翼をもつ不可思議な遺物は古代の航空機か?「黄金ジェット」の謎 /羽仁礼・ムーペディア

文=羽仁礼

    毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、南米コロンビアの古代遺跡から発見されたという奇妙な形状の黄金製オーパーツについて取りあげる。

    著名な超常現象研究家が着目した謎のオーパーツ

    「オーパーツ」と呼ばれる一群の物品がある。オーパーツとは、英語で「場違いな加工物」を意味する「out-of-place artifacts」を略した名称で、ときおり古代の遺跡から出土する、当時の技術ではとうてい作成できないと思われるような物体を意味する言葉だ。
     オーパーツとしてしばしば紹介されるものには、ナスカの地上絵やエジプトの大ピラミッド、イースター島のモアイなど、当時の技術では建造不可能ではないかとされる古代遺跡類や、エジプトの神殿に刻まれた白熱電球やヘリコプターを思わせる浮き彫り、イラクで発見された電池として機能する壺など、多くのものがある。
     南米コロンビアで発見されたという「黄金ジェット」も、関係書ではほぼ必ず取りあげられる有名なオーパーツのひとつだ。

    コロンビアの古代遺跡から発見されたというプレ・インカ時代の黄金細工。現代の航空機にも通用するその特異な形状から、「黄金ジェット」と呼ばれている。

     オーパーツという名称を考えだしたのは、超常現象研究家として名高いアイヴァン・サンダーソン(1911〜1973)であるが、この黄金ジェットを世界に紹介したのもサンダーソンであった。
     サンダーソンはイギリスのエディンバラで生まれた。父はウイスキー醸造業者であったが、5歳のとき家族とともにロンドンに移住し、イギリスのエリートたちが集う名門ハイスクールのイートン校を経てケンブリッジ大学に入学、動物学や地理学、植物学を学んだ。
     他方、若いころから世界各地を旅行し、旅行先の事物や経験を多くの著作に記して有名になった。彼によればこうした旅行中、アフリカのカメルーンにあるアスンボ山で、オリティアウという、巨大なコウモリのような怪獣に遭遇したり、タイムスリップを経験したということで、どうやらこのころから超常現象には関心があったようだ。第2次世界大戦中はイギリス海軍の情報部で働き、アメリカのニューヨークで終戦を迎えるとそのまま留まり、1947年にはアメリカに帰化している。その後は動物の専門家として自ら動物園を経営したり、テレビやラジオの番組に頻繁に出演する一方で、さまざまな雑誌に記事を掲載した。
     彼は動物学の専門家として活動するだけでなく、超常現象の分野でも大きな足跡を残している。イエティやモケーレ・ムベンベ、ミネソタのアイスマンなど、現在「UMA」と呼ばれている存在についても先駆的な研究を行い、「未知動物学」という名称を提案したのもサンダーソンだといわれている。
     オーパーツの命名だけでなく、空からカエルや石など奇妙な物体が降ってくる現象を「ファフロツキーズ」と呼んだのもサンダーソンで、ほかにもUFOや謎の消滅現象の研究でも後世に大きな影響を残している。
     そのサンダーソンが1970年の著書『UFO海底基地説』で紹介したのが黄金ジェットである。

    航空専門家たちも認めた黄金ジェットの飛行能力

     黄金ジェットとは、紀元後500〜800年、プレ・インカの時代にあたるシヌーの産物とされる黄金の細工物のことである。だがその形状は、古代に存在したいかなる動物や物品にも似ていない奇妙なものなのだ。

    黄金ジェットは全長約10センチ、幅約5センチの小さな遺物で、鳥や魚などの動物を象ったものという指摘もあるが、動物的でない形態のほうが際立っている。
    真横から見た様子。水平に伸びた三角翼やコックピットのようなくぼみがよくわかる。

     全体的にずんぐりした紡錘形をしており、先端は三角形になっているが、胴体の両側にはデルタ翼航空機を思わせる三角形の翼がついている。さらに先端部と胴体を区切る部分には、まるでコックピットのようなくぼみが掘られており、末尾には垂直尾翼と水平尾翼のようなものもある。そう、それは現代のジェット戦闘機にそっくりなのだ。

    黄金ジェットはデルタ翼を採用した戦闘機F-102(上)や超音速機コンコルド(下)との相似を指摘されている。

     サンダーソンはこの見解について、何人かの航空専門家にも照会してみた。すると、彼らも同じような意見を述べたのだ。
     たとえば、ベル式ヘリコプターや飛行機の設計技師として知られるアメリカのアーサー・ヤングは「直線的なデルタ翼は、とても鳥などの翼とは考えられない。垂直に立った尾翼も航空機独特のものだ。翼は重心と一致するためにはもっと前にあるべきだが、もし機尾にジェットエンジンを備えているとしたら話は違う」と述べた。
     また、世界初のロケットパイロットとして知られるジャック・A・ウーリッチも次のように証言している。
    「デルタ翼と胴体の先細りの形から判断して、もしコックピットに透明ガラスがはめ込まれていることが前提とすれば、この物体の推進機構は明らかに低速のプロペラ式ではなく、ジェット機かロケット式、あるいはそれ以上の未知のエンジンでなければならない。超音速機コンコルドの形状を見ればわかるように、このタイプのデルタ翼機であれば、急角度の上昇と急速度の飛行・離着陸など、高性能を発揮できるだろう」。
     こうして、サンダーソンが紹介した物体は一躍世界的に有名なオーパーツとなり、その後幾多の関係書に繰り返し掲載されてきている。

    超常現象の研究で世界的に知られるアイヴァン・サンダーソン。黄金ジェットがデルタ翼の特徴を持つオーパーツであると主張した。
    サンダーソンが黄金ジェットについて触れた著書『Invisible Residents』(邦題『UFO海底基地説』)。

