天空の楽園を映した紀行ドキュメンタリー映画「JULLAY 群青のラダック」
ヒマラヤに生きる人々の生活を見つめるドキュメンタリー映画が公開!
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文=大槻ケンヂ 挿絵=チビル松村
「インドの山奥で」から始まる替え歌は亜種が亜種を産み、原曲や作品よりも有名になった。その意図は……お釈迦さまでも、気がつくまい。
昭和を共に生きてきた御同輩なら「レインボーマン」はもちろん御存知だ。知ってるどころかある種のトラウマになっている人も多いかも。72年放送の特撮ヒーロードラマ「愛の戦士レインボーマン」は、僕らが観てきた「仮面ライダー」や「ウルトラマン」などとは一線を画す独特過ぎる内容だった。
主人公ヤマトタケシはレスリングを得意とする高校生。足の悪い妹の治療費を稼ぐため、プロレスラーになろうと励んでいる。そんな彼がある時、雑誌のグラビアに空中浮遊するインドの聖者の写真を見つける。
「これだ! この人にプロレスを学ぼう!」
ギャングスタラッパーを志すバッドボーイが「おら東京さ行くだ」の動画を観て吉幾三に弟子入り志願するかのそれは大いなる勘違いである。
だが、……タケシは本当に聖人に会いにインドまで行ってしまう。そしてやっと聖人ダイバ・ダッタと出会い、崖の上からつき落とされたり火の上を歩かされたり「それプロレスに必要?」という過酷な修行を経て、ついに念願のプロレスラー……にはなれず、かわりにレインボーマンという変身ヒーローにされて、日本人全滅計画を企てる怪人・ミスターK率いる組織「死ね死ね団」と戦うために、日本まで空飛んで返されてしまうのだ。浅草のアニマル浜口道場に行っときゃよかったのに!
「死ね死ね団」のテーマ曲というのがまた「死ね!死ね!!日本人は邪魔っけだぁ!!」などと連呼する”昭和はやばかった”案件、ノーコンプラ曲なのだ。そもそもドラマ主題歌が「インドの山奥で修行をして」で始まるおよそヒーローものとは思えない詞だった。
その後「ダイバ・ダッタの魂宿し」とつながるのだが、面白いことにこの歌「インドの山奥で」の後、無限の数の替え歌が存在しているのだ。
例えば僕は小学生の頃「インドの山奥でんでんでんどく豆上手いまめ~だか~の学校わ~かば~が町に急に生え出しタンタン狸の金玉は~風もないのにブーラブラ」と歌っていた。中野区である。これが神奈川県在住の知人の場合「インドの山奥でんでんかたつむりんごは真っ赤っかーちゃん怒りんぼーくは泣いちっちはるのたちしょんべんじょの戸が開かない!」であったそうな。下ネタが多いのと流行歌(「若葉のささやき」「僕は泣いちっち」)を織り交ぜている共通点がある以外、まるで異なる歌詞だ。
これは一体なんなのだろう? と思いSNSで募ってみたところ、来るは来るは。そしてやはり皆違っていた。
「インドの山奥出っ歯のおじさんガイコツ食べて死んじゃった」(50代・練馬)
「インドの山奥でっぱのハゲあたまんじゅう食いたいなっぱのゴリライもも食って死んじま円盤空を飛ぶ~たが鳴いてるすばんオモロイ」(昭和50年代前半から中頃くらいの長野県松本市の某小学校)
「インドの山奥でっ歯のおじさんガイコツ拾って死んじゃったーこたーこ上がレインボーマンたぬきの立ちしょー便所におっこった」(50代前半・埼玉県西部)
果たしてガイコツは食べて死ぬものなのか拾って死ぬものなのか、わからないが、驚くべきことに1987年には、靴のアキレスのCMで明石家さんまがレインボーマン主題歌の替え歌を、メロディーはまるで異なるが歌っている。おそらくCMに引用されるくらい当時、「インドの山奥で」からの替え歌が子供たちに浸透していたのであろう。
ちなみにCMでは「インドの山奥電報届け田んぼの真んな彼女の秘密わかっちゃいるけど~」というような詞であったらしい。面白いことに、この詞をそのまま教室で流行っているオリジナル替え歌としてCM放映前から歌っていたと記憶している人もいるようなのだ。反面、「彼女の秘密わかっちゃいるけど」と急に恋愛ソング風にシフトするあたり、CM化にあたってのプロ作詞歌の導入のにおいも感じさせられる。どちらにせよ奇妙な替え歌だ。
それにしてもこの「『インドの山奥で』問題」であるが、替え歌大流行の原因の一つは、口裂け女の都市伝説の時と同様に、当時子供たちの情報共有の場として機能していた学習塾の存在が大きかったのだろう。誰かがたわむれに学習塾で口ずさんだ替え歌が学習塾を介して他校の子供達にも広がっていったのではないか。
だが、原因はそれだけなのだろうか?
