「ダイソン球」に代わる異星文明探査の新基準「馬蹄形系」とは? 同一軌道上でも絶対に衝突しない惑星たちの謎

文=仲田しんじ

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    もしも地球の公転軌道上に第2、第3の地球が(もちろん互いに衝突しない形で)存在したなら、我々の暮らしはずいぶんに楽になるだろう。そして、それこそが先進文明が根付いていることの証であるかもしれないという。なんと、最大24個の地球を同一軌道上を配置できるというから驚きだ――。

    もしも地球が同一軌道上に24個あったら?

     大宇宙の無数にある星々の中から、文明が存在している天体を特定するには何を手がかりにすればよいのだろうか。

     文明の発展度を示す基準「カルダシェフスケール」におけるタイプ2の文明は、恒星のエネルギーをすべて活用できる技術水準に達した文明だ。このタイプ2の文明は、恒星をすっぽりと覆ってしまう超巨大構造物である「ダイソン球」や、円盤型の超巨大建造物である「オルダーソン円盤」を作り上げて活用していると考えられるため、それらの巨大構造物を探せば先進文明が繁栄する場所を突き止められることが示唆されている。

    ダイソン球 画像は「Wikimedia Commons」より

     しかし、そのような見慣れない構造物を探す必要はないのかもしれない。ボルドー大学の天文学者ショーン・レイモンド氏をはじめとする研究チームが今年3月、学術誌『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』で発表した研究では、先進文明はハビタブルゾーンの公転軌道上に複数個の惑星を配置して恒星のエネルギーを有効活用している可能性があり、そのような恒星系を探すことが文明の発見に繋がることを指摘している。

     恒星を取り囲む超巨大構造物を作るよりも、地球と同サイズの惑星を公転軌道上に並べたほうが容易であるし、賢く恒星のエネルギーを利用することができると研究チームは説明している。

     複数の天体が同じ公転軌道上を移動しているケースは、土星の衛星で確認されている。土星の衛星であるエピメテウスとヤヌスは同じ公転軌道を移動しているのだが、公転速度は内側の衛星の方がわずかに速い。外側の衛星は内側の衛星より徐々に遅れていき、4年かけて追いつかれて追い抜かれるのだが、この時にお互いの重力に引き寄せられて、追い抜かれる瞬間に衛星の軌道が入れ替わるという。そして2つの衛星は徐々に離れていくことになる。

     軌道の内側に位置し、速く移動する衛星は、そのぶん長距離を移動するため軌道がU字型になることから、この軌道は「馬蹄形軌道」と呼ばれている。つまり、馬蹄形軌道の惑星を持つ恒星系を見つけ出すことができれば、そこに文明が存在する可能性は他よりも高くなるというわけだ。

     軌道の内外が入れ替わることで、複数の天体がぶつかることなく同じ軌道上を公転できるメカニズムがわかったのだが、では、同一軌道上にどれくらいの数の天体を配置することができるのだろうか。

     研究チームが太陽系をモデルにしたコンピュータシミュレーションを使って検証したところ、地球の公転軌道には最大で24個の地球サイズの惑星を配置可能であるとの結果を導き出した。シミュレーションでは、24個もの地球は少なくとも数十億年間は何のトラブルもなく公転を続けたということだ。

    画像は「Wikipedia」より

    馬蹄形系は人為的に作られた可能性が高い?

     カルダシェフスケールでタイプ2の文明であればダイソン球を構築できることになるが、それよりも技術的に容易で、はるかに低コストでシステムの構築が可能なのがこの“24個の地球”であり、こちらを選ぶほうが賢明であると研究チームは説明する。しかも、タイプ2の技術水準に達していなくとも“24個の地球”は可能であるかもしれない。そして24個でなくとも、たとえば2個でも3個でも地球が複数あるだけで文明の存続にとって大きなアドバンテージになることは明らかだ。

     残念ながら、まだシミュレーションでも現実でも馬蹄形軌道上に2つ以上の惑星がある恒星系は発見されていないが、もしも観測できた場合は、そこに先進的な知的文明が存在している可能性がある。

    「3つ以上の惑星を含む馬蹄形系こそが、太陽系外の生命探査における合理的かつ優れたターゲットになると思います」と、レイモンド氏は科学系メディア「Inverse」に対して説明している。

    画像は「Pixabay」より

     とはいえ、そのような惑星を地球上から観測して特定するのはなかなか複雑な作業になるという。この分野についてはまだまだ学ぶことがたくさんあるということだ。

    「最初のステップは、同じ軌道を共有する2つ(またはそれ以上)の惑星を見つけることです」と説明するレイモンド氏だが、そのプロセスには約10年の観察が必要になるという。

    「馬蹄形系は、そもそも自然なものではないか、驚くほどクールな惑星形成の結果か、のどちらかなのです。いずれにせよとても興味深いものです」(レイモンド氏)

     環境問題について問題が山積する我々にとって、同一の公転軌道上に地球がもう1つあるだけで御の字ということになりそうだ。はたして、この広い宇宙には自分たちの惑星のコピーを軌道上に何個も加えて活用している先進文明がどこかで繁栄しているのだろうか。研究と観測の進展に期待したい。

    【参考】
    https://www.inverse.com/science/planets-sharing-a-weird-orbit-could-be-evidence-of-alien-architects
    https://gigazine.net/news/20230602-evidence-alien-architects-horseshoe-system/

    仲田しんじ

    場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
    ツイッター https://twitter.com/nakata66shinji

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