビュー作にして、のちの代表的シリーズとなるホラー漫画「富江」の主人公・富江(とみえ)である。

     富江は、出会ったすべての男性を誘惑する絶世の美女。自分の美貌を鼻にかけた傲慢な性格で、自分に引き寄せられた男性たちを下僕のように扱い、彼らの人生を狂わせていく。

     そして富江に惹かれた男たちは例外なく、彼女に殺意を抱くのだ。しかし、富江は殺されても死なない。富江は、バラバラに切り刻まれた肉片の1つ1つ、血液の1滴、そして細胞の1個から、死亡前と同じ風貌と人格を備えた別々の富江として生まれ変わり、増殖していく。そしてすべての富江は、「自分だけが本物の富江である」という思いを抱いている。

     この「殺されるたびに新たな富江に再生し増殖する」というフォーマットを確立したことにより、富江の物語は時と場所を変えて半永久的に紡がれていく。

     …というわけで、本展のポスタービジュアルに採用されたのが、この富江。もちろん本展用の描き下ろしで、さっそく見た者を誘惑してくる。そして展示会場の中に入ると、まずその原画が来場者を迎えてくれるのだ。

    《富江・チークラブ》2023年 ©ジェイアイ/朝日新聞出版

     このポスタービジュアルのみならず、あまりにも修正跡がなさすぎる。一瞬原画だと気付かないレベルに美しい直筆原画の数々は、ファンならずとも必見である。

    《うずまき》2010年 ©伊藤潤二/小学館
    《放射状輪廻》2019年 ©ジェイアイ/朝日新聞出版

     なお筆者が嬉しかったのは、個人的に好きな「ご先祖様」という短編漫画の原画を見れたこと。そのクライマックスシーンに全くホワイトの跡がないことを目の当たりにして、胸が熱くなった。

    「死びとの恋わずらいおみくじ」は「凶」と「大凶」多め

     マスコミプレビューに登場した伊藤潤二氏いわく、今回の展示でご本人が「これをやりたい」とアイデアを出して実現したのが、人気のシリーズ漫画「死びとの恋わずらい」にまつわるおみくじコーナーだという。

    《死びとの恋わずらい》1997年 ©ジェイアイ/朝日新聞出版

    「死びとの恋わずらい」は、霧深い街を舞台とした「辻占」がキーポイントになる物語。この占いというモチーフにちなみ、今回のイベントでは「死びとの恋わずらい」の原画展示コーナーの一角におみくじが設置されているのだ。

     しかしこのおみくじ、伊藤氏ご本人が「凶と大凶の割合がかなり多く作られている気がするので、引いてもガッカリしないでください」とコメントするほど、とにかく縁起が悪い。
     試しに筆者も引いてみたがちゃんと凶だったし、その前にも2人ほど引いた方がいたが、それぞれ凶と大凶だった。その場で「あ…やっぱ凶でした?」「はい…」という会話が繰り広げられたほどである。いやむしろ作品性を考えれば、凶と大凶の方が当たりなのかもしれないが…。

    展覧会オリジナルグッズも充実

     そして来場者の胸をワクワクさせるのが、グッズ売り場だ。今回の展覧会オリジナルとなる品が豊富で、ファンのコレクション魂をくすぐるものばかり。伊藤氏ご本人も「グッズのデザインが素晴らしい。ここに来ないと買えないものばかり」と太鼓判を押しているので、お見逃しなく。ちなみに筆者もまんまと富江Tシャツを買って帰った。

    大人気作品「うずまき」にちなんだ参加型メディアアートのコーナーも。ぜひ「うずまき」の世界に巻き込まれよう。
    伊藤潤二が中学生の時に初めて作ったというオリジナル漫画の実物も展示されている! 作風・構図からしてすでに仕上がっているのがわかる。
    フィギュア原型師・藤本圭紀氏による「富江」の新作フィギュアも必見。©伊藤潤二 制作:藤本圭紀

     というわけで、少々駆け足になったが、伊藤潤二初の大規模個展「伊藤潤二展 誘惑」の一部をレポートしてきた。もちろんここに書いていない見どころも満載なので、ぜひ堂々と誘惑されに行ってほしい。世田谷文学館で、日常と非日常、ホラーとユーモアを自在に行き来する伊藤作品の世界に震えるひとときを過ごそう。

    <開催概要>
    「伊藤潤二展 誘惑」概要
    【会場】世田谷文学館 2階展示室
    【開館時間】10:00~18:00 *展覧会入場、ミュージアムショップの営業は17:30まで
    【休館日】毎週月曜日 ただし4月29日(月・祝)、5月6日(月・休)、7月15日(月・祝)、8月12日(月・休)は開館、翌平日休館
    【入場料】一般 1,000(800)円/65歳以上・大学・高校生 600(480)円/小・中学生 300(240)円/障害者手帳をお持ちの方500円(ただし大学生以下は無料)
    *混雑時は入場制限あり
    *( )は団体割引・「せたがやアーツカード」割引料金
    *5/10(金)は65歳以上の方は入場無料
    *5/15(水)は「国際博物館の日(5/18)」を記念して入場無料
    *オンラインチケット https://www.e-tix.jp/setabun/

    【世田谷文学館 公式サイト】https://www.setabun.or.jp/
    【展覧会 公式サイト】https://jhorrorpj.exhibit.jp/jiee/

    ©伊藤潤二
    《血玉樹》1993年 ©ジェイアイ/朝日新聞出版

    杉浦みな子

    オーディオビジュアルや家電にまつわる情報サイトの編集・記者・ライター職を経て、現在はフリーランスで活動中。
    音楽&映画鑑賞と読書が好きで、自称:事件ルポ評論家、日課は麻雀…と、なかなか趣味が定まらないオタク系ミーハー。

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