シュメールの神々は宇宙から飛来し、地球に文明を授けた!? 惑星ニビルと異星神アヌンナキ/羽仁礼・ムーペディア

文=羽仁礼

    毎回、「ムー」的な視点から、世界中にあふれる不可思議な事象や謎めいた事件を振り返っていくムーペディア。 今回は、古代シュメールの神話に秘められた惑星と異星神、そして人類と文明誕生に関わる仮説について取りあげる。

    古代の世界創生神話に秘められた真意とは?

     古代バビロニア時代の文書に、『エヌマ・エリシュ』と呼ばれるものがある。一部は欠損しているが、その内容はほぼ解読されており、紀元前18世紀ごろの世界創世神話が記されていることも明らかになっている。考古学者が解読したその神話の概要は以下のようなものだ。

     ——原初世界には天も地もなく、真水である男性神アプスと、塩水である女神ティアマトだけがいた。ふたりの神は混じりあい、ラフムとラハムを生んだ。さらにラフムとラハムはアンシャールとキシャールというふたりの神を生み、このふたりがアヌを、アヌがエアを生んだ。
     その後も次々と神々が生まれ、彼らは大騒ぎをはじめた。これをうるさがったアプスは家来のムンムと相談して神々を滅ぼそうとするが、知恵の神エアは事前にそれを知り、アプスとムンムを成敗してしまった。このエアの子がマルドゥクである。
     しかしマルドゥクは乱暴者であったので、ティアマトは2番目の夫キングゥに11の怪物を率いさせ、マルドゥクを討伐しようとする。恐れをなしたエアは、マルドゥクを祖父キシャールの許に向かわせた。
     キシャールはマルドゥクに対し、ラフムとラハムを訪ね、神々の会議を開くよう促し、使者のガガを同行させた。神々の会議が開催されると、ティアマトのほうが謀反人とされ、マルドゥクにその討伐が命じられることとなった。マルドゥクは、自分が神々の最高位に就くことを条件にこれを受け入れた。
     こうしてマルドゥクはティアマトと対決してこれを倒し、その身体をふたつに引き裂いて天と地を作った——

     普通に読むと、神々の祖が魔物と化して子孫に討伐され、その身体から天地が創造されるという創世神話の一形態である。神々の王位が簒奪されるのは、古代における王権の交替を反映しているのかもしれない。

     ところが、イスラエルのゼカリア・シッチンは、1976年に発表した著書で、まったく異なる解釈を打ちだした。
     彼によれば、マルドゥクとティアマトの戦いは、かつて太陽系で起きた大規模な天体衝突、そして太陽系10番目の惑星「ニビル」の存在を示しているというのだ。

    神話で語られたティアマト(左)とマルドゥク(右)の戦い。ティアマトに勝利したマルドゥクによって天地が創造された。

    太陽系の姿と歴史を知っていたシュメール人

     シッチンの解釈によれば、アプスとティアマト以下、順番に誕生した神々はいずれも太陽系の惑星を表している。アプスは太陽、ムンムは水星、ラフムは火星、ラハムは金星、アンシャールは土星で、キシャールは木星となる。アヌは天王星であり、エアは海王星である。ティアマトもまた、当時存在した惑星である。またこのときは地球も月もない。
     しかしそこにマルドゥクという惑星が侵入してきた。ティアマトにはマルドゥクの衛星が二度にわたって衝突したため、ティアマトの一部が彗星群となり、さらに本体もふたつに引き裂かれて、そのひとつが地球、他方は小惑星帯となった。
     そして、ティアマトの衛星であったキングゥは月となり、マルドゥクによって軌道を乱された土星(アンシャール)の衛星ガガが冥王星になった。

     さらにシッチンは、マルドゥクという名はバビロニア時代になってからの命名であり、バビロニアに先行するシュメール人はこの惑星をニビルと呼んでいたとする。
     このニビルは、3600年という長い公転周期を持つ惑星であり、月や太陽も惑星に含めていた古代シュメール人の考えではこれが第12番惑星となるが、1976年当時の惑星の数え方に従えば第10番惑星となる。

