トイレに現れる少女の幽霊「トイレの花子さん」/都市伝説ビジュアル大事典
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都市伝説には元ネタがあった。今回は、だれもが知っている学校の怪談。
紅白、すなわち赤と白といえば、日本では縁起のよい色の筆頭だろう。しかし、トイレに入ったとき、何者かの「赤がいいか、白がいいか」という声が聞こえ、どちらかの色を選択することを迫られたとしたら、それはよいものとはとてもいえない場合がある。
学校の怪談でよく語られるのが「赤い紙・白い紙」と呼ばれる話だ。
内容は、ある子どもがトイレに入ると、どこからか「赤い紙がほしいか、白い紙がほしいか」という声が聞こえてくる。これに対し「赤い紙がほしい」と答えると、その子どもの全身から血が噴きだし、真っ赤になって死んでしまう。
その後、別の子どもがそのトイレに入ると、やはり「赤い紙がほしいか、白い紙がほしいか」という声が聞こえる。そこで子どもが「白い紙がほしい」と答えると、子どもは何者かに首を絞められ、血の気のない真っ白な顔になって死んでしまった、などといった話だ。
この怪談にはいくつかバリエーションがあるが、多くの場合、色を問いかける存在は姿を見せず、声だけが聞こえるものとして語られる。また、問いかけの対象となる色としては、まずほとんどのパターンで赤が選ばれ、他の色は先述したように白、もしくは青の場合多い。
青い紙が登場する話では、青を選んだ子どもは首を絞められて真っ青になって死んでしまっただとか、全身の血を抜かれて真っ青になって死んでしまった、水が流れてきて溺死する、など、血の気がなくなって青くなるか、青から連想される水にまつわる死因が語られることが多い。
また、赤の場合も上からナイフが降ってきて全身が血だらけになる、火に包まれて真っ赤に燃やされるなど、赤にまつわるさまざまな死に方が語られる。上から血が降ってくる、血の中で溺死させられるなど、自分のものではない血液が死因となる話もある。
選ばせる色はこの赤、白、青のうち2色であることが多いが、3色同時に聞かれる場合や、黄が入ることもある。黄色の場合は糞をかけられる、黄色いガスが発生するなど、やはり黄色から連想される現象が発生する。
また、選ばされるのは紙以外のものである場合も多い。有名なのは「赤マント・青マント」で、「赤いマントがいいか、青いマントがいいか」と問いかけられる。この場合は赤を選ぶとナイフで切り裂かれて血まみれに、青を選んだ場合は血を吸われて真っ青になるなど、赤い紙・青い紙とほとんど同じ展開が見られる。ただし「白マント」の話はほとんど例がなく、赤と青のマントを選ばせる怪談が多数を占める。
他にも「赤い洋服・青い洋服」「赤いちり紙・青いちり紙」「赤いボール・青いボール・黄色いボール」「赤いハンカチ・青いハンカチ」など、学校生活や日常生活で使用されるようなものの色を問う話があったり、「赤い世界・青い世界」「赤い舌・青い舌」など、そもそも通常は色に注目しないようなものを選ばせる話も存在する。
珍しいパターンとしては問いかけを行う存在が姿を現わす話もあるが、その姿はコウモリだったり、老婆だったりと安定しない。
そして、これらの色を問う怪談は、どの話においても何らかの存在から与えられた選択肢の中からどの色を選ぶかによって、その人間の末路が決まる。稀に特定の色を選ぶことで危機から脱することができるパターンもあるが、多くの場合は悲惨な最期が待っている。
しかし、色を選ばせるものは現代になって出現したわけではない。実は近代の沖縄にも「赤い紙・白い紙」のように赤と白を選ばせ、選んだ色に合わせて人間を悲惨な目に遭わせる妖怪がいた、という伝承が記録されている。
その妖怪の名前は「ヒチマジムン」という。
島袋源七著『山原の土俗』(1929年)によれば、ヒチマジムンは道の辻にいる幽霊の一種で、道を通る人を迷わせたり、凄まじい速さで走って人を連れ去り、神隠しを起こすのだという。そしてこのヒチマジムンが取る行動のひとつに、人間に「赤飯」と「白飯」を選ばせ、選んだ飯を振舞うと告げる、というものがある。
このとき、赤飯を選んだ人間は赤土を食わされ、白飯を選んだ人間は海に連れていかれて波の泡沫を食わされるのだという。
赤と白を選ばせ、その回答によって色に合わせた悲惨な目に遭わせるという展開は「赤い紙・白い紙」によく似ている。また、「赤い紙・白い紙」は学校のトイレに現れることが多いが、小山真夫著『小県郡民譚集』(1933年)には、貉の化けた老婆に狙われる小僧に便所の神様が赤、青、白の紙を渡すという話が記録されている。この赤、青、白の紙はそれぞれ投げると火の山、大川、ばら山(イバラの藪が生えた山)に変化し、老婆の進行を邪魔して小僧の逃亡を助けるアイテムとして登場する。昔話としても知られる「三枚のお札」から派生したと考えられる話だ。
ASIOS・廣田龍平著『謎解き「都市伝説」』において、廣田龍平氏はこの便所の神が直接「赤い紙・青い紙」に落ちぶれたわけではないが、戦前のどこかの時点で申し出の言葉だけが切り出され、猟奇的な言葉遊びへ変形した可能性はある、と指摘している。
同書によれば、色を選ばせる話ではないものの、1929年にはすでに兵庫県尼崎市のある小学校で、低学年の子どもたちの間に、便所に行くとお化けが「赤い紙やろか、白い紙やろか」と言われる、という話が広まっていたことがあったようだ。
もしひとりでトイレに入ったとき、何者かに赤と白のどちらが好きかと尋ねられても、決して答えてはならない。どちらの色を選んでも、待っているのは明るい未来ではないのだから。
朝里樹
1990年北海道生まれ。公務員として働くかたわら、在野で都市伝説の収集・研究を行う。
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