    実在性を含む謎とともに姿を消した

     ところが、サンダーソンの黄金ジェットについては、少々問題がある。というのは、これが実在したものかどうか不明なのだ。

     サンダーソンによれば、これは1954年、コロンビアの黄金製品がアメリカで展示された際、複製された6点のうちのひとつだという。このときアル・ジャールという人物が、展示会の責任者から展示品を複製する許可を得た。つまり、貴重な展示物が盗まれないよう、会場には金メッキの複製を展示するということになったのだ。
     そこで、これまでも貴重な美術品の複製を行った経験のある、エマヌエル・スタウグという、フィラデルフィアの宝石商が複製を依頼された。
     そのスタウグがのちに店を人手に渡すことになり、そのために店内を整理しているときに再発見されたのが、この黄金ジェットの鋳型だった。サンダーソンが紹介したのは、その際スタウグがあらためて作成した模造品だったのだ。

     つまり、サンダーソンは実物を手にしたわけではなく、この装飾品が本当にコロンビアの遺跡から出土したものかどうかはおろか、現在どこにあるかも不明となっているのである。
     他方、サンダーソンのものとは形が異なるが、紡錘形の胴体に翼と垂直尾翼を持つ黄金細工は、コロンビアだけでなくペルーやコスタリカなどからも出土しており、コロンビアの首都ボゴタにある黄金博物館には、このような出土品がいくつも展示されている。

    コロンビアの首都ボゴタにある黄金博物館。スペイン征服以前の先住民文化にまつわる膨大な黄金細工がコレクションされている。

     じつは筆者は1995年、この黄金博物館を実際に訪れたことがある。この博物館はペルー国立銀行の附属博物館という位置づけで、筆者が訪問した後、2008年に大規模な改修が行われている。筆者が訪れたころは、一見オフィスビルのような四角い建物で、展示室は1階から3階まであった。
     その際、必死になって問題の黄金ジェットを探したが、サンダーソンが紹介したようなものはどこにも展示されていなかった。もちろん収蔵物全部が展示されているとは限らないが、同博物館のホームページなど関連サイトを検索しても、オーパーツ関係の著書ではほぼ必ずお目にかかるこの同じジェット機がまったく見つからない。
     他方、翼を持つ黄金製品は十数個展示されていた。大きさはいずれも5センチくらいの小さなものだった。手作りであるからそれぞれ少しずつ形が違い、そのほとんどは、先端部の後ろにコックピットのようなくぼみがあり、水平尾翼と垂直尾翼を供えていたが、水平尾翼のないものもあった。
     三角形に近い形の翼を持つものは1個だけ見つけたが、ほかのほとんどは、翼が鳥の羽根のように湾曲しており、その多くは翼の表面が鱗、あるいは羽毛のように見える細かな丸い模様で覆われていた。

    黄金博物館に所蔵されている翼をもつ黄金細工の数々。黄金ジェットに似た造型だが、黄金ジェットよりは鳥などの動物的な要素が感じられる。

    古代の黄金細工の造型に秘められた意味とは?

     この造型をどう解釈するかは人それぞれかもしれない。ただ筆者としては、湾曲した翼の形や羽毛のような模様から、本来鳥を象っていたものが細工者によって独自のデフォルメを加えられ、それが発展してジェット機のようなものが生まれたのではないかと考えている。
     実際どの造型も、頭部に相当する部分には目を表すようなふたつの球をもっており、コクピットのようなくぼみ部分も頭部と胴体をはっきり区別するために掘られたもののように見える。鳥にはない水平尾翼も、上から見ても横から見ても尾の存在がわかるように工夫した結果ではないだろうか。
     さらに、こうした造型が本当にジェット機を象ったものとすれば、一番目立つはずのジェット噴射口を持つものがない。
     博物館の係員も、これらについては鳥を象ったものと考えた模様であり、木の枝のようなシルエットの上に点々と展示してあった。

     もっとも、こうした細工物すべてが鳥であると断定することもできないかもしれない。
     というのは、博物館の黄金細工には、魚やほかの動物をかなりメカニカルな形にデフォルメしたものもある。サンダーソンが紹介した物品についても、形だけを見ると、鳥よりも現地で「プレゴ」と呼ばれる魚に似ているようだ。また、何種類かの動物の特徴を組み合わせて造型したという説もあるようだ。

    黄金博物館の絵はがき。この黄金細工には歯のようなものがあり、鳥というよりは魚を思わせる。

     ともあれ、サンダーソンが残した影響はかなり大きい。たとえば、カリブ海の島国バルバドスには、2003年に退役したコンコルドの現物を1機展示するアトラクションがある。
     ここでは、実際に座席に座ったり、操縦席を覗いたりできるのだが、コンコルドの格納庫の外にある、アトラクションの概要を記した何本かの幟のひとつに、サンダーソンの黄金ジェットの写真が印刷されている。その説明を読むと、古代インドや中国の飛行装置にも触れており、まさに古代のジェット機としての扱いだった。
     その出自や正体の謎はさておき、黄金ジェットが世界の人々の関心を引いてやまないオーパーツであることは間違いないだろう。

    バルバドスのコンコルド博物館で見つけた幟。黄金ジェットは「古代のジェット機」として扱われていた。


    ●参考資料=『UFO海底基地説』(アイヴァン・T・サンダーソン著/大陸書房)、『世界のオカルト遺産調べてきました』(松岡信宏著/採図社)、『神々の遺産オーパーツ大全』(並木伸一郎著/学研)、黄金博物館ホームページ

    羽仁 礼

    ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
    ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。

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