    シュメールの神々を描いた円筒印章。左側にいるふたりの人物の間に太陽系と惑星ニビルが表されており、古代シュメール人が宇宙に関する知識を持っていたことを物語っている。

     シッチンは、シュメール人が天王星や海王星、冥王星だけでなくニビルの存在を知っていた証拠として、『エヌマ・エリシュ』のほかにもさまざまな遺物や文書を持ちだし、さらにニビルから来た宇宙人「アヌンナキ」が遺伝子操作を行ってわれわれホモ・サピエンスを生みだし、文明をもたらしたと主張する。
     アヌンナキとは、メソポタミアの神話に登場する一群の神々である。シッチンはこのアヌンナキを、『旧約聖書』の「創世記」に記されたネフィリムとも同視した上で、彼らが人類史に関わってきた歴史を「地球年代記」シリーズ他の著書で詳述する。

    宇宙から来た異星神が人類を創りだした?

     それらによれば、エアという科学者に率いられて50人のアヌンナキが最初に地球を訪れたのは、今から44万5000年前のことである。
     彼らが地球にやって来た目的は金の採掘であった。ニビルでは大気が希薄となっており、熱の拡散を防ぐために金の粉末を散布する必要があったのだ。

    舟で旅をするシュメールの神エア(エンキ)。44万5000年前、アヌンナキたちは金を求めて宇宙から地球へやってきたという。

     最初彼らは、ペルシャ湾の海水を蒸留して金を抽出しようとしたが、それでは充分な量が得られないことが判明し、アフリカ南東部のアブズで地下から金を採掘するようになった。その後もアヌンナキは続々と地球を訪れ、最終的な数は600人になった。
     一方、イギギと呼ばれる別のグループは空中に留まり、地球を結ぶシャトルや彼らの宇宙船、宇宙ステーションを操作した。彼らの人数は300人である。
     しかし、その後エアの父アヌが、もうひとりの息子エンリルを伴って地球を訪れた際、地球の支配権はエンリルに与えられ、エアはアフリカで金採掘作業の責任者=エンキとなった。

    シュメールの最高神エンリル。メソポタミアでは神々を「アヌンナキ」と呼び、宇宙考古学者のゼカリア・シッチンによれば、人類は彼らによって創りだされたという。

     ところが今から30万年ほど前、採掘に従事していたアヌンナキたちが重労働に耐えかねて反乱を起こした。そこでエンキは、ニンフルサグという女性科学者とともに、アヌンナキに代わる労働者として、当時地球に住んでいた原人から遺伝子操作によって人間を生みだした。当初人間に生殖能力はなかったのだが、後にエンキとニンフルサグが生殖能力を与えたため、人間たちの数は増えていった。
     1万3000年前、ニビルの再接近に伴って大洪水が起こることが判明した。エンリルはこれを人間に知らせず、洪水により人間を滅ぼそうとしたが、エンキはその意向に反してある人間に洪水の到来を教え、方舟を準備させたことで、人類は滅亡を免れた。この人物の名はシュメールの洪水伝説ではジウスドラ、『旧約聖書』ではノアとされている。

     その後もアヌンナキはメソポタミアだけでなくエジプトや南北アメリカでも神として君臨しつづけるが、そのうち彼らの間で権力争いが起こり、人類をも巻きこんだ核戦争でシュメールの文明は滅びてしまった。
     この戦いで宇宙ステーションや宇宙基地も破壊されたが、アヌンナキはその後も神として人類の歴史に干渉しつづけている。