「若葉のささやき」「僕は泣いちっち」などは、当時の小学生にとってもはるか昔の流行歌であった。特に後者は59年の曲なのである。流行った頃生まれてもいない。そんなものを子供らが替え歌におり込むであろうか? そもそもどの替え歌もセンスが古い。戦中戦前の感がある。もしかしたら、誰か、大人が仕掛けたと考えることはできまいか?
ヤマトタケシに秘術を教えた聖人ダイバ・ダッタは、その名を「提婆達多(ダイバダッタ)」から取っている。提婆達多は釈迦のいとこにして釈迦教団の大敵である。キリスト教でいえばユダのような立場の名の者になぜヤマトタケシが師事するドラマ設定となったのか?
これはレインボーマン原作者・川内康範の発想であると思われる。川内康範は「月光仮面」の原作者でもあり「憎むな、殺すな、許しましょう」と月の使者に言わせた慈愛の作家である。例えお釈迦様の大敵あろうとも、むしろその憎むべき存在の中にこそ愛の戦士として学ぶべきところがあるのである……みたいな川内先生の偉大な考えがあってのダイバ・ダッタ師事だったのではないかと考えられる。
しかし『やっぱ、お釈迦様の大敵に愛の戦士としての知恵を学ぶなんて話、許せない!』と強く思う人々(宗教的派閥)も当時あったのではないか? いや、あったろう。では彼らはその時どうしたか? 何らかの方法で番組に圧力をかけることも考えただろうが、川内康範先生と言えば、いろんな世界に顔の効くある種のフィクサーとしても有名な人物であった。よほどの騒動になることは必至である。
『大事になるのはちょっとな~。それでも、提婆達多の魂を宿してヒーローになるなんて話は許せない! 提婆達多を出したくない。だけど川内先生だしなぁ……え、あの主題歌も川内康範が作詞したの!? ったく……う~ん、せめてあの主題歌だけでもなんとかならんかな~、インドの山奥でってなぁ~う~ん、その後がな~、インドの山奥で……う~ん、あ! そうだ!!』
インドの山奥で、以後を替え歌にして、提婆達多の名前を歌詞で出さないようにすればいいんだ!「インドの山奥で~」から後に違う歌詞を作らせる替え歌遊びを子供たちに流行らせればいいのだ。それなら学習塾だ。
『今すぐ塾に行って、インドの山奥で提婆達多に会わない歌を子供達に流行らせさせるんだ!』
当時はビデオなどというものは一般的ではなかった。特撮ヒーローテレビの記憶を捏造するならテーマ曲をいじってしまう事の方が得策と言えた。こうしてアンチ提婆達多仏教派閥集団の陰謀によって策略的に、草の根的にレインボーマン主題歌「行け、レインボーマン」の詞は改竄され、そして替え歌は僕たちに蔓延することになったのだ。
……と個人的にはそう「『インドの山奥で』問題」を推理するのだが、後年、川内先生は森進一が作詞曲「おふくろさん」に勝手に前フリの作詞を付けていたことに激怒、森の謝罪も一切受けようとしなかった。「おふくろさん」の歌詞改変については激怒したのに、「インドの山奥で替え歌問題」について先生が怒りをあらわにしたという話を僕は知らない。それはなぜ? この件についても実は僕には察するところあるのだが長くなった。そちらはまたの機会に発表することとしたい。「インドの山奥で」問題、さてアナタはどんな歌詞で歌っていましたか?
大槻ケンヂ
1966年生まれ。ロックミュージシャン、筋肉少女帯、特撮、オケミスなどで活動。超常現象ビリーバーの沼からエンタメ派に這い上がり、UFOを愛した過去を抱く。
筋肉少女帯最新アルバム『君だけが憶えている映画』特撮ライブBlu-ray「TOKUSATSUリベンジャーズ」発売中。
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