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正解は「D:富士王朝」
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事故物件住みます芸人・松原タニシが「超人」を目指すシリーズ開始! 初回のテーマは「中井シゲノ」。中編をお届け。
滝寺での神秘体験以来、シゲノのもとには話をきいた村人が次々と押し寄せるようになった。その間もシゲノは滝行を続け、ようやく我が家に帰ったのは白高の神との出会いからすでに10ヶ月が経った頃だった。
その後、シゲノは3人目の子を授かるが、2年後に再び大きな悲しみに見舞われる。夫が交通事故にあい他界してしまったのだ。
このとき、シゲノはこれまでの27年間の人生全てが、神に与えられた運命だったのだと達観した。失明、その回復、そして夫の死。全ては白高の神が、自分をオダイにするために経験させていることなのだと。
とりわけ夫の死は、「神に仕える身に夫はいらぬ」との神の意志だと悟ったのである。
シゲノはその後も修行を続け、オダイとしての能力を研ぎ澄ましていった。シゲノが降ろした白高の神の言葉は多くの人たちの悩みを解決し、その手が触れると病は治る。評判が評判を呼び、救いを求めシゲノのもとを訪れる人はさらに増えていった。
しかし、当時の田舎の村では、シゲノのような「未亡人」はさまざまな偏見や圧力にさらされた。そして何よりも大きな問題となったのが、大叔母ヤエの後継者をめぐる村内での軋轢だった。
ヤエの跡目を正式に受け継いだのは弟子のひとりだったのだが、神を降ろし、その言葉を伝えるオダイとしての能力を強く継承したのはシゲノだった。組織としての後継者と、白高の神が降りたシゲノという「ふたりのオダイ」がいる状態が、村の人々の間に対立を生んでしまったのだ。
ちょうどそんな頃、シゲノは滝行の最中に白高の神から「大阪にいって紀伊国の玉姫大神を求めよ」との「夢のお告げ」を授かる。
「夢のお告げ」とは、シゲノ独特の憑依状態をあわらす表現だ。夢のお告げを受けているときは周りにあるものが一切わからなくなり、街中で銭湯のそばを通ったときに窓から聞こえてくるような音で「お告げ」が聞こえてくるのだそうだ。
神から与えられたのは「玉姫大神を求めよ」との言葉と、その神を祀る場所のビジョンだけ。シゲノは翌日には奈良から大阪に直行し、玉姫探しの旅をはじめた。しかし、めぼしい場所をあちこち回ったものの、玉姫は容易には見つからない。疲れ果てたシゲノは、現在の天王寺区にある一心寺という寺の石段で倒れ込んでしまった。
ところが、座り込んだ石段で、ふと視線を向けた向かいの神社をみてシゲノは直感した。白高の神が与えたビジョンはここだ!と。
その神社、安居天神の境内に入ってみると、そこには確かに玉姫稲荷大明神とかかれた灯篭があった。そしてシゲノは、見えないはずの右目でそこに白蛇の姿をみたのである。
神社の宮司に経緯を説明すると、玉姫稲荷はもともと和歌山から流れてきた人が祀っていたものだが、今は無住状態だから、とその管理を譲り受けることになった。
こうして安居天神の境内に道場を開くことができ、玉姫稲荷という新たな守り神と大阪での拠点を得たシゲノは、活動の場を大都市大阪に移してさらにその名を知らしめていくことになるのだ。
大阪に道場を持ったことにより、シゲノのもとには村にいた頃よりもさらに幅広い多くの人たちが訪れるようになった。シゲノはどんな悩みでもたちどころに言い当ててしまうと評判になり、助言を求める人や、病気に悩む人が絶え間なくやってくる。
またシゲノが地位や財産に関係なく、どんな立場の人でも分け隔てなく接したことも多くの人が集まる理由のひとつだった。
激動の戦時下を乗り越え、さらに新たな信者を増やしたシゲノの一団は「玉姫教会」となり、昭和23年(1948)にはついに全国の稲荷総本社である伏見稲荷神社から「伏見稲荷大社天王寺支部」の肩書きを正式に認められる。伏見稲荷の公認を得てオダイを名乗れることになったのだ。
しかし、大阪を拠点にしてからも、奈良の滝寺はシゲノにとって大切な行場であり続けた。団体が大きくなるのにあわせて滝寺周辺に神々を祀る塚なども整備し、教会が伏見稲荷の公認を得たのちには、滝寺に道場を建立。
自身のオダイとしての原点の地である滝寺は、シゲノの2大活動拠点のひとつ「白高大神」となったのだ。
だが、これほどに団体が大きくなっても、シゲノは一切野心を持つことがなかった。戦後に数多くつくられた新興宗教のように自らが新たな教祖となることもじゅうぶんに可能だったが、シゲノは独立した教団を立てることも、教義をマニュアル化することもなかった。
あくまでも白高の神と出会ったころのまま、神を降ろしそのことばを伝えるオダイとして救いを求める信者たちとつながっていたのだ。
昭和63年(1988)、白高大神の滝で修行していたシゲノは、白高の神から「オダイはあと3年。それ以上の命の保証はできない」とのお告げを受ける。そして3年後、神の言葉どおりに平成3年、89歳で息をひきとるのである。
一心に神を信じ、目に見える世界と見えない世界の橋渡し、神々と人間のあいだを取り持つ媒介としての人生を全うしたのが、超人・中井シゲノという人物だったのだ。
シゲノの死後、信者たちは安居天神の道場を立ち退いて滝寺の玉姫道場(白高大神)を拠点に活動を続けたが、組織化が行われていなかった教会はやがて解散状態へ。滝寺の行場も正式に廃神社となり、心霊スポットとして扱われるようになってしまったのだ。
それが今の「白高大神」なのである。
安居神社の境内には、いまでもシゲノの玉姫道場の痕跡が残っている。
現在の宮司さんに話を聞いてみたところ、子どもの頃にはまだ道場が現役で、境内でシゲノに会うこともあったという。シゲノには、厳格で怖いおばあさんとの印象が強く残っているという。
*参考文献
『神と人のはざまに生きるー近代都市の女性巫者』(アンヌ・ブッシィ著、東京大学出版会)
松原タニシ
心理的瑕疵のある物件に住み、その生活をレポートする“事故物件住みます芸人”。死と生活が隣接しつづけることで死生観がバグっている。著書『恐い間取り』『恐い旅』『死る旅』で累計33万部突破している。
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