     以上が、世界的ベストセラーとなった一連の著作でシッチンが述べていることである。

    エンキとともに人類を創りだした女神ニンフルサグ。

    時代とともに進化するニビルと異星神の仮説

     こうしたシッチンの主張については、正統派の考古学者や天文学者から多くの批判がなされていることも事実だ。たとえば人類の創世については、ほかにも異なる内容の神話が残されており、シッチンがニビル存在の根拠とした『エヌマ・エリシュ』にも、キングゥの首をはねてその骨と血から人間が創られたという別ヴァージョンが記されている。

     また、ニビルらしき天体の存在も、今のところ確認されていない。
     シッチンが最初の著作を発表した1976年当時は、太陽系の惑星の数は9とされていたが、2005年以降、冥王星に匹敵する大きさの天体がいくつも発見されたため惑星の定義が見直され、現在惑星の数は8となっている。
     もし古い定義に従って新発見の冥王星型天体も数に入れるなら、「惑星」の数は10や12どころではなくもっと多くなるはずだが、シッチンが指摘する古代メソポタミアの文書にはこうした天体に関する記述は見られないようだ。
     新しい定義にあてはまる未知の惑星「惑星X」なるものも理論上想定されてはいるが、その公転周期はシッチンのいうニビルより遙かに短い。

    海王星よりも遠い軌道を公転していると考えられる「惑星X」の想像図。この惑星とニビルを同一視する考えもある(写真=ESO/Tom Ruen/nagualdesign)。

     太古の昔、宇宙人が地球に来訪して文明をもたらし、世界中の神話や伝説に残る神とは宇宙人のことだったという主張も、「古代宇宙飛行士説」、あるいは「宇宙神説」では定番といえるものだ。
     シッチン本人も、この分野の先達であるエーリッヒ・フォン・デニケンの影響を認めている。さらにこうした宇宙人が人類を創りだしたという説も、ラエルことクロード・ボリロンがシッチンに先駆けて述べていた。

     つまるところシッチンの主張は、従来の宇宙神説を土台にして独自のシュメール語解釈を加え、宇宙人をシュメール神話のアヌンナキと特定し、独自の年代設定を施したところに特徴があるといえよう。
     こうした宇宙神説はまた、『旧約聖書』や世界各地の神話が古代に実際に起きた事件を表していると主張することも多い。この意味では「創造論」の一形態に分類できるかもしれない。
     ともあれシッチンが主張した惑星ニビルと異星神アヌンナキは、今や超常世界に確固たる地位を占め、大きな影響を残している。

    古代マヤ文明の暦に関連して、2012年12月に人類が滅亡するという予言が世間を賑わせていた際、その原因としてニビルの地球接近を指摘する声もあった。

     謎の白装束集団として日本で社会現象ともなった「パナウェーブ研究所」は、2003年5月に第10番惑星ニビルが地球に接近して人類が滅亡すると述べたことがある。同じような主張は、2012年のマヤ暦終了時に人類が滅亡するという予言が次々と現れたときにも繰り返された。
     アヌンナキの一部が現在も人類史を動かしているという部分は、陰謀論とも結びついて、アヌンナキこそ人類を陰で支配するレプティリアンであるとか、アヌンナキが人類とは別にレプティリアンやグレイを創りだしたと主張する者も現れている。
     シッチン本人が、アヌンナキは人間型宇宙人であると述べていること、また彼の年代記に従えば、ニビルが次に接近するのは西暦3400年ごろになることを考えると、今やニビルとアヌンナキにまつわるストーリーは、シッチン本人の思惑を遙かに越えて展開しているといえよう。

    ●参考資料=『地球人類を誕生させた遺伝子超実験』(ゼカリア・シッチン著/ヒカルランド)、『謎の惑星「ニビル」と火星超文明(上・下)』(ゼカリア・シッチン著/学研)、『世界最古の物語〈バビロニア・ハッティ・カナアン〉』(H・ガスター著/現代教養文庫)/他

    羽仁 礼

    ノンフィクション作家。中東、魔術、占星術などを中心に幅広く執筆。
    ASIOS(超常現象の懐疑的調査のための会)創設会員、一般社団法人 超常現象情報研究センター主任研究員。

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