銭の蛇を拾って死亡、怪人・山黒様が突如訪問…荒木家妖怪絵巻は江戸のUMA実録本だ!(前編)
昨夏放送のお宝鑑定番組で大注目された、みんな大好き(?)荒木家所蔵の妖怪絵巻。そこには、妖怪というよりもUMAでは……?と思われるような、あまりに具体的な目撃談が多数記されていた!
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都市伝説には元ネタがあった。体内で育ったソレは何?
人間の体内にいつの間にか別の生物が潜んでいる。それは想像するだけでおぞましいが、多くの都市伝説でこの類いの話が語られている。有名なのは体内にタコが宿る話だ。具体的には以下のような形で語られる。
ある厳格な家に住む高校生の少女が夏休みに友人たちと海で遊んだ。その際、少女はサーファーの若者と仲よくなり、恋に落ちた。
そして新学期が始まると、なぜか彼女の腹部が膨らみはじめた。両親は娘の妊娠を疑ったが、少女は決してそのようなことはないと否定する。しかし腹部はどんどん膨れていき、少女の体調も悪化していったため、心配した母親が少女を病院に連れていった。病院の医師がレントゲンを撮ると、少女の子宮内に大きな腫瘍のようなものが写ったため、急いで検査を行った。その結果、医師たちは絶句した。少女の子宮内にあったのは大きく成長したタコだったのだ。
実は少女が海で泳いでいる際、偶然にも海中を漂っていたタコの卵が彼女の子宮に入り、そこで孵化、成長していたのだ。そのタコは体内から摘出された後、ホルマリン漬けにされて今も病院に保管されているという。
この話は元々アメリカで語られていた都市伝説で、民俗学者ジャン・ハロルド・ブルンヴァンの『ドーベルマンに何があったの?』によれば、1948年以前には記録された例があったようだ。
アメリカやヨーロッパはこれに類似した話が多くあり、その一部はタコの話のように日本に入ってきて都市伝説として流布している。たとえばキャンプに行った少年が川で水を汲んで飲んだが、その際に何か固形物を飲み込んだ。少年はたいして気にしなかったが、それからしばらくして異常な腹痛に襲われ、病院に行くと、胃の中に蛇がいた。彼が飲み込んだのは蛇の卵だったのだ、という話がある。
体内に蛇やトカゲが侵入する話は元々ヨーロッパで広く語られている話のようだが、アメリカや日本でも知られている。
よりグロテスクな展開になるのは虫にまつわる話だ。たとえば髪の毛の中にクモが卵を産み、それが孵化して皮膚を食い破って頭の内部に入り込み、脳を食っていた、という話があるが、これはアメリカ、日本の両方で語られている。またアメリカではハサミムシが耳から入り込み、中で繁殖して脳を食っていたという話もよく知られている。
こういった虫の話から派生して日本で生まれたと思しき都市伝説に膝裏のフジツボの話がある。内容は海で遊んでいた学生が岩場で転んで膝を切った。あまり深い傷ではなかったが、後日、膝が非常に痛み出し、病院に行った。そこで膝を切開してみると、皮膚の下にびっしりとフジツボが繁殖していた。実はこの学生が足を切った岩場にはフジツボが張りついており、切り傷からそのフジツボの卵が体内に入って繁殖していたのだ、という内容だ。
このように都市伝説において、人体はさまざまな生物が繁殖する場となっている。それらは普通の生物が偶然体内に入り、成長、繁殖すると語られるが、明治時代の日本には、全く別の理由で体内にタコが入り込む話がある。それが作家であり、怪談、奇談収集家であった田中貢太郎の『新怪談集実話篇』に記された、その名も『妖蛸』と題された話である。
それによれば、明治22、23年のこと。北海道函館市の立待岬でふたりの男女が身投げし、心中したが、女のみ生き残った。男は山下忠助という海産問屋の若旦那で、女は函館の花柳界で知られた水野米という常磐津の師匠であった。
米はその後、何事もなかったように五稜郭近くに住む網元の妾となった。3年ばかりして米の腹が膨らみはじめたが、それは妊娠ではなく、原因不明の奇病であった。米の腹は日に日に大きくなっていき、そのまま死んでしまった。
死体は火葬されたが、不思議なことにその死体は手足ばかりが焼けて、胴体はそのままであった。火葬担当者は用意していた薪がなくなっても焼けきらない死体に我慢しきれなくなり、側にあった漁師の手鉤を手に、死体の腹に打ちつけた。するとその腹が裂け、中から大きなタコが出てきてその場にいた達磨の新公という男に飛びかかった。
達磨の新公は米の弟であったが、実の弟ではなく、米が歌妓をしていたころからの情夫であった。タコはこの達磨の新公に向かって真っ黒で毒々しい墨を吐きつけた。それは新公の顔から胸の辺りを真っ黒に染め、新公はもだえ苦しんだ。タコは隠坊により叩き殺され、その後、さらに薪を追加してタコもろとも残った米の死体が焼かれたが、今度はすぐに焼けた。
それから数日跡、網元の主人が火鉢の傍でうとうととしていると、米の姿が見えてしきりに謝った。主人がはっと思って目を開けると、あの新公が悶死したという知らせがきた。
その後聞いた話によれば、実は米が海産問屋の若旦那と立待岬から投身したのは、新公が仕組んだものであったという。米は水泳の心得があったため、身投げすると見せかけてそのまま沖のほうへ泳ぎ、新公の小舟に乗り込んでいた。それを見た若旦那は米を追ったが、米と新公は舟板を使って若旦那を散々に殴りつけて沈めた。その恨みがタコとなって米の体内に宿り、米と新公を殺したのだ。
体内に別の生物が入り込む、それは人間が本能的に恐怖する現象だ。しかしそれが本当に野生の生物なのか、それとも因縁によって生じた不合理な存在なのか、それは体内に宿ったものが外に出てくるまで分からないのかもしれない。
(月刊ムー 2024年3月号掲載)
朝里樹
1990年北海道生まれ。公務員として働くかたわら、在野で都市伝説の収集・研究を行う。
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